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低栄養対策に栄養と運動のコンビネーション(前田 圭介)

老年栄養という話題

 高齢者の栄養問題は若い人の栄養問題と少し異なっていることが話題になっています。従来、栄養と聞けば「健康増進のためのバランスの良い食生活」「持病の治療に最適な特別な配慮をした食事」「栄養素サプリメントで病気知らず」のようなイメージがありました。確かにこのような側面は栄養の一部分としてよく知られています。ほとんどの場合、栄養といえば食事または栄養素を指して語られてきました。

 一方で、高齢者の栄養問題は食事や栄養素だけの話ではないようです。老化に伴う栄養状態の悪化、疾病が引き起こす低栄養、低栄養が引き起こす新たな疾病や障害、食べる機能の問題、フードアクセスや調理など食事を取り巻く問題、食行動パターンの変化、社会的側面の変化など、若い人にはあまり問題にならないことが高齢者には見られます。

 特に、栄養状態の悪化(低栄養)は近年注目されています。我々が実施しました入院患者さんの栄養不良調査では、70歳未満の人の11%が低栄養と診断されたのに対し、70歳以上の高齢者では26%が低栄養と約2.5倍の違いがありました(図1)。また、4割を超える高齢者が低栄養または低栄養リスクを抱えていることもわかりました。

図1 栄養状態の割合

低栄養対策は食と運動から

 低栄養とは、栄養状態が悪いもののうち肥満ではないものを指します。栄養状態を良好に維持できる栄養量(栄養素やエネルギー量)に比べ、実際に摂取し体内で利用される栄養量が下回り続けることによって生じる代謝異常です。様々な理由から低栄養は生じえます。

 多くの場合、加齢や疾病に伴う栄養素利用効率の低下や摂取量不足に関連しています。低栄養対策に画一的な答えがあるわけではありません。しかし、重要な視点は食事と運動であるといえます。


食事のエネルギー・たんぱく質

 低栄養の予防や改善には、バランスの良い食事というよりは「十分な食事」という考え方が大切です。わが国では「高齢者は粗食が良い」「高齢者は食べる量を減らすべきだ」と考える風習が以前はありました。加齢だけでも栄養状態は徐々に悪くなりますので、食事をお粗末にするとさらに問題が生じやすくなります。近年では、「高齢者こそちゃんと食べよう」という考え方が主流になり始めています。

 高カロリー・高たんぱく質の食事を特にお勧めします。細胞レベルで考えますと、人体の生物学的機能を維持するためにエネルギーが必要です。細胞内のタンパク質合成が皮膚・骨格・その他組織の構造や機能構築の根源ですが、このタンパク質合成はエネルギーを最も消費することが知られています。十分なエネルギーなくしてタンパク質合成が成り立たないのです。

 また、タンパク質合成を促進するために、合成するタンパク質の材料として食事性のたんぱく質が必要です。特定の微量な栄養素にこだわることより、高カロリー・高たんぱく質の食事や経口栄養補助食の摂取を第一の低栄養対策と考えるとよいでしょう。


栄養補助と運動のコンビネーション

 栄養摂取単独だけで低栄養対策が成り立つわけではありません。生活機能を落とさないまたは筋肉を衰えさせないような栄養と運動の複合的なアプローチが重要視されています。確かに、身体活動に乏しい寝たきり状態の方にしっかりと人工栄養をしても、栄養状態や生活機能をあまり改善できません。栄養摂取単独で低栄養対策が成り立たないことを示唆しています。

 経口栄養補助食品と運動の複合的な介入をみた質の高い研究によると、高齢者のフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋減弱症)の悪化を防ぐことが報告されています。普段の食事に加えて、エネルギーとたんぱく質補給ができる経口栄養補助食品を摂取すること、活動的な生活習慣をすることは、低栄養に対する根拠のある非薬物療法と考えられます。

 運動はさまざまな運動パターンを組み合わせることをお勧めします。早歩きや自転車、スイミングのような有酸素運動、立ち上がりや階段昇降などの抵抗運動、片足立ちや継ぎ足歩行のようなバランス訓練、筋のストレッチや関節可動性を増すような体操などを取り入れましょう。


筆者

愛知医科大学栄養治療
支援センター特任教授
医学博士 前田 圭介

自己紹介

 老年科医です。老年科は人生の終盤を担当しますので、疾病を診るだけでなく生活もみる診療科です。疾病治療や生活支援の中核として栄養は最重要ですので、私は栄養をみるのが得意です。

患者さまとどのように接しているか

 疾病や生活の問題そしてその対応について的確にお伝えし、患者さまがどのような疾病と生活を望んでいるのか聞く姿勢を大切にしています。

経歴と現職

1998年熊本大学医学部医学科卒。大学病院・市中病院で経験を積んだ後、栄養と摂食嚥下障害の医療と研究を専門の道として定めました。2017年愛知医科大学講師、2019年同准教授、2020年国立長寿医療研究センター老年内科医長。2023年愛知医科大学栄養治療支援センター特任教授(現職)。

好きな言葉

Live Long and Prosper(長寿と繁栄を:バルカン人)
徳は孤ならず必ず隣あり(論語)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

好きなものを食べる喜びがポジティブ心理として健康全般に繋がっていると感じます。