mealtime

最新版!アルコールとの上手な付き合い方(吉本 尚)

 私は長年、医師として「人間はどうやったらアルコールとうまく付き合っていけるのか」について取り組んできました。最近は「アルコールは少量でも健康リスクがある」という研究報告が相次ぎ、世界的に飲酒スタイルの変化が生じてきています。日本でも昨年、厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表され、「自分らしい飲酒スタイルを見直そう」という機運が高まっています。本稿では、私自身の臨床・研究経験を踏まえ、だれでも今日から始められる3つのステップをお伝えします。

1)純アルコール量を把握する ―― まずは自分の現状確認を

 アルコールとの上手に付き合うための第一歩は現状把握です。飲酒をする場合には、お酒に含まれる純アルコール量(g)を意識することが重要です。
 お酒に含まれる純アルコール量は以下の式で算出できます。

摂取量(ml) × アルコール濃度(度数/100)× 0.8(アルコールの比重)

例: ビール500ml(5%)の場合の純アルコール量 500(ml) × 0.05 × 0.8 = 20(g)
以下の図のような形で、普段良く飲む種類のものを覚えておくと便利です。

表1 おおむね純アルコール量20グラムの飲酒量の例

 この純アルコール量を1週間ほど記録してみましょう。数値化すると「思ったより多かった」「アルコール度数が低かったらよい数字が出た」「飲まない日を入れよう」といった気づきが必ず得られます。これまでの研究でも、純アルコール量と頻度の「見える化」だけで平均8〜10%の減酒効果が出ています。

2)自分自身の飲酒許容度を理解する―― 性別、年齢、アルコール体質などを理解する

 健康に配慮した飲酒に関するガイドラインでは、年齢、性別、体質といった個人差の配慮を重視しています。若年者もしくは高齢者は肝機能や代謝能が低下し、脳への影響が大きく、同じ量でも酔いやすく回復しにくくなります。高齢者では過度の飲酒が筋肉量の減少を早め、サルコペニアやフレイルを招いて転倒・骨折の危険を増大させる点にも注意が必要です。とくに65歳以上ではアルコール分解酵素活性も低下するため、同量でも血中濃度が高止まりしやすく、翌日の低血糖や転倒リスクが上がることが報告されています。

 また女性は体水分量が少なく血中アルコール濃度が高まりやすいため、男性より少ない量でも臓器障害や骨粗鬆症の進行リスクが高いとされます。日本人の約4割は、ALDH2という酵素が働きにくく、少量の飲酒で顔が赤くなる体質です。私は若年層に唾液でできる遺伝子検査と解説パンフレットをセットで提供し、体質に合わせた飲酒のポイントについて具体的に示したところ、3か月後の飲酒量が平均18%減少しました。「周囲の人が飲めても自分は無理しない」などと線引きできると、飲み会シーンでも主体的に自分なりの飲み方を選択できるようになります。体質を知ることは行動変容への強力な原動力です。

3)減酒を無理なく始める ―― 行動を変えるコツ

 アルコールは少量でも健康リスクがある可能性があるという最近の研究成果を踏まえると、飲酒するにしても今よりも少し少ない純アルコール量にすることが望まれます。

 すでに述べた記載した純アルコール量を記録することや、アルコール体質を知ることは減酒にもつながります。記録には「飲酒日記」を印刷して用いたり、webツール(例:飲酒量レコーディング)やアプリ(例:減酒にっき、うちなー節酒カレンダー改訂版)などを活用することも可能です。

▶飲酒日記
https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/record-alcohol-male-diary-2.pdf
▶飲酒量レコーディング
https://www.ab-drinkingrecord.jp/
▶減酒にっき
https://gen-shu.jp/app/
▶うちなー節酒カレンダー改訂版
https://alc.okinawa.jp/

 アルコール体質を知る遺伝子検査なども、比較的手軽に受けられるようになってきました。「アルコール体質検査」などで検索してみるとよいでしょう。

 ノンアルコール飲料、低アルコール飲料を取り入れるのもよいでしょう。我々が2023年に行った介入研究では、過剰飲酒をしている方にノンアルコール飲料(ビールテイスト飲料やカクテルテイスト飲料など)を自宅へ郵送したところ、純アルコール摂取量が平均30%減少しました。ポイントは「ノンアルを1本」置換すること。仕事後の1杯目をノンアルコール飲料、低アルコール飲料に変えるだけで、翌朝の体調が良くなるという声もよく聞きます。

 こういった変化は無理なく継続することが重要とされています。できそうなことから少しずつ試してみていただければ幸いです。

筆者

自己紹介

筑波大学附属病院の総合診療科外来やアルコール低減外来、北茨城市民病院附属家庭医療センターで主に家庭医療や総合診療を専門とした外来業務を行っています。現在の研究領域は主に「飲酒と健康」に関してですが、健康で幸福なライフスタイルを追及することがライフワークです。

患者さんとどのように接しているか

初めて会う方であれば、どのような声の高さで話しかけると最も心地よいだろうか、どのような単語を使うと話を聞いてくれるだろうか、などと考えながら会話をしていますが、何度もお会いしている方であれば、おおむね自然体で接しています。

経歴

2004年、筑波大学医学群医学類卒業後、日本学術振興会 特別研究員(PD)、筑波大学にて2017年博士(医学)を取得。
経て2018年より現職(筑波大学医学医療系地域総合診療医学准教授)。2022年 筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター長

好きな言葉

中庸

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

飲酒量が多い方はどうしても栄養が偏りがちになりますし、筋肉量の減少、骨粗鬆症なども生じやすいです。ミールタイムのパワーアップ食は、たんぱく質をしっかり摂取しながら食物繊維やカルシウムなどの栄養素を補える、管理栄養士が監修した健康食ですので、気になる方はお試し版を体験してみるのも良いでしょう。