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よく食べ良く動き、フレイルを予防しよう(中村 敏子)

フレイルの診断

 フレイルとは、加齢に伴う様々な臓器の機能変化や予備能力の低下により、外的なストレス(軽度の感染症や事故、手術などによる侵襲)に対する脆弱性が更新した病態である。図に示すようなフレイルサイクルが起こると、体のみならず、心・社会性も脆弱となっていく(図1)。フレイルの診断には、比較的急な体重減少や、歩く速度の低下、運動不足、記憶の低下や疲労感などが用いられる。この中で、体重減少や歩行速度の低下には、下肢筋肉量の低下の関与が大きいと考えられる。

図1 フレイルサイクル

骨・関節・筋肉などの老化を防ぐ=フレイル予防の近道

 高齢になると、何らかの支援や介護が必要になる場合があるが、そのきっかけとなる病態には、脳血管障害や骨折・関節疾患、認知症の関与が多い。生活習慣病の治療とともに、骨・関節・筋肉などの老化を防ぐ取り組みが重要である。

人は食べることにより生命がつながり、動くことで社会ともつながっていく。よく食べ、良く動き、自分らしい日常生活を行えることが続くことは、多くの方が望む事と考えられる。その為には、どのように食べ、どのように動くかを、ある程度の年齢になれば考え行動することが望ましい。女性であれば、少なくとも、閉経から更年期の時期には、肥満や痩せを避けるような食生活・適度な運動を介することが望ましいであろう。

全ての年代において、生活習慣病全般への取り組みは重要であり、この小文で概説することは難しいが、少なくとも、肥満を避け、過剰なカロリー・塩分・アルコール摂取を控えることや、適度な運動は肝要である。食品で摂取が進められるものとしては、タンパク質、食物繊維、ミネラル類、低脂肪乳製品などであろう。

食事のポイント

 2013年にユネスコ無形文化遺産に指定された和食は、塩分が多いことに問題はあるものの、魚介類、海苔、わかめ、海藻類の佃煮など、大豆や旬の野菜・根菜、みそ・しょうゆなどの発酵食品と、品数も多く良質な食事である。日本の素晴らしい伝統である和食を基本に、洋風な味付けで減塩し、オリーブオイルや乳製品を組み合わせていくと理想的とも考えられる。
また、健康長寿延伸に有効であると言われているものに、地中海食がある。抗酸化作用のある赤ワインを飲むことだけでなく、不飽和脂肪酸(魚介類)、豊富な野菜や果物、豆・ナッツ類、全粒粉で作られたパンやパスタ、オリーブオイルなどを多く摂取し、塩分と飽和脂肪酸を減らし、ミネラルや食物繊維も豊富である。各自の嗜好に沿った形で、これらの食品を組み合わせて摂取することが望ましい。

 骨・関節・筋肉の老化を防ぐ観点からは、適切な体重を保持することが大切である。痩せすぎると骨の脆弱や筋肉減少を招き、肥満は関節への負担が大きい。そこで、適正なカロリー摂取を行いつつ、乳製品や小魚などでカルシウムの摂取や、魚や干しシイタケなどでビタミンD摂取、緑黄色野菜や納豆などでビタミンK摂取を行っていく。ビタミンDの活性化のためにも、適度な日光浴が望ましい。保存食にはリンが含まれている場合があり、過剰な摂取は望ましくない。また、食塩・カフェイン・アルコールの過剰摂取も望ましくない。

骨・関節・筋肉を保持するためには、食事のみならず、適度な運動が重要である。少し汗ばむ程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)を行うと骨密度は上昇し、深呼吸することで自律神経を整えることも大切である。筋肉に適度な負荷をかけた運動を繰り返し行う運動はレジスタンス運動といわれ、筋肉肥大につながるため、有用である。

まとめ

 健康への正しい知識を取り入れ、よく食べ、良く動くことは、自分らしい日常生活を送ることにつながるので、すべての方々に取り組んでいただきたいと考える。

筆者

自己紹介

現在は、医療法人の透析クリニック院長として勤務しています。それまでは、大学病院、民間病院、国立病院で勤務医として働き、栄養学部で教授として勤務していました。内科系、特に生活習慣病や腎疾患、循環器系疾患を数多く経験しました。透析患者さんは高齢の方が多くなっており、合併症が多く、フレイル状態です。これまで医師として経験してきたことを活用し、透析患者さん特有の病態(カルシウムリン代謝など)を学びながら、取り組んでいます。

患者様とどのように接しているか

「明るく、優しく、正しく」を忘れず、その時の状態を診て、最善を尽くしています。安全・安心・安楽な透析医療を心がけています。各職種が互いを尊重し、有機的に協同することを目指しています。私自身も、穏やかに優しく接することができるよう、心身を整えるよう、努めています。

経歴

  • 昭和56年6月〜62年3月 大阪市立大学医学部付属病院に臨床研修医として勤務し、大学院を経て医学博士取得
  • 昭和62年4月〜63年10月 淀川キリスト教病院、内科医
  • 昭和63年11月〜平成2年6月 メレルダウ研究所に研究員として留学
  • 平成2年7月〜5年7月 大阪市立大学医学部付属病院、民間病院に勤務
  • 平成5年7月~29年3月 国立研究開発法人国立循環器病研究センターに勤務(医師、医長)(高血圧腎臓部門)
  • 平成29年4月~令和5年3月 関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 教授
  • 令和5年4月~現在 医療法人藤井会深江クリニック 院長

好きな言葉

足下に泉あり

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

塩分が少なく、タンパク質が多いものであり、血圧管理やフレイル予防に有用と思います。高血圧で筋肉量の少ない方には、特に進めたいです。