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食事でサルコペニア・フレイルを予防しよう(下方 浩史)

健康寿命を伸ばそう

 健康寿命は世界保健機構(WHO)が提唱した健康指標で、良好な健康状態を維持していると期待できる年数を0歳から数えて求めた期間です。フレイル・サルコペニア等で寝たきりや車椅子生活などとなり、支援や介護を必要とするような期間を平均寿命から差し引いた年数とも言えます。

 日本人の平均寿命は年々長くなり、高齢者数が増加する一方で、少子化は進み年間の出生数は大きく減少しています。高齢者の割合は今後も増加をし続ける一方で、若い労働力が減少していくため、今後の日本は高齢者が支えていかねばならならなくなります。しかし、高齢になるほどフレイルやサルコペニアの人たちの割合が増え、働くどころか生きていくためには他の人たちの支えが必要になります。高齢化する日本の社会で、介護や支援を要するような高齢者を減らし、健康寿命を延伸していくことが急務となっていいます。

低栄養を防ごう

 フレイル、サルコペニアとなる大きな要因は低栄養です。わたしたちの身体は、毎日食べる食事からできていて、食事が足らなくなれば、身体の維持に大きな支障となります。十分なエネルギー摂取量に加えて、特に重要なのはたんぱく質です。たんぱく質の摂取不足は筋たんぱくの合成低下を招き、サルコペニアの要因となります。たんぱく質の合成能の低下は、たんぱく質同化抵抗性とも言われ、特に加齢によって生じやすいと言われています。同化抵抗性により、高齢者では筋たんぱく質の合成に若年者よりも多くの血中アミノ酸が必要となります。筋肉は運動によって分解され、血中アミノ酸から合成されるという、分解と再生を絶えず繰り返しています。筋肉を合成するためには、たんぱく質を朝、昼、夕と1日3食摂取し、血中アミノ酸量を一定量確保する必要があります。夕食に十分な量のたんぱく質を摂取しても、朝食と昼食でのたんぱく質摂取量が足らなければ、日中のたんぱく質の分解が促進して筋肉量は低下してしまいます。

 高齢者では筋肉量を維持するには体重あたり1日1.0~1.3g程度のたんぱく質摂取が必要です。たんぱく質からのアミノ酸成分のうち、分岐鎖アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンが筋たんぱく質合成に必要です。特にロイシンには、筋たんぱく質の分解を抑制し、合成を促進する作用があります。サルコペニアの予防や治療のためには、分岐鎖アミノ酸を1日12g、このうちロイシンは1日6gが必要と言われています。さらに3食で均等にロイシンを摂取するためには、1食2gのロイシンを摂取することが必要です。朝食でロイシンを2gとるには洋食では、牛乳1本(ロイシン0.6g)、食パン1枚(0.4g)、卵2個の目玉焼き(1.4g)で合計2.4gとなり、和食では、ごはん1膳(ロイシン0.3g)、納豆1パック(0.7g)、目玉焼き(1.4g)でやはり合計2.4gで、ロイシン2gの摂取はそれほど難しいわけではありません。

食欲を維持するためには

 高齢者の低栄養の原因として食欲の減退が重要です。高齢者では高血圧などで減塩を勧められているひとが多いのですが、減塩で味気ない食事では、どうしても食事量は減ってしまいます。厚生労働省による「日本人の食事摂取基準2020」では、食塩摂取量は15歳以上の男性では7.5g/日未満、女性では6.5g/日未満と、一律に定められています。また日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」では1日6g未満までの減塩が必要であるとしています。WHOヘルシー・ダイエット2018の勧告では食塩摂取量を1日5g未満としています。これらから食塩は1食あたり2g前後にすることが必要です。しかし、外食では天ぷら定食が食塩7.1g、とんこつラーメンは7.1g、カレーうどんは6.9gくらいであり、インスタント食品ではカップラーメンで5.5g、カップうどんで6.5gくらいと、食塩摂取推奨量を守ろうとすると一生ラーメンは食べられません。

 2016年に英国ランセット誌に発表された約13万人を対象としたPUREスタディの論文で、1日12g程度の食塩摂取が死亡リスク、心血管疾患発症リスクが最も低く、食塩摂取量が少ない人たちではむしろリスクが高くなっていたとする結果が報告されています。2018年には同じランセット誌で、食塩摂取量が1日12gくらいまでは、食塩摂取量が高い国ほど健康寿命が長いとの報告もされています。また、2017年の都道府県別平均寿命をみると長野県は男性は2位、女性は1位でしたが、2016年の国民健康・栄養調査の食塩摂取量は、長野県は男性3位、女性1位でした。その一方で、長野県の野菜の摂取量は男女ともに第1位でした。野菜や果物に多く含まれるカリウムは腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制して尿中への排泄を促進するため、血圧を下げる効果があるのです。また、果物・野菜の食物繊維はナトリウムを吸着して体外に排泄させます。低栄養の危険がある高齢者には無理に減塩を勧めず、野菜や果物を多く摂ってもらうことで、食事量を増やし、良好な栄養状態を保ってもらうことが重要でしょう。ただし、腎不全などでカリウムの制限が必要な場合などには注意が必要です。

まとめ

 フレイルやサルコペニアは健康寿命の延伸を妨げる重要な要因です。その予防には、十分に食事をとり、たんぱく質をとること、食欲を保つためには、無理な減塩をせず、野菜や果物からカリウムをとることが重要でしょう。

筆者

名古屋学芸大学大学院
栄養科学研究科 教授
医学博士 下方 浩史

自己紹介

日本老年医学会の老年病専門医、日本疫学会の上級疫学専門家です。国立長寿医療研究センターで長年にわたって疫学部長として、老化・老年病の研究を行ってきました。

患者様とどのように接しているか

どんな患者さんに対しても敬意を持って、ひとりひとりの生き方を大事にするように接しています。

経歴と職歴

1977年 名古屋大学医学部卒業
1982年 名古屋大学大学院博士課程満了
1982年~ 名古屋大学医学部老年科医員
1986年~ 米国国立老化研究所(NIA)客員研究員
1990年~ 広島大学助教授
1996年~ 国立長寿医療研究センター疫学研究部長
2013年~ 現職。名古屋学芸大学大学院栄養科学研究科教授

好きな言葉

老いて輝く。六十代までは修業、七十代でデビュー、百歳現役

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

バランスの取れた栄養摂取、特に高齢者で不足しがちなタンパク質を摂取するために役立ちます。