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ちょっとホネの折れない骨粗鬆症の話(永幡 研)

 骨は体を支える大切な役割を担っています。しかし、加齢とともに骨がもろくなる「骨粗鬆症」になると、骨折のリスクが高まります。骨粗鬆症を予防し、丈夫な骨を維持するには、食生活での工夫が欠かせません。

 骨粗鬆症についてこんなイメージありませんか?本稿では、骨粗鬆症の診断と治療、予防のための食事のポイントをわかりやすく解説します。

1.骨粗鬆症は高齢者の問題だけ?
  骨粗鬆症は確かに年齢と関連していますが、若い人や中年の人でも影響を受けることがあります。特に運動不足や栄養不良、あるいは特定の薬の副作用など、さまざまな要因がリスクとして関連しています。

2.女性だけが影響を受ける?
 骨粗鬆症は女性によく見られると言われていますが、男性も同様に罹患する可能性があります。女性は閉経後に急激な骨密度の低下が起こる傾向があるため、一般的に女性の方が高いリスクを持っていますが、男性も年齢と共に骨粗鬆症のリスクが増加します。

3.骨粗鬆症は無症状?
 骨粗鬆症は初期段階では無症状であることが多く、骨折などの症状が現れるまで自覚症状がないケースが多いため、『サイレント・ディジーズ』と呼ばれています。

4.骨粗鬆症は運動すれば防げる?
 適度な運動は骨粗鬆症の予防に一定の効果がありますが、単独では不十分です。運動に加えて、栄養バランスの取れた食事と、喫煙や過度の飲酒の回避など、総合的な生活習慣の改善が重要となります。

5.骨粗鬆症は遺伝的な要因だけによるものだけ?
 遺伝的な要因は骨粗鬆症のリスクに影響を与える可能性がありますが、一般に生活習慣や環境の要因のほうが重要です。遺伝的にリスクが低くても、不適切な生活習慣を続けることで骨粗鬆症のリスクが高まることがあります。

骨粗鬆症とは

 骨粗鬆症は、骨の密度が低下し骨がもろくなる病気です。健康な骨は外力から身体を守る役割がありますが、骨粗鬆症では骨量が減少し骨密度が低下するため、特に脊椎骨折や大腿骨近位部骨折のリスクが高まります。
 骨折に伴う日常生活動作の制限、慢性的な痛み、うつ病などの精神的問題は、患者の生活の質を大きく低下させます。さらに、大腿骨近位部骨折患者の約20%が骨折後1年以内に死亡するという深刻なデータも報告されています 1)。厚生労働省の推計によると、2009年のデータでは日本人の1100万人が骨粗鬆症と推計されています 2)。

診断と治療

 骨粗鬆症の診断には、特殊なレントゲン検査を行い、骨密度を測定します。主に脊椎や大腿骨の密度を評価しますが、施設によっては前腕や足の骨を用いることもあります。骨密度の結果から診断、重症度、治療方針を決めます。骨粗鬆症の治療薬は大きく分けて4種類あります。

●カルシウム剤・ビタミンD剤:
 これらは栄養補助剤で、骨の形成を助けます。

●骨吸収抑制剤:
 骨を溶かす作用を抑制する薬です。代表的なものにビスフォスフォネート系やデノスマブがあります。骨の溶解を抑えることで骨量の減少を防ぎます。

●骨形成促進剤:
 骨の形成を積極的に促進する薬剤です。テリパラチドやロモソズマブなどが該当します。注射薬が多く、重症の骨粗鬆症に使われます。

●選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM):
 骨量の減少を抑制する女性ホルモン様の合成薬剤です。ラロキシフェンなどがこれに当たります。これらの多くの薬剤の中から骨粗鬆症の重症度や患者さんの状態に合わせて、単独または組み合わせて処方されます。

骨粗鬆症予防に必要な食事とは

 骨粗鬆症の予防には、運動に加えて適切な栄養素の摂取が重要です。骨の健康維持には、カルシウム、ビタミンD、たんぱく質、ビタミンK、マグネシウムなどの栄養素が必須です。日本人の食事摂取基準2020では、これらの目標摂取量が設定されています(表)。

 ただ、これらの栄養素を食品のみから摂ろうとすると、困難な場合があります。例えば、カルシウム600mgを摂るには、牛乳1本(200ml)にはカルシウムが160mg程度含まれているので、1日3本は飲む必要があります。また、ビタミンDに関しては、一般的な牛乳や乳製品にはほとんど含まれておらず、卵黄でも1個あたり20~60IU程度の含有量に留まるため、日光に当たることでビタミンDを作ることが重要です。基本は「食事から取る」ことが理想的ですが、実際には食事だけでは不足しがちです。サプリメントの上手な活用も検討しましょう。

骨の健康維持に必要な栄養素を多く含む食品(Adobe Fireflyで作成)

 またリンは、カルシウムとともに骨の形成に重要な働きをしていますが、過剰なリンの摂取は、カルシウムの骨への取り込みを阻害したり、ビタミンDの産生を阻害したりすることで骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。

 一般的には、リンの摂取目標は1日800mg程度ですが、加工食品、レトルト食品、揚げ物、清涼飲料水などにはリンが多く含まれているため、これらの摂取には注意が必要です。

 最後に、食事中の塩分やカフェイン、アルコールの摂取を控えることも重要です。これらの成分は、カルシウムの排泄を促進するため、骨の健康に悪影響を及ぼす可能性があります 3)。特に、過剰な塩分摂取は骨の健康に対するリスクを高めることが示されています 4)。

 毎日のバランスの良い食事作りに気を付けて、健康長寿を目指しましょう。 

引用文献
1:Leibson CL, et al. Mortality, disability, and nursing home use for persons with and without hip fracture: a population-based study. J Am Geriatr Soc. 2002;50(4):689-95.
2:Yoshimura N, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-8.
3: Hasling C, et al. Calcium metabolism in postmenopausal osteoporotic women is determined by dietary calcium and coffee intake. J Nutr. 1992;122(5):1119-26.
4: Devine A, et al. A longitudinal study of the effect of sodium and calcium intakes on regional bone density in postmenopausal women. Am J ClinNutr. 1995;62(4):740-5.


筆者

札幌医科大学附属病院
免疫リウマチ内科
医学博士 永幡 研

自己紹介

 関節リウマチ患者を良くするべく医師になり、まだ道の途上です。膠原病の治療のためにステロイドを使うことも多いため、僕らの科はいわば「骨粗鬆症を作りながら治療している」ので、予防も怠らないように気をつけています。栄養のことも患者さんに理解して治療を進めてもらえると良いと思います。

患者様とどのように接しているか

 痛い、つらいなどの患者さんの具体的な悩みの原因を明らかにして解決できた時がやりがいです。「リウマチ科は患者さんを病気から守るだけではなく生活も守るべき」との恩師の教えを胸に、早く普通の生活に戻ってもらえるよう治療しています。

ご経歴

2014年 旭川医科大学医学部卒業
2016年 旭川医科大学附属病院 膠原病内分泌内科
2017年 帝京大学ちば総合医療センターリウマチ科
2020年 札幌医科大学附属病院 免疫リウマチ内科
2023年 札幌医科大学附属病院 総合診療科(兼任)

専門分野:リウマチ膠原病
日本リウマチ学会専門医、指導医

好きな言葉

外灯というのは人のためにつけるんだよな
わたしはどれだけ外灯をつけられるだろうか
(相田みつを)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

栄養のバランスを考えて食事を自分で用意するのは骨が折れますよね。食事の準備が容易ではない高齢の患者さんにはこのようなサービスを勧めたいと思います。