mealtime

サルコペニア・フレイルを予防する賢い食事術とは?(吉村 芳弘)

「以前とくらべて素食になったかな」

「筋肉が減ったかも」

 70歳くらいになると、こんなことを口にする方は多いかもしれません。フレイルやサルコペニアになると身体的、心理的な衰えにより日常生活に支障がでます。

 健康寿命を縮めてしまう危険な状態ですが、脳卒中や心臓病のように突然、日常生活に大きな支障がでてくるわけではありません。また、がんのように画像診断などでわかるものでもありません。しかも、加齢とともにじょじょに進行するため「歳だから」と見過ごされがちです。

予防のための健診

 日本では40歳から、いわゆる「メタボ健診」の対象です。健診のたびに腹囲を測定されるのが憂うつだという人もいるかも知れませんね。青年期の肥満は生活習慣病の大きなリスク因子ですので、この年代の肥満予防は意味があります。

 一方で、75歳以上の後期高齢者を対象にフレイルの予防に着目した、いわゆる「フレイル健診」が2020年から始まりました。75歳以降はメタボ健診ではなくフレイル健診を受けることになったのです。厚労省の肝いりです。

メタボ対策からフレイル対策へ

 フレイル健診では、きちんと食事を取っているか、体重が減少していないか、筋力が低下していないか、運動をしているか、などをチェックします。後期高齢者になったからといって生活習慣病のリスクがなくなるわけではありませんが、歳を重ねるにつれてフレイルのリスクが高くなるためです。

 誤解を恐れずに簡単に言うと、メタボ対策には「体重が増えないようにしよう」、フレイル対策には「体重が減らないようにしよう」という2つの強いメッセージがあります。この2つのメッセージは正反対のようにもみえますが、いずれにおいても「健康」と「筋肉量の維持」が共通のメッセージとして根底にあります。

 歳をとるにしたがって、痩せている人はちょっとしたケガや病気に対する抵抗力が低下してしまっています。また、筋肉量が減少するフレイルやサルコペニアとなり、要介護や寝たきりのリスクが高まります。
 そのため、「これからはしっかり食べて体重を維持し、筋肉量が減らないようにしましょう」という意識の転換が必要となるのです。いわば、「メタボ対策からフレイル対策へのギアチェンジ」です(図1)。

図1 メタボからフレイル対策のギアチェンジ


 ただし、75歳という年齢はギアチェンジにはかなりギリギリのタイミングだと私は考えています。人によってはすでに手遅れの年齢かもしれません。できればもっと早く、60歳前後からフレイル対策を始めるべきだと思います。

 「人生50年、化天(げてん)の内(うち)をくらぶれば・・・」と好んで詠んだのは織田信長です。平均年齢が50年の時代は「病気=死」でした。そのため、病気にならないよう食べすぎないことがよしとされました。

 しかし、2020年代の現在、日本人の平均年齢は90歳目前であり、まさに人生100年時代に突入しようとしています。人生100年時代では、病気にならないことも大事ですが、病気になったとしても丈夫なカラダを維持して健康にイキイキと生活することが重要です。

食事でしっかりエネルギー摂取

 ギアチェンジのポイントのひとつは、食事をしっかり摂ることです。メタボ対策では「太らないように」と考えて意識的にエネルギー制限をしていたかもしれませんが、歳を重ねると食事量が無意識に減少して、食べたつもりになっても意外に必要な食事を摂れていないことが多くなります。

 特に、糖質制限などの偏った食生活をしていた人は栄養のバランスが崩れがちですので、炭水化物とたんぱく質をしっかりとり、体重や筋肉量を維持(あるいは増加)する意識をもつべきです。ファストフードやスナック菓子などはカラダに悪い代名詞のように言われていますが、適度に脂肪が入っていて高カロリーですので、食欲がないときに食べる選択肢としてよいと思います。

 また、ひとりでいるとつい食事を抜いてしまいがちですので、なるべく家族や仲の良い友人と一緒に食事をする機会をつくりたいものです。高齢の患者さんを診察していると、ひとり暮らしであっても社交的で誰かと食事をする習慣がある人のほうが健康的に長生きする印象があります。

たんぱく質で筋肉強化

 食事で大事なポイントはたんぱく質をしっかり摂ることです。たんぱく質は筋肉を作るための大事な材料です。炭水化物や脂肪をいくら食べても筋肉は太く、強くなりません。高齢者は野菜ファーストよりたんぱく質ファースト。慢性腎臓病などで食事制限が必要な方は注意が必要ですが、そうでなければ朝から肉や魚をしっかり食べましょう。 

栄養補給にMCTの活用を

 食欲がないと感じたときは、中鎖脂肪酸(MCT)もおすすめです。私は病院や施設の患者さんの栄養補給として、軟飯にMCTのパウダーやオイルを混ぜた「熊リハパワーライス」を提供して栄養アップを図っています。MCTを味噌汁やコーヒー、サラダなどに加えてもOKです。ご飯やパンなどの炭水化物は1gあたりエネルギー4kcalですが、MCTは1gあたり9kcalあります。同じ量でも2倍以上のエネルギーが摂取できます。

筆者

熊本リハビリテーション病院
サルコペニア・低栄養研究センター
医学博士 吉村芳弘

自己紹介

 リハビリテーション科医として診療に携わりつつ、栄養サポートチームを通して患者様の栄養管理をサポートしています。最近ハマっていることはランニングです。

患者様とどのように接しているか

 患者様の言外の要望や希望を汲み取りながら、生活機能や生活の質を最大限高めるような医療を心がけています。

経歴

2001年
 熊本大学医学部卒業

2001年
 東京女子医科大学心臓血管外科レジデント

2013年
 熊本リハビリテーション病院リハビリテーション科医員

2014年
 熊本リハビリテーション病院栄養管理部部長

2015年
 熊本リハビリテーション病院リハビリテーション科副部長

2020年
 熊本リハビリテーション病院サルコペニア・低栄養研究
 センター長

好きな言葉

成功とは成功するまでやり続けることであり、失敗とは成功するまでやり続けないことだ(松下幸之助)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

年齢が気になりだしたら食事の基本は高たんぱく食がおすすめです。素食から肉食へ!野菜ファーストからたんぱく質ファーストへ!