心不全に合併しやすい低栄養・悪液質とその対策(小林 隆洋)
増加し続ける心不全
心臓病で亡くなられる方は癌に次いで2番目に多く、中でも特に多いのが心不全です。心不全とは「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とされています。心臓を悪くする原因として心筋梗塞や高血圧、心房細動などの不整脈、心臓の弁の異常などが挙げられます。心不全は高齢になるほど増えるため、高齢化の進行とともに患者数も増加し続けています。毎年新たに20万人以上の方が心不全で入院され1)、今後も10年間は増加し続けると予想されています。
心不全は完治する病ではなく、病状の悪化と改善とを繰り返し、生涯にわたって付き合っていく必要があります。心不全で入院された方のうち退院後1年以内に心不全の悪化で再入院される方は20%以上と高く2)、患者数が多いことと再入院率が高いことなどから多くの医療関係者の手も必要となり、心不全診療にかかる医療費は増加し続けています。
フレイル・サルコペニア対策が鍵
心不全はフレイルやサルコペニアを引き起こす要因であり(図1)、2025年11月に発表された新しいサルコペニアの診断においても、サルコペニアがないかどうか評価が必要な病気として心不全が挙げられています。逆にフレイルやサルコペニアがある場合も心臓病になる危険や心臓病で亡くなる危険が高くなります3,4)。心臓病にならないためにも、心臓病を悪化させないためにも、フレイルやサルコペニア対策が有効となります。

心不全の方は低栄養になりやすく、その割合は33%-46%に及び5)、さらに低栄養を合併した心不全患者さんは低栄養を合併していない場合と比べ死亡する危険が2倍以上高くなっています6)。これほど重要な低栄養ですが、心臓病というと生活習慣病に目が向きがちであるため、医療者を含め低栄養への関心はそれほど高くありません。低栄養になる理由として、フレイルの他に「心臓悪液質」が挙げられています。悪液質は「カヘキシア」とも言われ、以前は癌患者さんの栄養障害として有名でしたが、現在はがん以外でも様々な炎症を伴うような慢性疾患、具体的には心不全や慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)、慢性腎不全、関節リウマチなどによって引き起こされる栄養障害とされています。
「心臓悪液質」とその対策
悪液質とはそれらの慢性疾患に関連して体重が減少し、さらに食欲不振や筋力低下などを伴うものです。心不全は悪化すると肺に水がたまったりむくみを生じたりすることで体重が増えることが多く、一方で心不全が改善する時には貯まった水分が減ることで体重が減少するため、体重が増えることは良くないこと、減るのは問題ないことと意識されがちで、体重減少が心臓悪液質によるものであっても問題視されにくいという側面があります。体重を落とそうとしているわけでもないのに体重が減り始めている場合は、心臓悪液質の状態となっている可能性があり、注意が必要です。
2023年に発表された、初めてのアジア人を対象とした悪液質の診断基準では、体重減少の基準として6か月以内に2%以上の体重減少(体重50kgの人であれば1kg以上減少)もしくはBMIが21kg/m2未満への低下が示されました。BMIは体格を表す指標で、体重を身長(メートル)で2回割ることで計算できます。BMIは22が標準、18.5未満がやせ、25以上が肥満とされます。BMIは22くらいが病気になりにくく最も良いと言われていましたが、65歳以上の方ではBMIが25前後のほうがよく、さらにBMIが低い人ほど危険が大きいことが分かっています。そのため65歳以上では目標のBMIは22~25となっています。心不全患者さんでもBMIが低いほど亡くなる危険度が高いという研究結果が出ています7)。
悪液質はフレイルやサルコペニアと重複する部分が多い概念です。悪液質に対してどのような治療があるのかはまだ研究中ではありますが、体重が少ない、または体重が減ってきた心不全患者さんに対しては、フレイルやサルコペニア対策と同じように、栄養療法と運動療法の併用が勧められます。
栄養療法としては、たんぱく質を十分に摂ることや、必要なエネルギー(カロリー)をきちんと摂取することがとても重要です。肉や魚、卵、乳製品、大豆製品(豆腐など)を心がけて摂るようにしましょう。たんぱく質の必要量は人によって異なりますが、目標体重あたり1.2gとすれば、体重50kgの方では1日60gが目安になります。ただし腎臓のろ過能力が大きく低下している場合はたんぱく質制限が必要になってくるため注意してください。必要なエネルギー量も人によって異なり、目標体重に30~35をかけた数値が目安になります。また過剰な塩分摂取は心不全には厳禁である一方、高齢者では塩分制限をやりすぎてしまうと食欲低下をきたして低栄養を悪化させてしまう可能性も指摘されています。

低栄養状態の心不全患者さんに対し、上記の栄養療法のみでも死亡率や再入院率を低下させることが分かっていますが、筋力低下や炎症を伴う悪液質への対策としては、筋力増強作用や炎症を抑える働きのある運動療法の併用が重要です。ただし心不全患者さんは許容範囲を超える運動によって心不全が悪化しうるため、どの程度まで運動してよいのかは主治医に相談してください。
参考
1) Fujimoto W, et al. Circ J; 85: 1860-1868, 2021
2) Tsuchihashi M, et al: Circ J; 73: 1893-1900, 2009
3) Veronese, et al, Ageing Res: 35: 63-73, 2017
4) Masaaki K, et al, Eur J Prev Cardiol; 28: 1022-1029, 2021
5) Nochioka K, et al. Circ J; 77: 2318-2326, 2013
6) Shubin Lv, et al. PLoS ONE; 16: e0259300, 2021
7) Horwich TB, et al. Prog Cardiovasc Dis; 61: 151-156, 2018
筆者

循環器内科部長 小林 隆洋
自己紹介
現在は循環器内科の医師として、心不全や心筋梗塞などの治療に加え、心臓病の再発を減らし健康寿命を延ばす心臓リハビリテーションにも力を入れています。心臓リハビリテーションでは様々な医療職や介護職などがそれぞれ自分の得意分野を生かして協力し合う多職種連携が重要です。心臓病に対して地域の多職種が協働する地域連携パスも導入しました。元気のない方に元気になっていただくことに関心があり、フレイルやサルコペニア対策にも積極的に取り組んでおり、長野県内のサルコペニア・フレイル指導士を中心とした多職種の集まりである信州サルコペニア・フレイル研究会を結成し、啓発活動を行っています。
患者様とどのように接しているか
説明はできるだけ平易な言葉でわかりやすく、を心がけています。食事や運動、普段の生活などに関する指導も、具体的で実践しやすい提案を目指しています。
経歴
2004年信州大学医学部卒業。長野県内の総合病院で循環器内科に従事し、2020年から現在の長野厚生連南長野医療センター篠ノ井総合病院に勤務。
内科専門医、循環器専門医、日本心臓リハビリテーション指導士、サルコペニア・フレイル指導士。信州サルコペニア・フレイル研究会代表、ながの心臓リハビリテーション研究会代表。
好きな言葉
為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。(上杉鷹山)
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
1食でたんぱく質が23gも摂取でき、種類豊富で、さらに塩分控えめなのでお勧めです。













