無理のない食環境のチョイス(多田 紀夫)
2023年5月24日(水) 13:00健康維持を目指す方策を食生活に生かすため、2つの戒め(いましめ)を説くことで日頃、患者さんに接しています。その1つは「食行動」の戒めであり、もう1つは「食材選択」の戒めです。
「食行動」の戒めは、食事パターンを正して過食を避ける幾つかの方策があります。
①「早食い、ながら食い、まとめ食い」を避けること。
これは、思わず食べてしまうことを避けるためです。
②1日3食を規則的に、よくかんで食べること。
➂腹八分目を守ること。
古いヨガ教書では長生きの秘訣として「胃の1/2は食物で満たす。そして胃の1/4は水で満たし、
残りの胃の1/4は空けたままとせよ」と教える。そこまで徹底せずとも、まず糖質摂取の制限が
大切で、食パンは6つ切りから8つ切り一枚に低減するとか、ごはん茶碗を小ぶりにすることも
有効です。
④食物繊維の多い食材を先に食べること。
例えば、山盛りのキャベツなどの葉野菜などであらかじめ胃の容量を占拠し、糖質からなる
主食摂取は後回しにすること。これは外科的に胃容量を縮小する腹腔鏡下スリーブ状(袖状)
胃切除術さながらの環境を先に食物繊維の多い葉野菜摂取することにて作るものです。
⑤日常生活では周り(まわり)に食べ物を置かず、食環境のけじめをつけること。
⑥好きなものでも一人前、または適量を守ること。
⑦就寝前の2時間はエネルギー価の高い食物は口にしないこと。
⑧外食では丼物より定食を選択すること。
そのほか、食べ過ぎ以外にもシフト労働、睡眠不足、夜間における照明曝露(ばくろ)、ビタミンD
不足なども体脂肪の蓄積に関与し助長するとの報告があります。
「食材選択」においては、「食事内容と192の国々の25歳以上の成人の死亡率、有病率(感染症を除く)との関係をみた調査結果」であるGlobal Burden of Disease 調査2017が参考になります。
それによると2017年において1,100万人が食事性危険因子に起因して死亡しています。
具体的には、食塩摂取過剰にて300万人が死亡し、未精製穀物※1摂取不足にて300万人が死亡し、果物摂取不足にて200万人が死亡したとのことです。
※1 未精製穀物は精製していない穀物食材をいい、例えば玄米食、分つき米食、麦ごはん、雑穀、
ライ麦パン、全粒粉パンなどを指す。
そして、ナッツ類の摂取不足、野菜摂取不足、n-3脂肪酸※2摂取不足、食物繊維摂取不足、多価不飽和脂肪酸摂取不足、豆類摂取不足、トランス型脂肪酸※2摂取過剰、カルシウム摂取不足、砂糖・甘飲料摂取過剰、加工肉食品摂取過剰、ミルク摂取不足、赤い牛肉摂取過剰が生命・疾病リスクへの関与が高い順として続きます。このように食材の摂取過剰と摂取不足の両者に気を配る必要があります。
※2 n-3脂肪酸:魚油に多い脂肪酸
※3 トランス型脂肪酸:植物油に水素添加して作成した人工油
我が国では、1980年あたりまでは戦後の貧困を引きずり、「摂取不足の回避」が大きな問題でしたが、1980年以降は生活習慣病の一画を占める「メタボリックシンドローム」に代表される「摂取過剰による健康障害をいかに回避するか」が大きな問題となっています。
その一方、高齢者では「たんぱく質摂取不足」を中心とした「ロコモティブシンドローム」「フレイル」、さらに若年女性の「やせ」、とりわけ妊婦の「低体重児出産」といった摂取不良、運動不足が問題視されています。健康への無関心層も含め、誰独り(ひとり)もとり残さない栄養管理とその対策が大切です。
私は冠動脈疾患発症と危険因子、そして生活習慣との関連を図1のように捉えています。

図1 冠動脈疾患に関連する生活習慣要因
そして「減塩」「糖質摂取制限」「減量」「飽和脂肪酸摂取制限」「コレステロール摂取制限」「トランス型脂肪酸摂取禁止」を中心に栄養食事指導しております。そのアプローチは、対象者を取り巻く「生活環境」をよく聞き取り、「栄養診断」のもと、無理のない食環境を作ることが重要と考えます。
食環境の評価は大切であり、前述のGlobal Burden of Disease 調査2017においても世界レベルでは果物の摂取不足が死亡率の増加を招いていますが、甘い果物を尊重する我が国では果物摂取過剰が食欲増加や血清トリグリセライド増加を招いていることに注意すべきです。
スポーツ飲料を含めた清涼飲料水に含まれるシロップも制限が必要です。「糖質制限」と言っても糖質を減らす過程で飽和脂肪酸、トランス型脂肪酸、コレステロールの摂取量を増やさないことも大切です。同じ炭水化物ですが食物繊維は多く摂ること、チアミン、葉酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、セレンなどのビタミン・ミネラル摂取不足に気を配ることも要求されます。
糖質制限食が腎障害患者にとっても安全であるという成績も見られてきましたが、今後の評価と良質のたんぱく質摂取にも気をつけることが大切です。栄養指導する側は指導した結果を見つめながらの指導が常に求められることを忘れないで欲しいと考えます。
筆者

医学博士 多田 紀夫
自己紹介
いつの間にか私自身も後期高齢者と名指しされる年齢となった。幼少時、大病を患い、それが終生医業を選択するきっかけとなったが、病気に対する「恐れ」を実体験しただけに、爾来「癒し」と「中庸」を大事にしたい気持ちが「座右」に居座わっている。そしてストイックな行動は採れない一方、「平常心」を念じながらも好奇心に導かれた人生を歩んでいる。
患者さんとどのように接しているか
まず患者さんの話を十分聞くことに時間をかけています。そして、訴えに対して患者さん自身はどのように感じているかを把握するようにしています。こうした疾病イメージを患者さんと共有することは、それに続く診断、治療においても共通しています。治療の選択ではその到達目標をまず患者さんに決めてもらうことも大切にしています。とりわけ生活療法においては重要と感じています。
経歴
1972年慶應義塾大学医学部卒業。オーストラリア留学を経て、東京慈恵会医科大学青戸病院内科学講師、同青戸病院副院長、同大学内科学教授、同大学院医学研究科器官病態・治療学 代謝・栄養内科学教授を歴任。2013年3月より、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会構成員。
日本臨床栄養協会理事長、日本臨床栄養学会監事、同名誉会員、日本動脈硬化学会名誉会員、日本病院調理師協会病院調理師認定機構認定講習における認定委員、日本老年医学会関東甲信越地方会名誉会員。日本動脈硬化学会認定専門医。日本老年医学会認定専門医、指導医。日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー。専門は、動脈硬化、脂質代謝、生活習慣病、老年医学
好きな言葉
平常心
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
パワーアップ食が何故必要であることを利用者に理解していただき、到達目標を利用者と共有し、その達成に指導者が責任を持つことが大切です。
低栄養・フレイル・サルコペニアの予防に役立つリハビリテーション栄養(若林 秀隆)
2023年5月10日(水) 13:00フレイル・サルコペニアとは
フレイルとは、生活機能が健常ではないが要介護状態やねたきりでもないという中間の状態です。歩行やトイレといった身の回りの動作は自分でできますが、家事の一部や仕事には介助が必要な状態です。フレイルの主な原因は、サルコペニア、低栄養、ポリファーマシー(2種類以上の薬剤を服用していて何らかの薬剤による悪影響がある状態で、5-6種類以上の薬剤を服用していると副作用が生じやすいです)です。
サルコペニアとは、加齢などの影響で筋肉量や筋力、身体機能が低下して、けがや病気になりやすい状態です。サルコペニアは手足や体幹の筋肉だけでなく、飲み込みや呼吸にかかわる筋肉にも生じます。サルコペニアの主な原因は、加齢、低活動、低栄養、疾患です。フレイル、サルコペニアとも、原因の1つに低栄養がありますので、栄養対策がとても大事です。一方、肥満のためにフレイル、サルコペニアになる方もいます。この場合には、できるだけ筋肉を保ちながら脂肪を減らしてやせることが重要です。
フレイルの診断
フレイルの診断には、改訂J-CHS基準を用います(表1)。体重、筋力、易疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち、3項目以上に該当すればフレイルと判定します。1-2項目に該当すればプレフレイル(フレイルの前段階)、該当項目なしであれば健常と判定します。
表1 改訂J-CHS基準

サルコペニアの診断
サルコペニアの診断には、2019年にアジアのワーキンググループによって発表された『AWGS2019』を用います。筋肉量低下を認め、筋力低下もしくは身体機能低下を認める場合にサルコペニアと診断します。筋肉量低下の目安は、下腿周囲長です。下腿周囲長は、ふくらはぎで最も太い場所の周径をメジャーで計測します。下腿周囲長が男性34cm未満,女性33cm未満の場合に、筋肉量低下が疑われますので、筋力と身体機能を評価します。
筋力は、握力で評価します。男性で28kg未満、女性で18kg未満であれば「筋力低下あり」と判定します。身体機能は、5回椅子立ち上がりテストで評価します。高さ40cm前後の椅子を使用して、座位から直立位を経て座位に戻ることを繰り返して、5回目の直立位になるまでに要する時間を評価します。12秒以上であれば「身体機能低下あり」と判定します。筋力低下もしくは身体機能低下を認めた場合には、サルコペニアの可能性と判定します。
サルコペニア対策の栄養
まずはたんぱく質、必須アミノ酸(特に分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン)を十分に摂取することが重要です。少なくとも体重1kgあたり1g以上、できれば1.2-1.5g程度摂取するとよいです。ただし、慢性腎不全があって人工透析を行っていない場合には、たんぱく質制限が必要ですので主治医に確認してください。
また、できるだけ多くの種類の食品を摂取することも重要です。魚・油・肉・牛乳・野菜・海藻・いも・卵・大豆・果物の10品目のうち、7品目以上をほぼ毎日摂取することが望ましいです。10品目の頭文字をつなげて「さあにぎやかにいただく」(さかな、あぶら、にく、ぎゅうにゅう、やさい、かいそう、いも、たまご、だいず、くだもの)と憶えましょう(図1)。

リハビリテーション栄養
リハビリテーション栄養とは、生活機能やパフォーマンスをできるだけ高めるリハビリテーションや運動と栄養を併用することです。栄養を考えないで運動のみ頑張ったり、運動をしないで栄養のみ頑張ったりでは逆効果となることがあります。十分なエネルギーやたんぱく質を摂取しないで運動だけ頑張ると、エネルギーバランスがよりマイナスになりますので、体重や筋肉が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養だけ頑張って運動をしないと、筋肉ではなく脂肪だけが増えて、肥満で動きにくい体になってしまいます。リハビリテーション栄養の視点で、運動と栄養を同時に取り組むことが大切です。
生活機能やパフォーマンスを高めるためのベスト体重を目指すことが重要です。ベスト体重が決まれば、体重増減を目指します。理論的には7500kcal、エネルギーバランスをプラスマイナスすることで1kgの体重増減が得られます。そのため、1か月で1kg体重を増減させたい場合には、今までの食事から1日250kcal程度エネルギー摂取量を増減します(250kcal×30日=7500kcal)。ただし、体重減少を目指す場合には、たんぱく質の摂取量を減らさないことが重要です。
筆者

リハビリテーション科
医学博士 若林 秀隆
自己紹介
生活機能が低下している方のくらしをよりよくするために、リハビリテーション科医師として働いています。理学療法、作業療法、言語聴覚療法といったセラピーは大切ですが、「栄養ケアなくしてリハビリテーションなし」「栄養はリハビリテーションのバイタルサイン」であることを、リハビリテーション栄養を通じて広めています。病院などで作られる医原性の低栄養・フレイル・サルコペニアを予防することにも力を入れています。
患者さんとどのように接しているか
本人が自分自身でベストと考える体重をまず確認します。そのうえでその体重が生活機能を高めるために適当な場合には、一緒にその体重を目指します。適当でない場合には、多職種で本人との話し合いを行い、共有できる体重のゴールを模索します。
経歴
平成7年横浜市立大学医学部卒業。平成28年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科などでの勤務を経て、令和2年6月~東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授。令和3年5月東京女子医科大学大学院医学研究科リハビリテーション科学分野基幹分野長。現在に至る。
好きな言葉
No venture, no glory
パワーアップ食の活用方法
たんぱく質摂取は大事ですが、筋力トレーニングなど運動とセットで活用することが大事です。人工透析をしていない慢性腎不全の方は、主治医と確認の上、活用してください。
「時間栄養学」で「脳」を守り健康寿命を延ばそう(大和田 潔)
2023年4月26日(水) 10:00食物繊維の大切さ
私は脳神経内科医であり総合内科専門医です。写真(図1)は脳MRIの断面図ですが複雑なネットワークでできている脳はダメージを受けると回復させることができません。

健康寿命を延ばして「機能する体を維持」するためには、認知症のリスクファクターである糖尿病などのメタボを解決したりフレイルを予防する食事と運動が薬剤よりも先決だと考えてきました。そのため管理栄養士さんと長年一緒に患者さんの治療にあたってきました。実は、脳の専門家が管理栄養士さんとクリニックで一緒に仕事をすることはとても珍しいことなのです。彼女たちの臨床現場の卒後教育も手伝ってきました。
腸の健康も大切です。心身を支えるのは食事です。栄養を吸収する「腸」も大切です。また、腸は栄養を吸収するだけでなくインスリンや食欲に関係するホルモンなどを分泌する器官であることもよく知られるようになりました。
患者さんには食物繊維を十分食べて腸内細菌を整えて腸内環境を整えることで「慢性炎症」を抑えることをお伝えしています(図2)。また、人間の生活リズムに基づいた「時間栄養」にも注力しています。腸が脳を支えることから腸脳相関と呼ばれるようにもなりました。脳神経内科専門医としてコラムを書いたり取材を受けてきました。

慢性炎症や時間栄養のことを『60歳 食べ方を変えるだけで健康寿命はもっと延ばせる!』(文末に紹介)にまとめ2022年末に上梓いたしました。食物繊維である海苔や発酵食品であるヨーグルトをテレビ番組出演やイベント、ウエブ公開サイトなどでお手伝いしているのもそのためです。国連の和食推進委員もしていました。
食物繊維は水溶性食物繊維、不溶性食物繊維とわけていましたが最近はMACs(腸内細菌に届く炭水化物、MACs: Microbiota-accessible carbohydrates)として理解されるようになってきています。食物繊維は、厳密に水溶性と不溶性に分けることが難しいことと、どちらも腸内細菌のエサになるためです。腸内細菌が作り出すさまざまな物質は腸だけでなく、全身状態や脳に影響を与えます。
私たちは、起きたり寝たりリズミカルに日々暮らしています。この人間の体がもつ1日のリズムをサーカディアンリズム(図3)や概日リズムとよびます。サーカディアンリズムに沿ってどんなものを食べると良いのか、リズムを整えるのにどんな食べ物が良いのか研究がすすんできました。『時間栄養学』と呼ばれています。脳に主時計があり、腸や肝臓などの消化器や体全体に副時計があり、時刻合わせをしながらサーカディアンリズムを刻んでいます。

体を蝕む「慢性炎症」と「メタボ炎症」
先ほどの病気が無いのに肥満などで起きてくる「慢性炎症」は自覚症状のない炎症です(図4)。炎症は体が異物を排除したり傷を治したりするときの体の反応です。ケガなどで起きる急性炎症は、患部が赤くなったり痛かったり腫れたりして自覚症状を伴います。ところが慢性炎症は体内で起きても自覚症状がありません。検査データにも現れません。

けれども過剰に蓄積した脂肪細胞を顕微鏡で見てみると慢性的に炎症が起きていることが知られるようになりました。そういった場所では炎症に特有の細胞が入り込んでいて慢性炎症を起こしながら、そこから全身に良くないホルモンが放出されていることが知られるようになりました。その部分だけなら良いのですが、慢性炎症を抱えていると全身的に良くないことが起きることも知られるようになりました。
通常の加齢の変化でも生理的な慢性炎症は起きていて加齢炎症とよばれます。過剰な脂肪の蓄積や運動不足でメタボ状態になっておきてくる慢性炎症は加齢炎症と分けて患者さんに「メタボ炎症」と名付けて説明するようにしています。メタボ炎症は生活習慣病を悪化させたり動脈硬化を加速します。加齢現象につながり老化を加速させます。取り除かれるべき老化細胞(ゾンビ細胞)が居座らないように新陳代謝していくことが健康寿命に重要といわれるようになりました(図5)。

たとえば、カゼを引いたりケガをしたり、体に何らかの炎症があると糖尿病が悪化しインスリン注射の効きも悪化することを経験された糖尿病の方も多いでしょう。このような急性の炎症と同様に慢性炎症も生活習慣病を悪化させ悪循環になります。睡眠リズムの崩れも肥満につながります。
過剰な脂肪の蓄積や運動不足→慢性炎症(メタボ炎症)→体重増加やデータ悪化など生活習慣病の悪化→過剰な脂肪の蓄積や運動不足・・・といった悪循環です。メタボ炎症を解決するための日中の活動性と良質な睡眠のためにも時間栄養学は重要です。
日中の運動も脳を支えます。最近、運動をすることは薬より脳に良い効果を生むといった報告も相次いでいます。時間栄養学にそって食事をとり日中運動して健康な脳を維持し、翌日スッキリ起きてまた活動的な日々を送る。そのリズミカルな生活が健康寿命を延ばします。
加齢を遅くする2つの食事のコツ
どの方の食事もその人の生活習慣と密接に結びついています。人間の体調や加齢速度は体質的なものが大きいのですが、環境も影響します。リモートワークが多い方、夜勤がある方、運動を趣味にしている方、人それぞれです。慢性炎症やメタボ炎症の解決にはお薬はありません。時間栄養学を考えた適切な栄養管理とムリのない日頃からの運動習慣が必要になってきます。
食事で重要なのは2点。一つ目は、食べる量や摂取総カロリーだけでなく、タンパク質や食物繊維が十分含まれているのかといった内容が重要になります。きちんとタンパク質を含む食事にして筋肉や体の組織を維持することが大切です。二つ目は、その「どういった内容の食事」を「いつ食べると良いのか」ということも重要になります。
例えば朝にタンパク質をとると筋肉量が増加しやすいこと(図6)や、朝に食物繊維をとっておくと1日の血糖値が安定しやすいことが知られています。食べ物からきちんとタンパク質を摂ることは重要なことです。

冷凍食品、缶詰、サラダチキン、納豆、豆腐などある程度保存がきいて手軽にとれるタンパク質はたくさんあります。工夫して食べるようにしましょう。加齢による筋力低下で体が衰えて機能する体が失われていく「フレイル」の予防にもなります。
健康寿命を延ばそう
人間は症状が出ないと対応を考えられない性質があります。データが異常をきたしてもあまりピンとこないかもしれません。ましてや自覚症状やデータにも現れにくい慢性炎症やメタボ炎症は対応しようと思われないかもしれません。
けれども寿命が長くなってきた昨今では、寿命の長さもさることながら心身ともに機能する健康な状態でどれぐらい暮らせるかという「健康寿命」が重要です。私が管理栄養士さんと一緒に最近お書きした本の『60歳 食べ方を変えるだけで健康寿命はもっと延ばせる!』のタイトルもそこからきています(図7)。
上記の時間栄養や慢性炎症(メタボ炎症)のイラストはこの著書から引用しました。これから日常生活でゾンビ細胞を退治してSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype、細胞老化随伴分泌現象)を減らすことが注目されることを予想して記しました。私自身も実践している内容です。

クリニックでは管理栄養士さんと協力して働いています。管理栄養士さんは栄養学会で発表を行い、クリニックが女子大学の栄養学部の学生さんが臨床を学ぶ場になったりしてきました。また管理栄養士さんの卒後教育も手伝ってきました。私は患者さんに参加していただいた臨床研究も行ってきましたし今後も予定されています。
薬を飲む前に日々の生活を整えてみましょう!私は慢性炎症や認知症の治療薬もフレイルの予防薬もないことに着目することが健康寿命を延ばすことに重要だと思っています。脳の治療やメタボ炎症には薬が無いのです。管理栄養士さんと一緒に仕事をしてきたのはそのためです。
そういったものは日々の食事や運動といった生活で自分で予防し、自分でメインテナンスしないといけないものです。時間栄養学にそった食事と運動をキープしメタボ炎症、慢性炎症、加齢炎症を減らして健康寿命を延ばすことにしましょう。それぞれの人が今からでも自分でやれることです。 一緒に日々の食事と運動を工夫する知識を増やして実践していくことにしましょう!皆様の健康寿命が延ばせることをクリニックのスタッフともども願っております。
筆者

医学博士 大和田 潔
自己紹介
「脳」のおとろえの認知症や「体」のおとろええのフレイルは発症すると引き返すことが難しい状態です。大学では神経細胞を研究して医学博士(東京医科歯科大学臨床教授)となりクリニックの診療に携わるようになりました。脳を守る栄養に注力してきたことから日本臨床栄養協会理事も拝命しております。 糖尿病は認知症の大きなリスクファクターです。糖尿病の患者さんは、そうでない人よりも2倍から4倍ほど認知症になる確率が高くなると言われています。脳神経内科医である私が管理栄養士さんと栄養指導に注力しているのはそのためです。
EPA・DHAを多く含む魚肉ソーセージである「リサーラ」をお手伝いしたり、海洋深層水由来のマグネシウム硬水ミネラルウオーターである「AECスッキリウオーター」を作ったりしてきました。
患者さんとどのように接しているか
私は脳神経内科専門医、総合内科専門医として認知症などの疾患から患者さんを守ることを考えて診療しています。
経歴
都立両国高校卒業
福島県立医科大学卒業
東京医科歯科大学大学院修了 医学博士
東京医科歯科大学臨床教授
あきはばら駅クリニック院長(現職)
好きな言葉
人間万事塞翁が馬。
自分自身を信れば生きる道が見えてくる。
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
健康寿命を支える運動やフレイル予防に高タンパク質のパワーアップ食は役立つでしょう。
ポリフェノールの効能(近藤 和雄)
2023年4月12日(水) 10:00 ポリフェノールなる用語は、1990年初頭まで一般にはもちろん専門家の間でも知る人は極めて少なかった。それが私の赤ワイン、ココアの摂取によりLDLの酸化変性を抑制するという研究成果をきっかけにして、赤ワイン、ココアの成分のポリフェノールが身体に良いものとして人口に膾炙するようになった。その時から30年近くが経過しようとしている。しかし、なぜポリフェノールが身体に良いのか、そもそもポリフェノールとは何かを理解し、説明できる人は思いのほか少ない。ここではポリフェノールとは何かまとめておきたい。
ポリフェノールとは
化学構造で六角形のベンゼン核に水酸基のOH基のついたものをフェノール基というが、ポリフェノールは、フェノール基にOH基を2個以上持つものの総称である。しかし化学の専門家たちの間ではポリフェノールの多くがフラボノイド骨格を持つためフラボノイドと呼称することが多く、ポリフェノールは俗称扱いである(図1)。それでもポリフェノールが使われているのは、ポリフェノール自体があまりにも一般的なりすぎたためである。

またポリフェノールは抗酸化作用を持つ抗酸化物で、体内でビタミンE,カロテノイド、ビタミンCなどと同じように抗酸化性を発揮する。さらにポリフェノールは、苦味、渋味成分であり赤ワインの赤い色、花の色の色素成分でもある。
抗酸化物と活性酸素
我々人間を含む好気性生物は、大気中の21%の酸素を利用して様々な代謝を営んで、生を保っている。この代謝を行う過程でより反応性の強い活性酸素が1~2%生じる。この活性酸素をそのまま放置すると様々な疾病を起こす原因となるため即座に消す必要がある。
このため人では、スーパーオキシドディスティムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシターゼなどの抗酸化酵素があり、さらにはビタミンEやカロテノイド、ビタミンCなどを摂取して、活性酸素の発生に対処している。知らず知らずに摂取しているポリフェノールも活性酸素対策に利用されている。
活性酸素と動脈硬化
活性酸素が関与する代表的な疾患の一つに、動脈硬化性疾患がある。動脈硬化とは、血管壁が肥厚して堅くなる病態を指す。動脈硬化が進行して血管の内腔が閉塞すると、脳では脳梗塞、心臓の冠状動脈では、心筋梗塞が生じる。動脈硬化の発症には、脂質異常症などの危険因子が関与している。
なかでも、コレステロールは、血液中でリポ蛋白として存在していて、動脈硬化の発症と正相関しているLDLと、逆相関しているHDLがある。さらには、このLDLが酸化して酸化変性LDLになって、マクロファージに取り込まれ、動脈硬化のもととなる。このため、LDLの酸化防止は動脈硬化予防には重要なステップになっている(図2)。

フレンチ・パラドックス
脂肪摂取の増加は血中のコレステロールの増加につながり、動脈硬化性疾患が増えるが、フランスでは肉類などの豊富な脂肪摂取にもかかわらず、動脈硬化性疾患の増加が見られない(図3)。このことフレンチ・パラドックスと呼ぶ。このパラドックスのおこる原因には、これまで様々な仮説が出されていたものの今一つの感があった。そこへフランスで良く飲まれる赤ワインにポリフェノールが多く含まれ、LDLの酸化変性を防ぐことが明らかとなり、赤ワインとともにポリフェノールにも注目が集まるようになった。

ポリフェノールの多い食べ物
ポリフェノールは全ての植物に含まれている。特に種子におおく、赤ワインにポリフェノールが多いのは、ブドウを種子、皮を丸ごとつぶして発酵させたことによる。表皮、特に表皮と実の境の部分にはポリフェノールが豊富である。従って種子をつぶして飲用するココア・チョコレート、コーヒー、種子を薄皮ごと摂取するアーモンドなどのナッツ類、そして、葉から抽出する茶類(緑茶、紅茶、ウーロン茶)など、いずれもポリフェノールが多く含まれている。
動脈硬化を防ぐ食事のヒント
動脈硬化を防ぐための食事としてまず知るべきは、日本人が現在摂取している食事を維持することである。日本人の摂取している和食は、脂肪摂取が25%前後と少なく、脂肪酸の割合も飽和脂肪の多い欧米食と比べて、豊和脂肪が少なくn―3系脂肪酸の多い構成で理想的な割合で、食物繊維も多い。さらに大豆製品の摂取も多く、ポリフェノールを多く含む構成になっている。
ただポリフェノールを考えて食事を考えても、ポリフェノールの摂取源の8割は、お茶やコーヒーなどの飲料からで、現実に食事からは2割に過ぎない。さらにポリフェノールの血中濃度の検討からはポリフェノールの血中滞在時間は2-3時間であるので、抗酸化対策には細かく摂取する必要がある。
とは言っても、われわれには10時、3時にお茶などをとる習慣がある。要するに、私たちは、先祖の残してくれた食生活習慣の内容を理解したうえでおやつの時間を含めしっかりと守ることが求められている。
筆者

鶴見西井病院 顧問
医学博士 近藤和雄
自己紹介
東京慈恵会医科大学卒業後、東京慈恵会医科大学青砥病院、防衛医科大学校病院では、一般臨床に従事するとともに、研究室では脂質代謝研究に従事し、ヒトでの食物繊維、大豆蛋白など食べ物のコレステロール低下作用の研究に携わった。国立健康・栄養研究所に移って、アゾ化合物を用いたLDL酸化変性を測定法を開発し、赤ワイン、ココアがLDLの酸化変性を抑制することを明らかにした(Lancetに掲載)。お茶の水女子大に移ってからは、抗酸化物の探索を継続するとともに、培養実験を用いて、ポリフェノールが動脈硬化進展過程を抑える可能性を明らかにした。また、ポリフェノール摂取量を明らかにするため、食品のポリフェノール含有量を測定し、この測定値を用いて疫学研究と共同で、動脈硬化への予防作用の検討を進めている。既に高山市を対象にした検討では、ポリフェノールの抗動脈硬化作用が明らかとなっていて、さらに検討を継続中である。
受賞歴:平成6年食品産業技術功労賞(特別賞)平成26年日本栄養・食糧学会学会賞、平成31年日本栄養・食糧学会功労賞、令和4年日本臨床栄養学会功労賞
専門:脂質代謝学、臨床栄養学、日本内科学会認定医、日本医師会認定産業医、老年科専門医
学会:日本栄養・食糧学会名誉会員、元日本栄養食糧学会会長、元日本機能性食品医用学会理事長、日本未病学会名誉会員、日本動脈硬化学会功労会員、日本ポリフェノール学会理事
患者様とどのように接しているか
患者さんの希望を最優先、患者さんの立場を尊重するのを基本としている。そのうえで、対象の疾患の基本的治療方法を伝えられるように努力している。
経歴
昭和24年5月23日東京生。昭和54年東京慈恵会医科大学卒業。昭和56年東京慈恵会医科大学青砥病院内科助手、昭和59年防衛医科大学校第一内科助手、昭和61年医学博士(東京慈恵会医科大学)、昭和61年~63年ベイカー医学研究所訪問研究員(オーストラリア、メルボルン)併任、平成3年防衛医科大学病院講師(第一内科)、平成3年国立健康栄養研究所臨床栄養部室長、平成11年お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、平成13-19年お茶の水女子大学生活環境研究センター長併任、平成20-24年お茶の水女子大学附属中学校長併任、平成24-27年お茶の水女子大学生活環境研究教育センター長併任、平成27年お茶の水女子大学定年退職、平成27年お茶の水女子大学名誉教授、平成27年東洋大学食環境科学部健康栄養学科教授、令和2年東洋大学定年退職、令和2年介護老人保健施設あかしあの里施設長、令和4年鶴見西井病院顧問、現在に至る。
好きな言葉
人生万事塞翁が馬
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
ポリフェノールの観点からみると、野菜の多いもの、大豆製品の多いものを選ぶことは重要です。特に味噌汁を含めることは大事です。
明日の若さと健康を守るミネラル「亜鉛」(西牟田 守)
2023年3月22日(水) 10:00 食事中に含まれる必須微量栄養素(ビタミン類やミネラル)の働きが明らかになりつつあり、栄養素に関する新しい情報があふれています。ここでは、それらを正しく理解し、食生活に生かしてゆくために、ミネラル、とくに、微量元素について解説します。
ミネラルのうち、成人における1日の摂取量がおよそ100mg以上の元素を主要元素、100mg未満の元素を微量元素とよびます。そのうち、成人における1日の摂取量がおよそ1mg以上の元素を微量元素I、1mg未満の元素を微量元素IIと区別して考えてゆきましょう(表1)。

微量元素Iに属する必須元素は、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)の4元素です。このうち、鉄(Fe)に関しては、血液中で酸素(O2)を運搬している、赤血球中のヘモグロビンに含まれており、不足すると貧血(鉄欠乏性貧血)を発症させるとして、古くから注目されていました。しかも、食材料を工夫しないと、食事摂取基準(推定平均必要量)を満たしにくい栄養素としても知られています。鉄製の調理器具を用いて「ひじき」などの水煮素材を作成すると、鉄(Fe)の成分値が高くなることも知られています。
今回説明させていただくのは、亜鉛(Zn)です。栄養素としては、馴染みの薄いミネラルですが、非常に重要な働きをもっています。DNAを複製したり、タンパク質を合成したり、細胞を増殖したりするときに必要です。成長期には成長を促進し、成長後は活動や消耗により失った身体を復元します。このように考えると、亜鉛(Zn)は「明日の若さと健康」を守る重要なミネラルであるといえましょう。しかし、普段は「縁の下の力持ち」のように静かに身体の健康を支えています。ところが、「Znは不足しやすいミネラル」であることがわかってきました。これまでは、特に注目されていなかったミネラル「亜鉛」が、急に脚光を浴びたのです。
亜鉛(Zn)不足の症状は表2に示したとおり多岐に渡りますが、ご心配の方は、比較的亜鉛(Zn)が多く含まれる「かき」でも試してみてください。
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亜鉛(Zn)の摂取量(食品成分値)は、ほぼ鉄(Fe)と同じレベルですが、鉄(Fe)のように調理操作で増えることはありません。鉄(Fe)が不足するような食生活では、同時に亜鉛(Zn)も不足します。鉄(Fe)の場合、失血すると一度に多くを失われますが、亜鉛(Zn)も、意外なことで失われる場合がありました。
それは、尿中排泄量が多くなる場合です。この状態(病態)を「特発性高亜鉛尿症」とよびます。「特発性」とは、「原因がよくわからない」という意味です。では、どんな場合に亜鉛(Zn)が尿から失われるのでしょうか。亜鉛(Zn)は、通常、タンパク質と結合し、血液中を流れているので、腎臓の糸球体でほとんど濾過されず、尿にもほとんど排泄されません。しかし、分子量の小さい化学物質と亜鉛(Zn)が結合すると、亜鉛(Zn)化合物が糸球体を濾過され、尿から排泄されてしまうのです。
この分子量の小さい物質には、激運動や糖代謝異常で増加する、遊離脂肪酸 (FFA)などがあります。しかし、最も重要なのは、医師から処方される治療薬です。がんや生活習慣病の治療薬として、医師から処方される薬剤のなかには、亜鉛(Zn)と結合して、尿から亜鉛(Zn)を排泄させるものがあります。これは、この作用を「キレート作用」とよびますが、服用し続ける性質の薬剤ですので、医師と相談して、確認する必要があるでしょう。
微量元素IIに属する必須ミネラルは、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、モリブデン(Mo)、セレン(Se)の5元素です。これらは、日本人の食生活では不足することはない、と考えられています。しかし、ヨウ素(I)の摂り過ぎ(過剰摂取)で問題となった事例が、日本で報告されています。
ヨウ素の極めて多い「昆布」を毎日のように食べていたら、母乳を与えられていた乳児が甲状腺機能障害を発症したというものです。一つの食品「ばかり」食べていると、他の食品であっても、栄養素の不足もしくは過剰となる可能性は十分ありますので、よく考えて「ばかり」食べには注意したいものです。食事の基本は、さまざまな食品を満遍なくいただくことです。そうすれば、微量元素をはじめ、必要な栄養素を過不足なく摂れることにもなります。
筆者

研究所 客員研究員
医学博士 西牟田 守
自己紹介
厚生省栄養研究所(現国立健康栄養研究所)健康増進部疲労生理研究室に奉職して以来、ミネラルの必要量やヒトにおけるミネラル代謝について研究してきました。また、同時に、予防医学に特化して、「病気にならない方法」の開発についても、人を対象に、運動生理学的、栄養生理学的、及び、疲労生理学的方法を用いて研究し、生活習慣病の危険因子や予防因子とミネラルの代謝が深く関わっていることを明らかにしてきました。研究成果は、主に、英文誌J. Nutr. Sci. Vitaminol.に収載されています。
患者様とどのように接しているか
日常生活での、運動、食事、休養、睡眠を振り返り、患者さんと一緒に、改良点を探し出しています。ご自身で気がつかれたことは、改善しやすいものだと思います。「自分の健康は自分で守る」のが一番です。
経歴
東京慈恵会医科大学卒
国立栄養研究所健康増進部疲労生理研究室長
千葉県立保健医療大学教授 東洋大学教授
を経て現職
好きな言葉
温故知新(何故かを考えると発見が生まれる)
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
毎日、いろいろなメニューを楽しんで、食べ続けてください。
マグネシウムとタウリンは長生きの秘訣(横田 邦信)
2023年3月8日(水) 10:00私のおススメ健康法
和食、洋食を問わず、一般に朝食は重要な栄養素を豊富に含むので、朝食は抜かない食習慣(1日3食)を基本にします。そして朝食をしっかり(少し時間を掛けて良く噛む)取り、3食とも主食、主菜・副菜をバランス良く揃えます。また、少なくとも朝食には具沢山の汁物と果物と乳製品(ヨーグルト、牛乳やチーズ)を加えるのが理想です(図1)。

主食は精白米を減らして大麦・雑穀(洋食ならオートミールやシリアルなど全粒穀物あるいは全粒粉パンなど)がお勧めです。主食は重要なエネルギー源になるので毎食軽く1膳分は取ります。麺類はうどん、スパゲッティ、ラーメンよりは蕎麦がお勧めです。蕎麦にはビタミンB群が豊富で、動脈硬化予防のルチンも多く含まれています。さらに、蕎麦は、後述するマグネシウムやカリウム、鉄を他の穀類より豊富に含みます。
主菜は出来るだけ種類を多く取りましょう。フレイルやサルコペニアの予防には良質なたんぱく質が重要です。卵は毎日1個以上を好きな料理法で頂きましょう。また、動物性たんぱく質は肉類より魚(魚介)類でしっかり取るのがお勧めです。なお、主菜としての肉類は週に2~3回程度とし、基本は魚中心に。植物性たんぱく質の摂取源として大豆製品は便利なので出来るだけ取るよう心掛けて下さい。副菜のサラダはワカメなどの海藻類を含めた数種類以上、特に緑色野菜(緑の濃い野菜はマグネシムを多く含みます)を沢山頂きましょう。また、野菜サラダは2皿/日以上を目指して下さい。ドレッシングは少量の粗塩や胡椒を混ぜたオリーブオイルなどを少量。あるいは塩分の少ない醤油を少々掛けるのも良いでしょう。なお、副菜のキノコ類も是非意識して取って下さい。
調理法は、様々な食材を、揚げ物や炒め物はできるだけ控えて、生のまま、あるいは煮る、蒸す、焼く、茹でるなどで頂きましょう。なお、揚げ物は週に2~3品程度。しかし頂きたい時は無理に控える必要はありません。
健康で長生きの秘訣
長生きのための栄養素が2つ知られています。それはマグネシウムとタウリンです。マグネシウムはその摂取不足が動脈硬化リスクを高めます。2019年度の厚労省の調査(30~49歳)では、マグネシウムは男性約160mg/日、女性約80mg/日が慢性的に不足しています(表1)。したがってマグネシウムを多く含む食品をしっかり取ることが動脈硬化予防にとても重要です。
表1 マグネシウムの日本人の食事摂取基準と推定摂取量の比較
男女30~49歳、摂取量 平均値(mg/日)

図2は私が考案したマグネシウムの多い食品の語呂合わせした標語です。覚えておくと便利です。“そばのひ孫と孫は優しい子かい?納得!”です。マグネシウムを多く含む食材は他にも種々ありますが、概して伝統的な和の食材に多いと気が付かれたかと思います。したがって1品に偏らずマグネシウムの多い食材を数多く取りましょう。

なお、大麦・雑穀の摂取量が戦後激減した辺りより2型糖尿病の有病率が増え始めたことから、精白米をなるべく減らして大麦や雑穀を意識して取りましょう(図3)。ちなみにタウリンは貝類やイカ、タコなどの軟体類に多く含まれています。

上図データの出典
エネルギー、脂肪、大麦・雑穀等は厚生労働省 「国民健康・栄養調査」[昭和21(1946)年~平成29(2019)年]から引用作図
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
糖尿病推定有病率はGoto Y. Tohoku Journal of Experimental Medicine(1983)および厚生労働省の糖尿病実態調査報告(1997、2002、2006、2007、2012、2016)から引用作図
総務省統計局「人口推計 総人口男女20歳以上(当該年の10月1日現在)」の性・年齢階級別の全国人口
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/index.htm
出典元:MAG21研究会HP(http://mag21.jp)から引用
図3 わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移(1946~2019年)
ところで、料理に当たっては、減塩を心掛けることは大切ですが、塩分6g/日以下の過度な減塩は、料理を美味しく仕上げ難くなる上に、塩分欠乏気味になりえるので注意が必要です。粗塩は精製塩に比べてマグネシウムとカリウムが比較的豊富に含まれ、塩分の排泄作用が期待できますが、中でもナトリウムのより少ない粗塩を選びましょう。また、粗塩中のマグネシウムは食材の旨味成分を引き出すので料理が美味しくなります。
和の食材の種類はとても豊富ですが、毎日1品は納豆、糠漬け、チーズやヨーグルトなどの発酵食品を取り入れると共に酢物も積極的に取り入れて下さい。さらに、調理にもできるだけ発酵食品(味噌、醤油、鰹節、味醂など)を用いましょう。
和食は、概して塩分が多めになりがちですが、それ以外の面では健康で長生きに繋がる栄養素が豊富で素晴らしい料理と言えます。なお、“酒は百薬の長”と称されますので、お嫌いでなければ休肝日を必ず設けて少量飲まれる習慣も良いでしょう。以上の事柄も参考に、工夫して美味しくお料理を頂くことが大事です。
筆者

医学博士 横田邦信
自己紹介
必須・主要ミネラルのひとつであるマグネシウム(Mg:鎂)の慢性的摂取不足が、2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症に深く関わっているという観点から長年に亘り主に臨床的研究に従事し、医学的にそれらの発症のメカニズムや治療法を説き、さらにマグネシウムの重要性の情報発信(Dr横田邦信のオフィシャルサイト:https://dr-mag21.jp/、MAG研究会:http://mag21.jp/)と啓発活動を行っています。
患者様とどのように接しているか
患者さんの立場に立ち、患者さんのそばに寄り添い、同じ目線で“患者さんの訴えに耳を傾ける(Listen to the patients)”。また、“医の心”を持って患者さんに接するように常に心掛けています。
経歴
昭和26年東京都出身、昭和53年東京慈恵会医科大学卒業後、国立東京第二病院(現独立法人国立病院機構東京医療センター)にて研修、昭和55年東京慈恵会医科大学阿部内科入局。昭和59年同大学大学院卒業、昭和60年富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長を経て、平成8年東京慈恵会医科大学内科学講師。同大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長、同大学医療保険指導室兼務。同年より東京都社会保険診療報酬支払基金(通称:支払基金)専任(現主任)審査委員兼務。平成17年東京慈恵会医科大学准教授、東京都社会保険診療報酬支払基金審査委員会再審査部会長。平成18年 東京慈恵会医科大学医療保険指導室長に就任。平成22年東京慈恵会医科大学教授(大学直属)、平成29年同大学定年退任後、客員教授。同大学附属病院客員診療医長。社会保険診療報酬支払基金東京支部医療顧問。令和5年支払基金の組織改革に伴い社会保険診療報酬支払基金(東京都社会保険診療報酬請求書審査委員会)審査調整役に名称変更、現在に至る。
専門は臨床糖尿病学、循環器内科学(特に高血圧)。日本糖尿病学会功労学術評議員、同学会糖尿病専門医、日本生活習慣病予防協会理事、日本医師会認定産業医、慈恵医師会理事、関東信越厚生局東京事務所保険指導医。
好きな言葉
病気を診ずして病人を診よ
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
自分に不足の栄養素をミールタイムのパワーアップ食で取り入れましょう!