加齢とタンパク摂取(勝山 修行)
中国には「食薬同源」という言葉があります。人間が口にする食べ物も一種の薬と考え、病気を治すために食事を用いるという考え方です。日本では「医食同源」という言葉が一般的です。
「この食べ物や食事が健康に良い」というのは、家族でも、友人でも、職場の同僚でも、よく話題になるかと思います。そう考えると、「食薬同源」という考え方は、意識せずとも私たちに定着しているのでしょう。
今の自分に合った食事を考える
一口に「健康に良い」といっても、そもそも一人一人の健康状態が異なります。運動不足で肥満があり糖尿病で治療中の人と、高齢で痩せている人で、「身体に良い」食べ物が同じであるはずがありません。
一般的に健康的な食べ物と考えられています生野菜サラダでさえ、腎不全の人が過剰に摂取すると、血液中のカリウム濃度が上昇して、時に致死的な不整脈を起こすリスクがあります。
健康的な食事といっても、それは一人一人違いますし、一個人でも小児、思春期、青年、中年、高齢で身体の状態によって変わっていきます。今の自分の健康状態を知り、自分に合った食事を考えるのが大切です。
メタボ対策からサルコペニア・フレイル対策へ
「サルコペニア」という言葉はご存じでしょうか。「サルコ」はギリシャ語で筋肉、「ぺニア」は喪失を意味し、サルコペニアは筋肉量が減少し、筋力が低下している状態を意味します。一方、フレイルは「虚弱」を意味し、加齢によってサルコペニアをはじめとする心身機能の低下によって生活機能が障害されている状態を指します。
飽食の時代、中年では糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム対策が重視されます。したがって、食事も過剰なエネルギー、糖、脂質の摂取を避け、肥満や内臓脂肪の蓄積を抑えることが重要です。しかし、加齢と共にサルコペニアやフレイルの予防がより重要となってきます。
糖尿病患者さんでも、75歳以上の高齢者では小太りで、体重が低下しない人は寿命が長いことが報告されています。
適切なタンパク摂取とは
サルコペニア予防において重要なのは、必要十分なエネルギーを取ること、特にタンパク質を十分に摂取することです。最近発表された日本人の栄養素摂取状況に関する大規模調査では、加齢と共にタンパク質の摂取量が目標に届かない人の率が増加することが明らかにされています。
タンパク質の総量だけではなく、 アミノ酸の種類にも配慮する必要があります。必須アミノ酸の一つであるロイシンは筋タンパク質の合成を促進し分解を抑制する働きがありますが、日本人はロイシンの摂取が不十分であると報告されています。
必須アミノ酸は肉・卵・魚・乳製品・大豆製品などに含まれていますが、アミノ酸の種類によって食品への含有量は異なります。重要なのは、例えば鶏ムネ肉だけ、といった極端な形でタンパク質を摂取するのではなく、複数の食品を組み合わせてバランス良く摂取することでしょう。
タンパク質摂取のタイミングも重要です。日本人の食事パターンでは、 タンパクやロイシンの摂取量は、朝食では少なく、昼食、さらに夕食と上昇すると言われています。しかし、このような不均等な摂取パターンでは十分な筋タンパク質合成に結び付かない可能性があります。なるべく3食均等にタンパク質を摂取すると良いでしょう。
入浴と健康
日本人のお風呂好きはよく知られています。一般家庭まで浴槽設備が普及しているのは世界でも日本だけです。では入浴は健康にどのように影響するのでしょうか。
これまでの実験では、入浴は身体の深部の体温を上昇させ、炎症を抑える、インスリンの効きを良くするといった、運動に近い作用があると推測されています。
健康診断を受けた人を追跡した研究では、浴槽入浴の頻度が高い人で心血管疾患や脳卒中が少ないことが報告されています。私達の研究でも、浴槽入浴の頻度の高い糖尿病患者さんは血糖値や肥満度が良いことが分かりました。
このように、浴槽入浴は健康に好ましい影響が期待できる一方で、日本では年間1万人以上が入浴中に死亡している現実があります。原因として、心疾患や脳疾患、熱中症、血圧低下など様々な要因が関与していると考えられています。安全な入浴法として、熱すぎる湯温や長時間入浴を避けると共に、入浴環境にも配慮することが重要です。
筆者
自己紹介
千葉県の総合病院で、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、さらに一般内科疾患の診療に従事すると共に、臨床家の視点から研究にも取り組んでいます。
患者様とどのように接しているか
ただ糖尿病の数字を改善するだけでなく、患者さんの人生観に寄り添いつつ、生活状況にも配慮しながら、少しでも健康的な生活を送って頂けるよう支援したいと考えています。
経歴
2005年三重大学卒業、土浦協同病院で研修の後、2007年から2012年まで東京大学糖尿病・代謝内科に所属。2012年より国立国際医療研究センター国府台病院に所属。2016年よりハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ附属ドイツ糖尿病センターに留学。2018年から国立国際医療研究センター国府台病院に勤務。
現在、糖尿病・内分泌代謝内科医長、臨床研究支援室長。日本動脈硬化学会評議員、日本内分泌学会評議員、日本臨床栄養学会編集委員、日本温泉物理気候医学会編集委員。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本老年医学会専門医。
好きな言葉
“Man reist ja nicht, um anzukommen, sondern um zu reisen.” (「人は到着するために旅するのではなく、旅するために旅するのだ。」ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
バリエーションが豊富ですので、飽きずに健康食を継続することができます。