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命のSDGsの優先順位はSalt-Conscious(塩を意識する)(日下 美穂)

 高血圧を専門とする広島県呉市の内科医、日下美穂です。
2023年5月にG7広島サミットが開催されましたが、首相夫人などの首脳のパートナーズプログラムにおいて減塩の美味しいランチが提供されました。減塩を話題にしながら食事をすることで、あらためて健康に対する減塩の大切さの認識を深めていただいたと思います。

 ところで、健康に一番良いことというとあなたは何を思い浮かべますか?運動と答える人が圧倒的に多いと思います。それも大事ですが、ものには優先順位というものがあります。私たちの体は自分が食べるもので成り立っていることを忘れてはなりません。健康で長生きしたいばかりにテレビやSNSで宣伝される健康法と称するいろんなことにすぐ飛びついていませんか?気持ちはわかるけれど基本中の基本をまずおさえなければなりません。

 日本人は何がもとで死亡するか?何がもとで健康寿命を損なうか?それを知ったら何が体に一番良いのか優先順位が分かります。図に示したのは厚生労働省が発表した最新の「日本人は何が元になって死亡するか」の統計ですが、圧倒的に多いのは1位高血圧と、2位喫煙です。そして3位が高血糖と続きます(図1)。この1位の高血圧は日本人に一番多い病気で3人に1人、その主な原因は高食塩食です。そして悲しいことに日本人は食塩を食べると血圧が高くなる「食塩感受性」という体質の人が多いのにもかかわらず、高食塩食の自覚のないまま1日約10gもの塩を摂っていて、しかも子供にも高食塩食を食べさせ、自分だけでなく子供の将来の病気の芽も作ってしまっているのです。本当は、子供のころから減塩を身に付けることが大事なのです。世界でも2011年に国連の健康に関する高次元会議で世界の死亡を低下させるためにとるべき行動の優先順位は1位禁煙、2位減塩と発表されています。WHOは1日5g未満、日本高血圧学会でも6g未満を推奨しています。

図1 日本人のリスク要因別の関連死亡者数

 では食塩を多く摂るとどうなるのでしょう。主に高血圧になることが多いのですが、実は高血圧になってもならなくても、行く末は、主に血管を傷害しておきる脳心血管病です。つまり脳梗塞や脳出血のような脳卒中で寝たきりや車いす生活、そして血管性認知症、または心筋梗塞や心不全のような心臓病、そして腎臓病、大動脈が破裂する解離性大動脈瘤などです。死亡の原因でもありますが、健康寿命も短くなってしまいます。また食塩過剰は胃がんや骨粗しょう症、喘息の原因にもなることが最近分かり、さらに今も多くの研究が進められています。

 何とか日本人を高食塩の害から救うべく、減塩を推し進めようと厚労省と学会や大学が連携した調査が始まっていますし、多くの研究者が味覚やデジタル技術の面からも研究しています。それほど皆さんが思っている以上に、命を守り健康寿命を延ばすには減塩が重要なことなのです。減塩は高血圧の高齢者だけではなく、日本人なら子供から大人までのみんなが必要なことなのです。

 実はイギリスで政府が強制的にすべての食品企業に命じて加工食品の食塩含有を10パーセント減塩したところ、国民の食塩摂取量も10パーセント減少して、医療費を2100億円削減できたことはよく知られています。同じ手法で我が国の高食塩の食生活を変えるのが理想とも言えますが、日本では政治的にも強制は難しいので、私たち個人が、塩を意識して減塩に努めるしかありません。また善意のある食品企業が少しでも減塩できる社会になるように行動してほしいと思います。

 あなたは自分が何グラムの塩を摂っているか知っていますか?減塩するには、まずこれを知ることが大事です。近くの病院やクリニックで、尿で測ることができますので是非測ってもらいましょう。また、食品にどれだけ塩が入っているかを確かめるには、加工食品に貼ってある栄養表示を見てください。食塩相当量と記載してあります。

 減塩の方法ですが、まず減塩の食品やお料理を食べてみて、その味を覚えるのが一番効率的だと思います。百聞は一食に如かず。私は、誰もが美味しい減塩食を食べて経験できるように町の多くのレストランに減塩のメニューを作ってもらっています。また皆さんが家で簡単においしくお洒落な減塩のお料理を作って食べてみることができるように、「魔女の幸せ100年レシピ~本当においしい減塩レシピおしえます~」というレシピ本をプロデュースしました。よろしければ活用してください。またファンデリーなどの冷凍減塩食の宅配を利用して味を覚えるのも良いと思います。乳和食もおすすめです。これは塩や味噌や醤油で味付けされた出汁やたれなどを半分にして半分牛乳やヨーグルトに置き換える料理法で簡単です。またカリウムの多い野菜をたっぷり食べることもおすすめです。カリウムが尿中に塩の一部を出してくれるからです。

 さて、人は血管から老いる。オスラー博士の有名な言葉ですが、血管を老化させる塩を意識して少なくすると、若い血管を保って健康寿命を楽しめます。Salt-Consciousいたしましょう。

筆者

日下医院 院長
医学博士 日下 美穂
日本高血圧学会実地医家部会顧問
減塩栄養委員会委員
般社団法人ソルコンクラブ 代表理事
日本高血圧協会理事

自己紹介

高血圧を専門にする内科医で日々多くの患者さんを診ています。

この国と子どもの未来の幸せのために、日本の食の弱点である高食塩食を改善し、国民病である高血圧や認知症などの生活習慣病を予防して医療費削減にも繋がるように、美味しく楽しくスマートな減塩を提唱。健康寿命を延ばす優先順位の第一位は減塩である、と警鐘を鳴らす。
〝塩を意識〟するソルトコンシャスなライフスタイルの啓発をおこなう「一般社団法人 ソルコンクラブ」を主宰し活動。

2010 年 日本高血圧学会 学会賞受賞
2017 年 広島県食育推進功労者県知事表彰

患者様とどのように接しているか

傾聴に努め、患者さんと医師が一緒になって納得した治療を進めるようにしている。

経歴と現職

獨協医科大学卒業、同大学院修了
2012 年 「減塩サミット in 呉 2012」代表
2014 年 「減塩サミット in 広島 2014」実行委員長
2018 年 「呉減塩サミット 2018」開催
2020 年 一般社団法人ソルコンクラブ設立を設立し、
    塩を意識した生活を推奨している。
2022 年 ソルコンフェスティバル in 京都 2022 実行副委員長
2023 年 G7 広島サミットでパートナーズプログラムの岸田総理
    夫人が主催する昼食会にて「おいしい減塩料理」を
    提供することを提案し実現される。

好きな言葉

頑張らない

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

減塩とタンパク質補給という原則プラス不足成分補充、適切な食事だと思います。各種を順番に食べると良いですね。