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健康寿命と食事(宮本 恵宏)

この文を書いているのは、9月中旬ですが、今年も猛暑が続いていました。暑さのために外出を控えたり、食欲がなくて食事が減ったりした方もおられるのではないでしょうか。今回は健康寿命を伸ばすには食事が大事だということをお伝えしたいと思います。

健康寿命とフレイル

健康寿命は、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間です。自立して生活できる期間ともいえます。厚生労働科学研究「次期健康づくり運動プラン作成と推進に向けた研究」(研究代表者 辻⼀郎)の報告では、2022年の健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳ですが、残念ながら男性では少し健康寿命が短くなり、女性でも健康寿命は微増にとどまっていました。健康寿命に影響する病気は、脳卒中や心疾患といった循環器疾患が重要です。脳卒中は、麻痺や言語障害などの後遺症を生じると自立した生活ができなくなります。また、心不全や虚血性心疾患などの心疾患は、息切れや疲れやすさや入退院の繰り返しにより、活動が制限され自立した生活ができなくなります。そして、高齢期において加齢に伴う筋力や心身の脆弱性が進むことをフレイルといいますが、フレイルも自立して生活ができない状態になる原因、健康寿命を短くする健康障害です。

健康寿命を延ばす為の食事

では、食事で健康寿命に重要なポイントを2点ご紹介したいと思います。

第一は、減塩です。
循環器疾患の最大のリスク因子は高血圧ですが、ナトリウム(食塩)の摂り過ぎが血圧上昇と関連があることが多くの研究により明らかにされています。減塩により血圧が下がるかどうかを検討した研究では、1日6g前半またはそれ以下に減塩することで、血圧が下がることが示されています。国立循環器病研究センターは循環器疾患の治療と予防を目的としたナショナルセンターですが、入院食は食塩1日6g未満を標準としています。しかし、高齢者においては過度の減塩は、食事摂取量の低下につながり、低栄養につながることが懸念されます。
そこで、食欲の低下につながらない減塩食が求められています。国立循環器病研究センターでは、出汁の旨味や香草の香りを用いて美味しく減塩の調理を行う方法を示した料理本の出版や通常の食品より減塩(30%以上の減塩が得られているか食塩1食2g未満であること)と美味しくて食欲の低下につながらないことを両方兼ね備えた食品を「かるしお食品」として認定する事業を行っています。是非活用してください。

第二は、たんぱく質の適切な摂取です。
様々な要因が、フレイルの発症に関連しますが、たんぱく質の不足により筋肉量が減少すると、基礎代謝量の低下とともに、筋力の低下と活力の低下が身体能力の低下をきたします。そして必要なエネルギー消費量の低下をきたし、食欲の低下につながり、さらに低栄養になるという悪循環をもたらします。

65歳以上の高齢者のたんぱく質の推奨量(たんぱく質不足による健康障害をきたす可能性が低い量)は、男性で60g、女性で50gとされています。1食当たり男性20g、女性17g摂るように心がけるのが良いと思います。

ちなみに、牛乳100ml(成分無調整)のタンパク質は約3.3g、卵焼き1個は約6gなので、朝食にトースト、卵焼き、牛乳1杯ではタンパク質は10g未満しかありません。ただ、タンパク質を摂れば摂るだけ筋肉量が増えるということではありません。1.6g/kg体重/日(体重50kgの人は80g/日)を超えたたんぱく質摂取量は運動による筋肉量の増加につながらなかったという報告があります。(Br J Sports Med. , 2020 Oct;54(19):e7.)また、摂りすぎは腎機能障害などの健康リスクにつながる可能性もあります。

まとめ

健康寿命を伸ばすには、減塩でありながら美味しくタンパク質を適切に摂れるバランスの良い食事をとることをおすすめします。そして、運動を心がけてください。我が国の健康寿命を伸ばすことができるかどうかは皆様ご自身にかかっています。一緒に健康寿命を伸ばすことを実現しましょう。

自己紹介と経歴

医師。2000年に国立循環器病センターの動脈硬化・代謝内科医師として入職。国立循環器病研究センターの予防健診部長、予防医学・疫学情報部長、循環器病統合情報センター長、バイオバンク長を歴任。現在オープンイノベーションセンター長。学会活動として、日本臨床栄養協会副理事長、日本循環器病予防学会理事を勤める。

患者様とどのように接しているか

患者さん自身がやりたいと思う生活習慣の改善を一緒に探すことを心がけています。

好きな言葉

朝令暮改 過ちては改むるに憚ること勿れ

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

ミールタイムパワーアップ食は1食でタンパク質20g以上でありながら塩分が2g未満という点で、減塩しながらタンパク質を適切に取れる理想的な食事だと思います。できれば食塩を含む調味料や副菜を加えずに食べていただくのが良いでしょう。