食のリスクマネージメントを意識しましょう(望月 弘彦)
1.バランスの良い食事を
私たちは食べた物から栄養分を取り込んで生命を維持しています。英語で有名な言い回しに、”You are what you eat.”( あなたは、あなたの食べたもの)というものがありますが、日々の食事があなたの身体や健康のカギを握っているのです。食べたものはそのまま直接利用されるのではなく、消化管で単糖類や脂肪酸+グリセロール、アミノ酸やペプチドといった吸収可能な状態まで分解=消化された状態で吸収され、血流に乗って身体のすみずみまで運ばれてエネルギー源や新陳代謝の材料として利用されます。海に例えると、波によって運ばれた砂が波に持ち去られる砂に置き換わって砂浜の形が維持されるように、私たちの身体は日々ダイナミックに更新されているのです。生物学者の福岡伸一はこれを「動的平衡」と表現しています。こう考えると私たちの身体や健康を維持するうえで大切なことは様々な栄養分を過不足なくバランスよく食べることであることが分かります。
2.食事バランスガイド
以前の厚生労働省の指針では、「1日30品目」をとることが目標とされていましたが、カロリーオーバーになりやすいことから、現在は「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」とされています。これを分りやすく表現したのが、厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド」です(図1)。これは主食、副菜、主催、牛乳・乳製品、果物という各食品をまとめてコマの形で表現し、それに運動と水・お茶を加えることでバランスが良い食事のありかたを分りやすく示しています。

3.サプリメント・健康食品との付き合い方
私は、学生指導のために、2024年にNR・サプリメントアドバイザーの資格を取りました。その試験勉強をしているなかで考えさせられたのが、紅麹関連製品による健康被害です。テレビの通信販売のコマーシャルやインターネットの広告でサプリメントや健康食品に関係するものをよく目にします。血糖やコレステロール、血圧を下げる、体重を減らすという効果を暗示させる表現が良く使われています。各種ビタミンやミネラル、微量元素を補給できるものも多々あります。私も外科医時代に元気が出るという清涼飲料水を時々飲んでいました。最近、「〇〇に効果があります」という表示がある食品が増えてきました。これは消費者庁の「栄養や保健機能に関する食品表示制度」に基づく表示です(図2)。問題となった紅麹関連製品はこのうち機能性表示食品で、これは事業者の責任において保健の機能が表示されるもので、国による効果や安全性の審査は行われていません。

高血圧や糖尿病などの慢性疾患で投薬を始めるときに、「こらからずっと薬を飲まないといけないのですか?」という質問を受けるときがあります。その時には、「メガネや入れ歯と同じで、薬を飲むことで良い状態を続けましょう」とお話しすると納得していただけることが多かったです。このように薬は長期にわたって連用することが前提に作られ、その安全性も検証されています。しかし、食品ではそのような試験は行われておらず、医師による定期的な診察や血液検査なども行われないため、長期にわたって連用することは危険性を伴います。
4.食のリスク分散を
金融庁が老後に2千万円程度の資産が必要であると公表し、金融商品に興味を持たれた方も多いと思います。金融商品を選ぶ際に大切とされているのが、金融商品をどう組み合わせるかというポートフォリオの考え方です。その目的は「目標達成」「安定した運用」と「リスク分散」です。一つの資産に集中して投資するとトラブルが起きた時に大打撃を受けてしまいます。「食」においても、同じもの、特に長期にわたる安全性が証明されておらず、濃縮された成分を含んでいるサプリメントや健康食品を食べ続けることはリスクにつながります。そういった意味で多品目をバランスよく食べることが「食の安全」につながります。
5.亜鉛と銅の悩ましい関係
亜鉛は成長や代謝、味覚、生殖機能、免疫機能などに関与している微量元素です。しかし、日本人の10~30%に亜鉛欠乏があると報告されており、その頻度は高齢になるほど高くなり、施設入居の高齢者では50%を超えるという報告もあります。亜鉛欠乏症の主な症状は皮膚炎や難治性の褥瘡、口内炎、味覚障害などですが(表1)、私も褥瘡の患者さんや味覚障害、難治性下痢で低亜鉛血症を認めた患者さんに亜鉛製剤を投与しています。しかし、亜鉛の投与にあたっては、一つ気を付けなければいけない点があります。亜鉛は消化管での吸収にあたって、同じ2価の陽イオンである銅と競合するため、亜鉛投与でしばしば銅欠乏を認めることです。亜鉛を投与する前には、必ず銅の検査も行っています。亜鉛にはノベルジンⓇやジンタスⓇといった薬剤がありますが、銅の補給ができる薬剤がないことも悩ましいところです。このため、銅の補給が必要な患者さんには、銅の含有量が多いココアや栄養補助食品、マルチミネラルのサプリメントなどをお勧めしています。具体的な食品や製品名については管理栄養士に直接相談してください。

出典
図1 農林水産省「食事バランスガイド」
図2 消費者庁「栄養や保健機能に関する食品表示制度」
筆者

管理栄養学科
准教授 望月 弘彦
自己紹介
20年以上外科医としてメスを振るって患者さんを助けることを目標としていました。そのなかで栄養治療の大切さに目覚め、栄養サポートチーム(NST)の活動に取り組み、慢性期医療や在宅医療へと幅を広げていきました。現在は管理栄養士の育成にあたるとともに、在宅での栄養治療にも携わっています。
患者様とどのように接しているか
診療にあたって、私が最も気になるのは患者さんのお口の状態です。「食べられるお口」かどうか、口の中をペンライトで照らして確認しています。次いで体重の変化と痩せと筋肉量の確認です。経管栄養の患者さんを担当することが多いですが、経口摂取を再開できないかを常に考えて診察にあたっています。
経歴
1985年横浜市立大学医学部卒業
横浜市立大学医学部病院で臨床研修
1987年横浜市立市民病院外科外科
1988年稲田登戸病院外科
1989年横浜市立大学医学部救命救急センター
1991年横須賀共済病院 外科医長
1993年横浜市立大学付属浦舟病院 第2外科病院助手
1994年横浜市立大学付属病院 第2外科講座助手
1995年藤沢市民病院 外科医長
1999年国立伊東温泉病院 外科医長
2000年磯子中央・脳神経外科医院 外科部長
2003年横須賀北部共済病院 外科医長
2004年 同 栄養指導科科長・NSTチェアマン兼務
2008年クローバーホスピタル 消化器科医師
2009年 同 感染対策委員長・NSTチェアマン兼務
2016年相模女子大学 栄養科学部 管理栄養学科 准教授
医療法人社団ユニメディコ 訪問診療・在宅NST兼務
日本栄養治療学会指導医、日本在宅医療連合学会多職種連携担当理事
NR・サプリメントアドバイザー
現在に至る
好きな言葉
「我包帯す、神癒したもう」
外科医時代に心がけていた言葉です。
患者さんの治癒力を引き出せるような治療を心がけていました。
「万病に効く薬はないが、栄養は万病に効く」
高齢者の手術が増え、メスの限界を感じるようになった時に出会った言葉です。栄養状態の改善をはかることが、患者さんの治癒力を引き出すための最良の方法であることに気づき、栄養サポートチーム(NST)の活動に力を入れています。
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
主食・主菜・副菜がバランスよく配置されており、多種類の食材を摂取できる点が優れています。また、ミールタイムには「やわらか食」のラインナップもあり、咀嚼や嚥下機能が低下している患者さんにも活用していきたいと思っています。













