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慢性腎臓病と食事療法(坂口 悠介)

 近年、社会の高齢化にともない、慢性腎臓病が新たな国民病として注目されています。慢性腎臓病は成人の約10%が罹患する慢性疾患であり、日本では1000万人以上が慢性腎臓病であると推定されています。

 慢性腎臓病は高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病や加齢を背景として進行し、末期腎不全に至れば透析療法や腎移植を要します。また、心臓病、脳卒中、骨折、サルコペニアなどの発生リスクを著明に上昇させ、健康寿命を大幅に短縮させます。日本は透析療法を受けている患者様が世界的に見ても多く(台湾、韓国に次いで世界で3番目)、特に70歳~80歳以降になって透析を始める方が大半です。慢性腎臓病の発症・進行を予防するための対策を多くの方に実践して頂きたいと思います。

生活習慣の改善と薬物療法

 慢性腎臓病に対する具体的な対策として、生活習慣の改善と薬物療法が重要です。近年、慢性腎臓病に対して高い効果を発揮する薬剤が本邦でも次々と使用可能になりました。これらの薬剤の有効性は、慢性腎臓病が進行してしまってからでは残念ながら限定的です。健康診断などで蛋白尿、血尿、腎機能障害を指摘された方は、必ず医療機関を受診し、必要な検査を受けた上で、適切な時期に薬物治療を開始して下さい。慢性腎臓病は末期に至るまで無症状であり、自覚症状が無いままに進行している方が大半です。定期的に尿検査を受け、蛋白尿や血尿が出ていないかを確認することが非常に重要です。

 生活習慣に関しては、特に食事療法が重視されています。中でも、塩分制限は慢性腎臓病の食事療法の基本であり、1日5~6g未満の塩分摂取が推奨されています。塩分制限は、高血圧の改善により慢性腎臓病の発症・進行を抑制するだけでなく、高血圧の有無とは無関係に塩分制限が腎保護的に作用することも示唆されています。したがって、高血圧ではない方や、お薬で血圧が落ち着いている方でも、塩分制限は重要と考えられます。一方、過度な塩分制限は食欲を減退させ、低栄養やフレイル・サルコペニアを助長する可能性がありますし、低ナトリウム血症の原因にもなりますので、やり過ぎにも注意が必要です。

たんぱく質の摂取制限

 たんぱく質制限は慢性腎臓病の食事療法として古くから行われてきました。たんぱく質の過剰摂取は腎臓への負担となり、蛋白尿を増加させるため、避けた方が良いでしょう。一方、極めて厳格なたんぱく質制限(超低たんぱく食)が慢性腎臓病の進行を抑制するか否かについては、いまだに明確には証明されておらず、必ずしも推奨されていません。特に高齢の患者様では、厳格なたんぱく質制限はフレイル・サルコペニアの原因になるため注意が必要です。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023(日本腎臓学会)』では、慢性腎臓病ステージ G3a では0.8~1.0 g/kg標準体重/日,G3b以降では0.6~0.8 g/kg標準体重/日のたんぱく質摂取を目安としつつも、画一的な指導は行うべきではなく、フレイル・サルコペニア、栄養状態、消耗の有無を評価し、個別化を考慮することの重要性が強調されています。

たんぱく質の『質』

 近年、たんぱく質の『質』が注目されています。たんぱく質には、動物由来の動物性たんぱく質と、植物由来の植物性たんぱく質があります。一般に、動物性たんぱく質の方が筋肉合成には有利とされていますが、生活習慣病や悪性疾患のリスクとなる可能性も指摘されています。一方、植物性たんぱく質の摂取量が多い人ほど、フレイルや身体機能の低下が起こりにくかったという報告もあります。さらに、植物性食品主体の食事をとる人ほど慢性腎臓病になりにくく、赤身肉の摂取量が多い人ほど慢性腎臓病が進行しやすいことも報告されています。

 慢性腎臓病が進行した患者様では、野菜・果物の摂取が多くなり過ぎると高カリウム血症の危険性が生じるため、ある程度の制限は必要ですが、主治医や栄養士の先生と相談の上、植物性たんぱく質の比率を高めることも選択肢として良いと考えます。

筆者

大阪大学大学院
医学系研究科
腎臓内科学
医学博士 坂口 悠介

自己紹介

腎臓内科医として、主に慢性腎臓病を持つ患者様の診療にあたるとともに、臨床研究を通じて新しいエビデンスの創出に励んでおります。

患者様とどのように接しているか

患者様がどのような食事をとっているのかについてよくお話を聞いた上で、適切な指導をさせて頂いております。

経歴

2006年 大阪大学医学部医学科 卒業
大阪急性期・総合医療センターで研修を開始し、現在は大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学に勤務

好きな言葉

あきらめない

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

たんぱく質制限を行う場合には十分なカロリー摂取が必須ですので、パワーアップ食を上手に活用することをお勧めします。