脳と心の健康の“楽しい食事”(酒谷 薫)
現代社会では、ストレスや忙しい生活の中で、心と脳の健康を保つことが重要になっています。脳と心が健康な状態とは、ストレスによるイライラや落ち込みがなく、認知機能も正常で、頭が明晰な状態です。この理想的な状態を維持するために、食事は極めて大切な要素となります。ここでは、脳と心の健康を促進する食事について紹介し、さらに“楽しく食べる”ことの重要性にも触れたいと思います。
1. 脳の健康を支える栄養素と食材
脳が正常に機能し、認知機能を維持するためには、特定の栄養素が必要です。
- ・オメガ3脂肪酸:脳の神経細胞の主要成分であり、記憶力や認知機能の向上に寄与します。また、ストレスによる炎症反応を抑える効果もあります。特に青魚(サバ、イワシ、サーモン)やクルミ、チアシードに多く含まれています。
- ・抗酸化物質:活性酸素による脳のダメージを防ぎ、認知症予防に役立ちます。ベリー類(ブルーベリー、ラズベリー)、ダークチョコレート、緑茶などが良い選択肢です。
- ・ビタミンB群:神経伝達物質の合成に関与し、脳のエネルギー代謝を支えます。豚肉、卵、葉物野菜(ほうれん草、ブロッコリー)に多く含まれています。
- ・ポリフェノール:血流を改善し、脳の機能をサポートします。赤ワイン(適量)、カカオ70%以上のチョコレート、ナッツ類が推奨されます。
- ・プロバイオティクス(善玉菌):腸内環境を整え、脳腸相関によってストレスを軽減し、認知症予防にも効果的です。ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌などの発酵食品を積極的に摂取しましょう。
2. 心の健康を支える食事
心の健康、すなわちストレスの軽減や幸福感を高めるためには、食材だけでなく、食事の仕方や環境も大きく関係します。
- ・バランスの取れた食事:糖質だけ、脂質だけといった偏った食事は血糖値の急変動を招き、気分の変動につながります。炭水化物・タンパク質・脂質のバランスを意識し、食物繊維を多く摂ることで血糖値の安定を図りましょう。
- ・セロトニンを増やす食材:幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌を促す食材には、トリプトファンを含むバナナ、乳製品、大豆製品、ナッツ類があります。
- ・カフェインの適量摂取:コーヒーや緑茶に含まれるカフェインは覚醒作用があり、適量であれば集中力を高め、気分をリフレッシュさせる効果があります。ただし、過剰摂取は不眠やストレスの原因になるため、1日2~3杯程度に抑えましょう。
3. “楽しく食べる”ことの大切さ
栄養素が豊富な食事を摂るだけではなく、食事の時間そのものを楽しむことも、脳と心の健康にとって重要です。
- ・人とのつながりを大切にする:食事は単なる栄養補給ではなく、コミュニケーションの場でもあります。家族や友人と楽しく会話をしながら食事をすることで、ストレスが軽減され、幸福感が高まります。
- ・五感を刺激する食事:視覚、嗅覚、味覚を楽しめるように、彩り豊かな食材を取り入れることで、食事の満足感が向上します。例えば、サラダには赤や黄色のパプリカを加えたり、ハーブやスパイスを活用したりすると、視覚的にも楽しい食事になります。
- ・食事の環境を整える:忙しい日々の中でも、ゆっくりと食事を楽しむ時間を作ることが大切です。スマホやテレビを見ながらではなく、食べることに集中し、味わいながら食事をすると、満足感が高まり、心の安定にもつながります。
- ・料理を楽しむ:自分で料理をすることで、食材に対する理解が深まり、食べることへの感謝の気持ちが生まれます。家族や友人と一緒に料理をするのも良いでしょう。

まとめ
脳と心の健康を維持するためには、栄養素を意識した食事を摂ることに加えて、楽しく食べることが大切です。オメガ3脂肪酸や抗酸化物質を含む食品を取り入れながら、バランスの取れた食生活を心がけましょう。そして、人とのつながりを大切にし、食事を楽しむことを意識することで、ストレスを減らし、より健康的な生活を送ることができます。日々の食事を“楽しい時間”にすることで、脳も心も元気になり、明るく前向きな毎日を送ることができるでしょう。
筆者

特任研究員
医学博士 酒谷 薫
自己紹介
民間のクリニックで「認知症フレイル予防外来」で高齢者を対象にした外来診療を行いながら、大学でAIを用いた認知症スクリーング検査法の研究を行っています。
患者様とどのように接しているか
高齢の患者さんが多いので、お話を十分に聞きながら、医学的エビデンスだけではなく、それぞれの患者さんの幸せにつながる医療を提供するように心がけています。
経歴
1981年 大阪医科大学卒業
1987年 大阪医科大学大学院修了(医学博士取得、1987年)
1988年 ニューヨーク大学医学部脳神経外科助教授、
北海道大学工学研究科修了(工学博士取得、1998年)
2002年 日本大学医学部脳神経外科教授
2012年 日本大学工学部次世代工学技術研究センター長
2019年 東京大学大学院新領域創成科学研究科
人間環境学専攻特任教授
現職:東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員
好きな言葉
「麦は踏まれて育つ」
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
65歳を超えるとフレイルにならないようにしっかり栄養を摂ることが大切です。肉、魚、大豆などによるたんぱく質、野菜、果物、そしてご飯や麺類など炭水化物をバランスよく摂ることが大切です。無理な減量は禁物です。高齢者では少し肥満傾向の方(BMI 25~27)が死亡率が最も低いと言われています。また、食事だけではなく運動も大切ですよ。