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食事療法による疾病予防や治療に時間栄養学は貢献する(柴田 重信)

時間栄養学とは

 時間栄養学は体内時計と食・栄養の相互作用を明らかにする学問であるので、まず体内時計についての概要を記載する。一般的に体内時計は約1日の周期である概日リズム(サーカディアンリズム)のことを意味し、24時間より15-20分程度長い周期を示す。体内時計を24時間周期に合わせることを同調(リセット)と呼ぶが、同調刺激には光、食事、運動、ストレス刺激などが知られている。体内時計は脳の視床下部にある主時計と、末梢臓器に存在する子時計からなり、主時計は外界の光刺激で同調するが朝の光で前進し、遅い夜の光で後退して同調する。
 一方、末梢時計は食事刺激で同調するが、朝食で前進し、遅い時間の夕食や夜食で後退して同調する。早目の時間の朝の光と朝食でリセットされる朝型は、肥満になりにくく、学校の成績、運動能力が優れ、うつ症状や精神障害などのリスクが低いという。
 ところで、社会全体は朝型・中間型に合わせた時刻体制になっているため、夜型は社会生活が不利になり種々のメタボ関連疾患のみならず不眠症、うつ病などの疾病を発症しやすい。

時間栄養学の2つの方向性

 時間栄養学は2つの方向性から成り立っている(図1)。第一に食・栄養が主時計、末梢時計を前進や後退させる方向性である。第二に体内時計が食・栄養の働きを調節する方向性である。時計遺伝子は胃・腸で栄養や食品成分の消化・吸収リズムに関わり、肝臓で栄養成分の分解・合成リズムに関わっていることから、栄養や食品成分は摂取する時間によって効果が異なる可能性がある。

図1 時間栄養学の概念図と例の表示

 次に、第一と第二の両方の方向性に関わる具体的な例を3つほど提示する。魚油に含まれるDHA・EPAの摂取はGLP-1、インスリンの分泌を変え体内時計のリセット効果を強める第一の方向性がある。一方、DHA・EPAによる血中の中性脂肪や総コレステロールの低下作用はマウス・ヒトでも朝摂取が効果的であるという第二の方向性もある。炭水化物はブドウ糖を産生し、その刺激でインスリンが分泌され時計遺伝子発現が調節される。一方、インスリンシグナルが機能しにくい糖尿病モデルマウスではタンパク質の摂取によるIGF-1(インスリン様成長因子)が末梢時計をリセットさせる第一の方向性がある(図1)。
 筋量や握力の維持、あるいは高齢者の認知症予防には夕食ではなく朝食の良質のタンパク質が重要であるという第二の方向性の研究成果もある(図1)。したがって、朝のタンパク質は体内時計リセットと筋肉維持の2つの効果を示すので有用である。また、水溶性食物繊維は短鎖脂肪酸を産生し、それが体内時計をリセットさせる第一の方向性がある。また、夕食に比較して朝食の水溶性食物繊維摂取は便通改善、骨密度低下の抑制にも効果的な第二の方向性がある。つまり、朝食時に水溶性食物繊維を摂取することは体内時計のリセットと共に便通に良いのかもしれない。

 明暗環境は一定にし、朝食欠食し昼から夜遅くまで喫食すると、光環境は一定なため主時計は欠食の影響を受けないが、第一の方向の結果として末梢時計は1-1.5時間遅れる。すなわち、朝食欠食で学校に行くと1時眼目はまだ朝ではなく、2時限目から朝として体内時計が働き始める。また朝食欠食は、その後の食欲が高まり、脂肪合成遺伝子が盛んになり、逆に体温は低下しエネルギー消費も減る。したがって朝食欠食の第二の方向は肥満・糖尿病のリスクになることである。

肥満・メタボ予防の為の時間栄養学

 肥満・メタボ予防の時間栄養学として取り組みは以下になる。
●寝る前スマホや夜食を禁止して夜型を防止する。
●夜ごはんの量は少めで時間は早目にし、残した食事は朝食に回してよい。
●夕食は、飽和脂肪酸(牛、豚)を避け、魚や大豆、あるいは鶏肉にする。
●朝食から夕食までを12時間以内、できれば10時間以内の食事にする。
●土日もなるべく平日の生活リズムを保ち、食事時間や睡眠時間も不規則にならないようにする。
●昼食はカリウムの摂取不足になりやすいので、野菜・果物・海藻などを積極的に摂取する。
●あまり軽い昼食や昼食欠食は夕食時に高血糖になりやすいので注意する。

 フレイルやサルコペニアあるいは骨粗鬆症の予防や治療に時間栄養学は貢献できるかを牛乳などの乳製品で考えてみる(図1)。高齢者になるとタンパク質の分解・吸収能力が低下するので、筋量維持にはより成人より多くのタンパク質を摂取する必要がある。成人を対象とした研究であるが、夕食ではなく朝食や昼食のタンパク質摂取が中強度運動と正の相関をするので、タンパク摂取と運動が筋量維持に効果的に働いている可能性がある。

 また、朝食時にタンパク質食品(卵、ヨーグルト、納豆など)をもう一品追加するようにアドバイスすると、実行具合に応じて、腹筋や腕立て伏せの回数が多くなった。したがって朝食の乳製品摂取がサルコペニア予防に効果がありそうだ。では、夕食の乳製品の摂取はどうであろうか。乳製品に含まれているカルシウムは吸収が良いことが知られている。造骨作用は夜間に盛んである。ところでカルシウム吸収は夕方高く、摂取したカルシウムの尿への排泄は夕方が低いので、カルシウム吸収を手助けするビタミンD強化の乳製品の夕食摂取は骨粗鬆症予防に適している。ただし、乳製品は乳脂肪が含まれるので肥満が気になる場合は、低脂肪乳がよいかもしれない。

筆者

早稲田大学名誉教授
広島大学 特命教授
愛国学園短期大学 特任教授
薬学博士 柴田 重信

自己紹介

体内時計研究者でしたが、体内時計と薬や食・栄養との関係に興味を持つようになり、特に食・栄養との関係で「時間栄養学」という学問を切り開いてきました。

患者様とどのように接しているか

私は臨床そのものにはかかっていません。しかし、未病や疾病の境界領域の方には、予防医学の重要性をお話し健康側に戻る努力のお手伝いをしている。

経歴と職歴

九州大学薬学部・博士課程修了。九大薬学部助手・助教授を経て、早稲田大学 人間科学部 教授、同大学 先進理工学部教授。現在、早稲田大学 名誉教授、広島大学 特命教授、愛国学園短期大学 特任教授、UCSI大学 マレーシアのvisiting professor.

好きな言葉

継続は力なり「Continuity is the father of success」

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

パワーアップ時間栄養で、鉄やタンパク質強化は朝食、カルシウム強化は夕食に向く。