食が変えるあなたの健康生活とサルコペニア予防(菅野 康二)
フレイル、サルコペニアとは
サルコペニアは加齢に伴う骨格筋肉量減少および筋力低下のことを指します。また、サルコペニアによる筋肉量の低下は寝たきり・要介護状態、死亡等の生命予後と密接に関連しています。人生100年時代そして超高齢社会の日本において、サルコペニアは健康長寿を妨げる一因となっており、サルコペニアの予防は喫緊の問題となっています。サルコペニアの疫学を見てみると、日本における一般地域住民を対象とした過去の研究では約14%前後と報告されています。
一方、サルコペニアと同じく扱われる言葉にフレイルがあります。フレイルとは加齢に伴い運動機能や認知機能等が低下し、慢性疾患の併存の影響も受け生活機能が損なわれた結果、心身の老いと衰え(=脆弱性)が出現する状態を指します。しかしながら、フレイルに対して適切な支援が行われれば生活機能の回復、維持が可能な状態となります。すなわち、フレイルは健康な状態と日常生活で支援を要する介護状態の中間に位置しています。私たちはこのフレイルの前段階であるプレフレイルの状態にある方を早期に発見することが重要と考えており、フレイルに移行することを阻止すべく、フレイル・サルコペニアを正確に評価し、介入して行くことを心がけています。
高齢者の医療
現在一般的に用いられている高齢者の定義についても見直しが進められており、日本老年医学会では65歳以上を準高齢者、75歳以上を高齢者、90歳以上を超高齢者と呼称すべきと提言されています。
それでは高齢者のどのくらいが病院に通院しているのでしょうか。2023年の国民生活基礎調査の研究によれば、65歳以上の約7割の方が何らか理由で通院を要しており、疾患では高血圧症が第1位であり上位にはいわゆる生活習慣病が並びます。大学病院は専門分野毎に外来受診科が細分化されていますが、高齢者では老年医学の考え方を合わせた診療が重要です。つまり、血圧が高い、太っている、痩せているという目の前の事実は確かに大切なのですが、日常生活の様子や仕事の内容、特に食生活には最も注意を払う必要があります。体格が良い方でもサルコペニア(サルコペニア肥満)の方もいます。そのような方々との診察の中で私が感じた健康法と健康長寿を目指す秘訣について次にお伝えしたいと思います。
健康法と健康長寿を目指す3つの秘訣
1つ目は、毎日1回笑顔になる時間を作ることです。スマホ、テレビ、パソコン、音楽、雑誌等、思い出した話題でも構いません。1日1回笑顔に慣れる習慣を作りましょう。
2つ目の秘訣はタンパク質です。生きる上で衣食住どれもとても大切ですが、やはり食が私にとって一番大切ですし、特にタンパク質をどのように摂取するかを最も考えています。サルコペニア予防のために重要な栄養素はタンパク質、ビタミンD、カルシウムです。前述のように、タンパク質は身体機能に大きく影響し継続した適切な摂取量とフレイルの危険が低下することには関連があることがわかっています。現在、タンパク質を多く含んだ様々な食品がコンビニやスーパー、ネット販売で売られています。
ではどのような内容のものを選んだら良いでしょうか。サルコペニアの予防だからといって、筋肉隆々になってくださいと言うわけではありません。個人の体格や生活習慣病の有無等個人差がありますのであくまで目安ですが、健康な方の1日に必要なタンパク質は、18-49歳では摂取エネルギーの13-20%、50-64歳では14-20%(男性の推奨量 60g/日)、そして65歳以上では15-20%(男性の推奨量 50g/日)が理想とされています。18歳以上の女性では50g/日が推奨摂取量です。そして、タンパク質は1食でまとめて摂取するのではなく、3食あるいは運動後、就寝前を含めて分割して摂取する方が効果的と言われます。
また、摂取量と同様に重要なことはタンパク質の質です。必須アミノ酸は体内で合成できないため食品から必要な分を摂取する必要があります。アミノ酸スコアはタンパク質の栄養価を示しており、一般的に肉、魚、卵、大豆、乳類で良好と言われます。なお、タンパク質源となる食品は脂質も多く含みます。特に肉や乳製品等の動物性タンパク質の方がアミノ酸スコアの高い良質なタンパク質が多いですが、特定の食品・食材に偏らず、植物性食品も含めてバランスよく摂取することを心がけましょう。
このようにお話しするとタンパク質を何とかして摂らなければ思われるかもしれませんが、やはり食事は楽しく、美味しく食べることが大切です。1日の中で食事に割ける時間はどのくらいありますか。食事時間は食べることに加えて、視覚、嗅覚、味覚、食感で感じながら一人一人が食を楽しむ、独占できる時間が流れているのだと思います。食事時間はリラックスできる貴重な時間になって欲しいと思います。
食事と同じくらい大切ですが、3つ目は運動です。ただ若い頃の激しい運動を何歳になってもできる方は少ないと思いますので、下半身を動かし有酸素運動が勧められます。私が心がけていることはスクワットと散歩です。生活は個々人によって様々であり誰かと同じようにやろうとしなくて良いと思います。自分に合った運動量、運動時間が大切で、できれば毎日続けられるくらいの分量が良いです。私の場合、勤務中はエレベーターを使わず全て階段を使っています。帰宅してからも1週間に何度か筋トレをしますが、明らかに余裕をもって終える分量にしていますので、せいぜい10分かかるかどうかです。平日のどこか1日と土曜日、仕事がない日曜日は緑道を歩くようにしています。食事も運動も根気よく続けられるためには、無理をし過ぎないことです。もちろん目標設定は大切ですが、毎日の気分の変調があったり、予定外のこともあったりするかもしれませんので、気張らず緩めに始めてみることです。そして何よりも楽しみながら、気持ちよくできることが秘訣だと思います。
最後に
人生100年時代をどのように生きるか、本当に多様な時代となりました。どの時代にも食を楽しむ時間、文化が根付いていることは事実です。今回お伝えした内容が、読者の皆様が日常生活を送る上でのご参考になればうれしいです。
筆者
自己紹介
学生中はバスケットボールで体を鍛え、食事も1日5食のこともありました。からだも心もベストな状態でいることを常に目標にしています。他者を思いやる心をこれまでの人生で育てていただきました。
患者様とどのように接しているか
病気のことだけでなく日々の食生活、運動習慣や他者との交流、趣味等、診察を通して伺っています。
経歴と職歴
2003年順天堂大学医学部卒業、市中病院、大学病院勤務を得て、2012年から名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野へ国内留学。
緩和医療学、精神腫瘍学を学び多くの患者、家族との会話を通じて、「こころ」と「病気」について研鑽を積み、2015年に医学博士号取得。同年4月より順天堂東京江東高齢者医療センター呼吸器内科へ赴任、2018年より准教授、科長となり現在に至る。専門は、呼吸器内科、老年医学、精神腫瘍学、緩和医療学。
好きな言葉
思いやり
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
代表的な栄養素とタンパク質を補い、好きなタイミングで食せるため、痩せや栄養不足と感じる方に最適です。