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フレイル予防のための“食の楽しみかた”(田中 友規)

 長生きするなら、健やかで幸せな毎日を送りたいものです。そんな健“幸”長寿の夢を叶えるには、フレイル予防が重要な鍵を握ります。フレイルとは、加齢によって身体、精神、社会性など多面的な機能が低下する状態を指します(1)。フレイルを予防するには、身体の衰えに限らず、精神や社会性に配慮した複合的な対策が有用です(2)。特に、社会的つながりの低下がきっかけとなり、孤立や孤食、食欲減退、口腔機能の低下、生活満足度の低下といった問題が連鎖的に起こることもあります(図1)(3)。食を楽しむことを心がけると、食習慣が自然と変わります。すると、元気になったり、食欲が増したりして、好循環が生まれるかもしれません。だからこそ、”食事を楽しむ“ことがフレイル予防にはとても大切なのです。

図1.社会とのつながりから始まるフレイルドミノ

 「食を楽しむ」という行為には、栄養を摂る以上の意味があります。日々の食事に意識を向け、五感を刺激しながら楽しむことが、心と体の健康を保つ鍵となるのです。本稿では、東京大学高齢社会総合研究機構と東京ガス株式会社との共同研究で開発された「い・い・あ・す・だ」というフレームワークをもとに、フレイル予防のための“食の楽しみかた”をご紹介します(図2)。

図2. 東京大学高齢社会総合研究機構と東京ガス株式会社共同研究した
“フレイル予防を楽しむための「い・い・あ・す・だ」”

ただきますを言う
 食事の始まりに「いただきます」と言うことで、食材や作り手への感謝が生まれ、食事そのものに意識を向けられます。これにより、食べる行為がただのルーティンから、楽しみの時間へと変わります。また、食事の彩りやバランスを意識しながら、「フレイル予防には何をどれくらい食べればよいのだろう?」と考える時間を持つことも学びの一歩です。

ろどりを整える
 食事の彩りは、視覚を通じて食欲を刺激し、食事を楽しいものにしてくれます。たとえば、「自分の食卓には何色があるかな?」と考えてみるのはいかがでしょうか。赤、緑、白、黒、黄色など、多様な色の食材を取り入れることで、食事の多様性や栄養バランスも自然と整いやすくなります。中国の古い思想に五色の食材を食べると、健康でいられるという考え方もあります。
彩りは食材だけでなく、食器や盛り付けでも演出できます。スーパーで旬の食材を選んで季節を感じたり、普段使わない食器を取り出して使ってみたりするだけでも、新鮮な気持ちで食事を楽しめます。また、「ミールタイム」の食事でも、パッケージから一皿に移し替えるだけで特別感を味わえます。買い物や準備、片付けといった一連の行動は面倒に思えますが、実はこれらも心身を活性化させる大切な活動です。

たらしい食に挑戦
 新しい味や香り、食感を楽しむことは、若々しさと好奇心を保つ秘訣です。普段の料理に“ちょい足し”をするのは、手軽でおすすめの方法です。たとえば、普段使わないスパイスを試してみる、異国の調味料を加えてみるなど、小さな変化が食事を豊かにしてくれます。また、ナッツ類など噛みごたえのある食材を取り入れることは、オーラルフレイル予防にもつながります。お口の元気はからだの元気につながります(図3)(4)。食を楽しむための口を守ることはとても大切です。
食事のマンネリ化は実は黄色信号。“ちょい変え”が大切です。ご当地食材フェア、新メニュー、飲み比べ食べ比べなど、ちょっと気になる新商品を見つけたら意識して試してみるのも吉。好奇心に従って「買ってみる」「食べてみる」「飲んでみる」という行動そのものが、日常に刺激を与えます。

図3. オーラルフレイル新概念図(一般向け)(5)

きなものを食べ

 好きな料理が食卓に並ぶと、自然と食欲が湧き、幸せな気持ちになります。料理をするのが面倒だと感じる人や苦手な人も、自分のために簡単な料理を作り、自分流のおいしさを追求してみませんか。一品料理でも構いません。自分の好みに合った味を楽しむ時間は、心に大きな喜びをもたらします。生きるための食事は「食べてはいけない」の発想になりがちです。活きるための食事は「食を悪者にしないことが大切である」とかつてある一流シェフが教えてくれました。一日の摂取バランスや調理や食材、食べ合わせを工夫するなど、好きなものを食べる工夫は、過程も丸ごと楽しみましょう。

れかと食べる
 食事は誰かと一緒にすることでさらに楽しいものになります。家族や友人と食べる機会が少ない場合でも、店員や他のお客さんと軽く会話を交わすだけで気分が明るくなります。また、ラジオやテレビをつけて人の声を聞きながら食べるのも一つの方法です。趣味の集まりや季節のイベントで共食の機会を作ることも良いアイデアです。「おしゃべりは最高のごちそう」という言葉の通り、食事中の会話は心を豊かにしてくれます。

食を楽しむことで生まれる好循環

 食事を楽しむことで、自然と食習慣が変わり始めます。その結果、元気が出たり、食欲が湧くなどの好循環が生まれます。五感を通じて食事を味わうことは、心と体に活力を与える一番身近な方法です。ぜひ、今回ご紹介した「い・い・あ・す・だ」の中から一つでも今日から取り入れてみてください。食を楽しむことが、フレイル予防への第一歩となるのです。

Reference

  1. 1)日本老年医学会ほか.フレイル診療ガイド2018年版.荒井秀典(編). ライフ・サイエンス;2018.
  2. 2)Lyu W, Tanaka T, Bo-Kyung S, Yoshizawa Y, Akishita M, Iijima K. Integrated effects of nutrition-related, physical, and social factors on frailty among community-dwelling older adults: A 7-year follow-up from the Kashiwa cohort study. GeriatrGerontol Int. 2024 Mar;24 Suppl 1:162-169. doi: 10.1111/ggi.14734. Epub 2023 Nov 20. PMID: 37984854.
  3. 3)Tanaka T, Son BK, Lyu W, Iijima K. Impact of social engagement on the development of sarcopenia among community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. GeriatrGerontol Int. 2022 May;22(5):384-391. doi: 10.1111/ggi.14372. Epub 2022 Mar 23. PMID: 35322539.
  4. 4)Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018 Nov 10;73(12):1661-1667. doi: 10.1093/gerona/glx225. PMID: 29161342.
  5. 5)Tanaka T, Hirano H, IkebeK,et al. Consensus statement on “Oral frailty” from the Japan Geriatrics Society, the Japanese Society of Gerodontology, and the Japanese Association on Sarcopenia and Frailty. GeriatrGerontol Int. 2024 Nov;24(11):1111-1119. doi: 10.1111/ggi.14980. Epub 2024 Oct 7. PMID: 39375858.

筆者

東京大学高齢社会総合研究機構
特任助教 医学博士 田中 友規

自己紹介

地域を巻き込むフレイル予防実践の専門家です。フレイル予防に向けたデータ利活用・産学官民連動・住民主体のヘルスプロモーション開発と実践に取り組んでいます。

患者様とどのように接しているか

私は地域で活躍するご高齢の方々と接することがほとんどです。「人生の先輩としての、リスペクトと信頼をもって、彼らの主体性を促しながら実践にいかに巻き込むか」を強く意識しています。

経歴

東京大学大学院医学系研究科にて博士(医学)、高齢社会総合研究プログラム修了(GLAFS)、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科にて修士(健康マネジメント学)を修了。
東京大学高齢社会総合研究機構にて学術支援専門職員、日本学術振興会特別研究員、東京大学高齢社会総合研究機構 特任研究員を経て現職。

好きな言葉

  • よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べてよく休む。
    人生をおもしろおかしくはりきって過ごしてしまおうというものじゃ! – 亀仙人
  • Curiosity keeps leading us down new paths
    (好奇心はいつだって、新しい道を教えてくれる)
    – Walt Disney

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

「パワーアップには何をどの程度食べればよいのか」を学ぶ絶好の機会です。毎日の食卓に活かしましょう。