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味覚に注目した「美味しい」高血圧・フレイル対策(水田 栄之助)

 日本では平均寿命は延びていますが、「健康寿命」との間には約10年の差があります。多くの方が人生の最晩年に、何らかの病気や障害を抱えながら生活しているのが現状です。その大きな原因が「高血圧」と「フレイル」です。

 高血圧は脳卒中や心不全の最大の危険因子であり、その背景には食塩の摂り過ぎがあります。一方、フレイルは低栄養や筋肉量の低下によって起こり、転倒や要介護につながります。実は食べる量を減らすと簡単に減塩できます。しかし健康寿命を延ばすためには、相反する「減塩」と「低栄養予防」を同時に考えなければなりません。そこで我々は「味覚」に注目しました。

 味覚は単に「美味しさ」を感じるためのものではなく、体に必要な栄養素や有害な物質を見分ける大切な感覚です。甘味はエネルギー源、うま味はたんぱく質、塩味はミネラルが食べるものに含まれているかどうかを知らせてくれます。ところが、加齢や偏った食生活、亜鉛不足、さらには薬の影響によって、味覚感度は低下します。特に塩味に鈍くなると、「もっと塩気が欲しい」と感じ、無意識のうちに塩分摂取量が増えてしまいます。実際に、高血圧や心疾患、腎不全の患者さんでは、塩味感度の低下が非常に多いことがわかりました。

 しかし味覚感度は「リセット」できます。味蕾(みらい)の細胞は8-12日で入れ替わります。2週間から1か月ほど減塩食を続けると、薄味でもしっかり味を感じられるようになります。最初は「味が薄い」と感じても、続けることで味をしっかり感じるようになり、うす味でも苦痛なく減塩できるという訳です。栄養指導の場面では、「まず短期間しっかり減塩を続ける」ことを提案することが大切です。味覚をリセットできれば、その後の減塩はぐっと楽になるはずです。

 一方高齢者では、過度の減塩を行うと食事摂取量が減少し、フレイル・サルコペニア、脱水・腎機能障害を引き起こします。最近、心不全で入院中の患者に減塩を厳しく指導するよりも、栄養バランスよくしっかり食べるよう指導した方が予後が良いことが知られています。高齢になると自然に味覚感度が低下し、さらに多数の薬を内服していると薬剤性味覚障害を引き起こします。味がわからなくなると食欲が落ち、低栄養へと進みます。低栄養になると筋肉が減り活動量が減ります。活動量が減るとお腹がすかなくなるので、さらに食事摂取量が減り、低栄養が進みます。このように味覚感度の低下がきっかけで「フレイルの悪循環」に陥ります。特にうま味の感度が落ちると、食事の満足感が低下し、嚥下機能の低下にもつながることも報告されています。高齢者の味覚感度を改善することは至難の業なので、高齢者に対しては、まずはうま味や五感を活かすなど、しっかり食べることを指導し、「減塩のために食べる量を減らす」ことを避けなければなりません。

 日本人の食塩摂取の半分以上は、加工食品から来ています。家庭で調整できる塩分は全体の約4割にすぎません。つまり、個人の努力だけでは限界があります。英国では、パンの塩分を少しずつ減らす取り組みにより、国民が味の変化に気づかないうちに1日平均約1.4gの減塩に成功し、脳卒中や心筋梗塞が半減しました。このように自然に減塩できる食環境づくりが非常に効果的です。山陰では、医療機関・大学・自治体・食品メーカー・マスコミなど産官学が連携し、「美味しい社会的減塩」や「みんなでフレ飯!(フレイル栄養対策)」プロジェクトが行われています。例えば保存を塩に頼らず乾燥法を工夫することで塩分を約30%カットした減塩干物や、うどんのつなぎとして塩の代わりに「あかもく」を使用することで、ほぼ食塩が含まれていないうどん「あかもくうどん」などが開発されました。ポイントは、「減塩なのに美味しい」ではなく、「減塩だから美味しい」という発想です。塩が減ることで、素材本来のうま味が際立ちます。開発された商品は、学校給食や病院食に取り入れられています(図1)。

 減塩・フレイル対策、いずれも味覚低下が鍵になります。これらをうまく対応するためには、「個々の味覚に注目して美味しく食べる」ことが重要です。味覚という視点を取り入れた栄養指導が、これからの高血圧・フレイル対策の要になると考えています。

図1: 鳥取県での「美味しい社会的減塩」

日本高血圧学会「高血圧ゼロのまち」モデルタウンに境港市・南部町が選ばれ、その活動が英語論文として報告されました。

参考文献: Mizuta E, et al. Delicious salt reduction in Tottori, Japan: a regional Industry Government-Academia Collaboration to prolong healthy life expectancy. Hypertens Res. 2025 Nov 5. doi: 10.1038/s41440-025-02452-0.

筆者

独立行政法人労働者健康安全機構 山陰労災病院 循環器内科部長
水田 栄之助

自己紹介

高血圧・心不全を専門にしています。味覚と生活習慣病との関係について長年研究しています。実臨床においても「美味しく食べる」ということが、いかに重要であるかを痛感しています。臨床・研究・教育の3本柱をバランスよく行い、「石(医師)頭」にならないよう心がけています。

患者様とどのように接しているか

医療従事者は患者様にご飯を食べさせてもらっています。したがって患者様が求めることを忠実に提供することが大切だと思っています。また医師一人では患者さんに対して何もできません。指揮者のようにそれぞれの専門職の技術を束ねて(チーム医療)、患者様に最高ではなく最適なサービスを提供することが、私の仕事だと思っています。

経歴

2002年 鳥取大学医学部医学科卒業

2003年 鳥取赤十字病院内科

2004年 鳥取大学医学部第一内科

2006年 国立循環器病研究センターバイオサイエンス部 
    流動研究員

2007年 鳥取大学医学部附属病院循環器内科

2011年 山陰労災病院循環器内科部長・医師臨床研修センター長
    鳥取大学医学部循環器・内分泌代謝学分野 
    連携診療准教授

現在に至る

好きな言葉

「病気を診ずして病人を見よ」

病んでいる「臓器」や「数値」だけを診るのではなく、病気に苦しむ「人間そのもの」に向き合い、その背景や心に寄り添うことを大切にしています。

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

某こども向けのテレビ番組で「笑顔のレシピでパワーアップ!」という決めゼリフがあります。食べる人が笑顔になるような献立で、美味しくパワーアップできる優れた食事だと思います。多くの人に活用していただきたいです。