「誰かと笑いながら食べる」それが健康への近道――耳鼻咽喉科医が伝えたい、口とのどの守り方(大久保 啓介)
1. 食べることは生きること
最近、食事が少し面倒に感じることはありませんか?私は耳鼻咽喉科医として、日々「食べる・話す・聞く」を支えています。この3つは、私たちが日常を送るうえで欠かせない力です。長く元気に過ごされている方には、ある共通点があります。それは「誰かと楽しく食べている」ことです。食事は栄養をとるだけの時間ではありません。心を満たし、明日への力をくれるひとときです。誰かと笑い合いながら食べることが、健康寿命をそっと後押ししてくれるのだと、私は感じています。
2. 入院中に気づいた「会話の力」
私自身が大部屋に入院していたときのことです。70代の男性3人が「俺の腰はどうしようもない」「私は脳梗塞をやったよ」と、いわば病気の自慢話をしていました。最初は苦笑いして聞いていましたが、その会話には評判の良いクリニックやワクチンの話題など、大切な情報が自然に含まれていました。何気ない一言が、誰かの行動を変えることがあります。おしゃべりの中には、命を守るヒントが紛れているのです。人と関わることそのものが、体と心へのよい刺激になると、私は感じています。
3. フレイルとサルコペニア
健康と介護のあいだにある状態を「フレイル」と呼びます。肺炎や骨折をきっかけに急に弱ってしまうこともある段階です。その背景には、筋肉量の低下、いわゆる「サルコペニア」があります。筋肉は全身だけでなく、のどにもあります。年齢とともに筋力が落ちると、飲み込む力も弱まります。だからこそ、筋肉を守ることが健康寿命を支える鍵になります。
4. 食卓という最強の健康習慣
健康寿命を支える柱は3つあります。「栄養」「運動」「社会参加」です。そして私は、この3つを無理なく満たせる場所が「食卓」だと考えています。誰かと一緒に食べることで栄養が整い、外に出ることが運動のきっかけになり、会話が心を動かします。健康は一人で頑張るものではありません。笑い合いながら食べることが、いちばん身近な健康習慣だと私は思います。

5. のどのセルフチェック
食事中にむせる、滑舌が悪くなった、そんな小さな変化に気づいたら、朝3分ののどの体操を試してみてください。深呼吸をして姿勢を整え、大きな口で「えー・いー・あい・おー・うー」と発音します。「パタカラ」とはっきり声に出し、最後に5秒間で「タ」を何回言えるか数えてみます。5回を1つとして数えるのがコツです。30回(6つ)に届かない場合は機能が少し低下している可能性があります。体操を続けることで改善が期待できます。大切なのは、楽しみながら無理なく続けることです。
6. 筋肉を守るコツ
全身の筋肉も簡単に目安を確かめられます。両手で輪をつくり、ふくらはぎを囲んでみてください。隙間ができるようであれば、筋肉量が減っている可能性があります。運動のあとに卵や魚、乳製品などのたんぱく質をとると、筋肉づくりの助けになります。汁物でむせる場合は、とろみをつけるなどの工夫も役立ちます。口の中を清潔に保つことも大切です。
7. 外来での実感
以前、70代の男性が「むせやすい」と来院されました。一人暮らしで会話が減っているとのことでした。のどの体操や階段の利用、たんぱく質の摂取に加え、昔好きだったカラオケを再開するようお勧めしました。2か月後、「食事が楽になった」と笑顔で話してくださいました。私は、小さな習慣が人の生き方を変える力を何度も目にしてきました。健康とは、誰かと笑い合えること。今日の一食を、ほんの少し丁寧に。その積み重ねが、未来の自分を支えてくれます。
筆者

主任部長 大久保 啓介
自己紹介
佐野厚生総合病院耳鼻咽喉・頭頸部外科で診療にあたっています。嚥下障害の診療を中心に、外来や多職種チーム医療に加え、外科的治療にも取り組んでいます。「どうすればまた自分の口でおいしく食べられるか」をテーマに、日々患者さんと向き合っています。院内ではテニス部を立ち上げ、15年以上活動を続けています。練習前に囲むランチの時間や、学会発表前に仲間と食事をともにするひとときが、私にとって何よりの楽しみです。
患者様とどのように接しているか
日々の診療では、何が困っているのかを丁寧にうかがい、その方にとって最善の方法を一緒に考えています。
経歴
1995年慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室に入局。足利赤十字病院にて研修後、慶應義塾大学助手を経て、2002年より佐野厚生総合病院耳鼻咽喉科医長として勤務。
2012年、慶應義塾大学大学院にて医学博士を取得。
2015年から4年間、当院医療安全対策室 室長を兼務。
現在、当院主任部長、慶應義塾大学客員講師、当院患者支援センター長、嚥下機能サポートチーム統括を務める。
好きな言葉
和をもって尊しとなす
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
食事量が少なくなってきた方や、十分なたんぱく質をとることが難しい場合には、栄養補助食品を上手に取り入れる方法もあります。最近は、必要な栄養素を効率よく補える商品も増えてきました。「ミールアップ パワー食」も、その一つの選択肢です。通常の食事を基本としながら、体調や医師の助言に応じて補助的に活用することで、無理なく栄養を整える助けになります。栄養補助食品の選択に迷う場合は、医師や管理栄養士に相談すると安心です。













