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食物繊維と腸内細菌 〜どうすればいいの?〜(藤岡 由夫)

1)はじめに

 近年、食物繊維と腸内細菌叢(腸内フローラ)が注目されています。ヒトの腸には、総数で100兆個以上とされる腸内細菌叢(腸内フローラ)が存在し、数百種類以上の細菌から構成されています。腸内細菌叢(腸内フローラ)によってビタミンK2が産生することなどは以前から知られていましたが、食物繊維、特にその代謝産物が腸内細菌叢(腸内フローラ)の構成や代謝に影響を及ぼし、人の健康や疾患発症に関わっていることがわかってきました。

 すなわち、食物繊維はそもそも「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の一部」とされていますが、食物繊維が腸内細菌によって分解され、その代謝産物がさまざまな生理機能を持つということです。


2)食物繊維と短鎖脂肪酸

 表1に主な食物繊維について記します[1]。

表1 食物繊維の主な種類([1]を参考)

 個人によって摂取される食物繊維の種類や量の違いに加え、これらを分解する腸内細菌の種類や量のバランスが個人によって異なることから、代謝される糖類もさまざまです。これらはさらに短鎖脂肪酸と呼ばれる酢酸、プロピオン酸、酪酸に代謝されます。

 短鎖脂肪酸の大部分は大腸上皮細胞のエネルギー源に用いられますが、一部は血液中に入り、Gたんぱく質共役型受容体と呼ばれるさまざまな受容体に結合することにより、免疫はもちろん糖代謝や肥満の調節など多様な生理効果を生むことになります[2, 3]。

 例えば、主にプロピオン酸が作用するGPR41は消化管や自律神経系に関与し、プロピオン酸の結合により交感神経を刺激してエネルギー消費を亢進します。

3)腸内細菌が関与する食事内容と疾患

 例を挙げますと、高脂肪食が腸内細菌叢(腸内フローラ)に影響を及ぼし、leaky gut (粘膜透過性亢進)を誘導し、血中や組織中のエンドトキシンの増加を引き起こして炎症を誘導します。こうした反応が1型糖尿病の原因であるβ細胞の破壊、インスリン抵抗性の増悪などの病態に関連しています。

 また卵や乳製品、甲殻類に含まれるコリンや肉に含まれるカルニチンは腸内細菌の働きでトリメチルアミン(TMA)に、さらに肝臓で代謝されてTMA-N-オキシド(TMAO)となり、これが動脈硬化を促進させ、また心不全悪化にも関与することが報告されています[4]。

4)どうすればいいの?

 腸内細菌叢(腸内フローラ)を決めるのは人種や遺伝的背景、母親の肥満、妊娠期抗菌薬使用や母乳内容、そして3歳ごろまでの食事の影響と考えられており、エンテロタイプと呼ばれる腸内細菌叢(腸内フローラ)の大きな枠組みが構成されます。その後の環境要因が加わって個々の腸内細菌叢(腸内フローラ)が形成されます。腸内細菌叢(腸内フローラ)に影響を及ぼすと考えられる食事を表2に示します。

表2 腸内細菌に影響を及ぼすと考えられる食事や生活習慣([7]を参考)


 ただし、食事内容で腸内細菌叢(腸内フローラ)の構成は変化し得るも、エンテロタイプを変えるまでにはいきません。また例えば乳酸菌を摂取しても一時的には変化しますが、その後摂取せずにいると元に戻ります。継続が必要です。

 高脂肪食は避けるべきですが、肉類にも大切な栄養素は含まれますので、バランスを考えて食事を楽しむことが大切です。伝統的な日本食は、肉の脂身、動物脂、加工肉、鶏卵の過剰摂取を控え、野菜・果物、低脂肪乳製品、魚介類など新鮮な食材を摂取するといった食事パターンですので、善玉菌を増やす傾向にあります。ただし高食塩、低カリウム、低カルシウムが問題点ですので、これらに配慮した内容を目指しましょう[5]。

 降圧と血清脂質改善、そして動脈硬化性疾患予防効果のエビデンスが高いDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食は減塩と低コレステロールで有名ですが、上記の日本食パターンの良い点は同じです。また地中海食も同様のパターンですので望ましいですが、最近の地中海食は高脂肪ですので、注意してください[5]。

 一方、腸内細菌によって、「D-アミノ酸」が産生されることが明らかにされており、発酵食品にも「D-アミノ酸」は多く含まれます。例えばチーズやヨーグルト、また納豆、味噌、醤油、漬物など日本の伝統的な発酵食品にも多種類のD-アミノ酸が含まれるとされています。この「D-アミノ酸」は腎臓の保護や細胞機能の維持に関与しています[6]。高食塩や高脂肪に注意しながら、摂取してください。

 特殊な治療として、悪玉の細菌を減らすために抗菌薬を内服することもありますが、善玉菌も減少しますので、その使用は一部の疾患に限られています。また糞便移殖(fecal microbiota transplantation、FMT)も、内視鏡などで反復して投与する必要があり、受けた側の炎症惹起の問題もあるため、まだまだ開発段階です。 

 以上、腸内細菌の最近の話題について記しましたが、食事の疾患予防効果についての大規模な調査はこれからですので、今後の発展を期待したいところです。

[1]日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版 20 Keywords 21 食物繊維 (p154)、レタープレス株式会社、東京、2023
[2]鈴木卓弥 食物繊維の生理効果には腸内細菌叢が深く関わる Microbiome Science 2023;2:19-23
[3]Ohira H, Tsutsui W, Fujioka Y. Are Short Chain Fatty Acids in Gut Microbiota Defensive Players for Inflammation and Atherosclerosis? J AtherosclerThromb 2017;24:660-672
[4]山下智也、平田健一 腸内細菌と循環器疾患 日本医師会雑誌 2020;12:1583-1587
[5]日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 2.4.食事療法 (p78-101)、レタープレス株式会社、東京、2022
[6]Nakade Y, Iwata Y, Furuichi K, et al. Gut microbiota-derived D-serine protects against acute kidney injury. JCI Insight 2018;3:e97957
[7]厚生労働省 e-ヘルスネット[情報提供]腸内細菌と栄養 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
(2023年8月28日現在)

筆者

神戸学院大学 栄養学部臨床栄養学部門 教授 医学博士 藤岡 由夫

自己紹介

 学生時代に心筋梗塞と動脈硬化、高脂血症、高血圧に興味を持ち、家族性高コレステロール血症の心筋梗塞例を経験して、循環器内科とコレステロールの専門医を志しました。留学以来、レムナントリポ蛋白、トリグリセライドの意義も研究しています。動脈硬化の予防と治療は、遺伝的要因と環境要因、特に食事療法が基本です。
 医局人事で神戸学院大学に移ってからは、循環器医としての臨床とともに、管理栄養士や臨床検査技師の養成、そして日本人の食事摂取基準や食事療法に関する種々のガイドラインの作成、The Japan Dietの推進などに携わっています。

患者様とどのように接しているか

 診療では、循環器内科医として心筋梗塞や脳卒中をできる限り予防すること(血圧と血清脂質および血糖のコントロール、禁煙、運動推進)を、がんの早期発見・治療と合わせて常に心がけています。そのためには患者さんに食事療法を理解して少しでも実行していただくことが、薬物療法やリハビリと並んで最重要項目です。
 食事は生きていく上で必須の栄養を摂るだけでなく、楽しみでもあるべきです。厳しくするだけの指示や説明は無益で、またサルコペニアを引き起こしてしまうような内容は避けねばなりません。個々に合わせてポイントとなる治療内容を考えています。そして実際に私の周りの医療スタッフが診療現場で利用できるよう、臨床医学的なエビデンスと人を相手にしている経験を踏まえた知識と技術を、ガイドラインや摂取基準の作成なども介して広めてゆきたいと考えています。

経歴と現職

1986年神戸大学医学部医学科神戸大学第一内科医員、六甲病院内科医員を経て、1995年米国スタンフォード大学医学部研究員、1997年兵庫医科大学第一内科助手、同循環器内科学講師(病棟医長)、2004年神戸大学大学院循環呼吸器病態学講師(病棟医長)、2006年より神戸学院大学栄養学部教授(臨床栄養学部門)。医学博士(神戸大学)、総合内科専門医、循環器専門医、動脈硬化専門医、日本動脈硬化学会認定指導医、高血圧専門医、日本高血圧学会特別正会員(FJSH)、認定産業医、日本心臓病学会心臓病上級臨床医(FJCC)、日本臨床栄養学会認定臨床栄養指導医、日本動脈硬化学会認定指導医、高血圧・循環器病予防療養指導士認定委員会副委員長。「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版 食事療法」「2023年改訂版冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン 食事療法」、「肥満症診療ガイドライン2022 保健指導で必要となる生活習慣と減量効果のエビデンス」、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 食事療法」、「高血圧と循環器病の予防と管理 第二版 高血圧・循環器病予防療養指導士認定試験ガイドブック」、「日本人の食事摂取基準(2020年版)脂質」などを執筆。

好きな言葉

叩けよ、然らば開かれん

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

現在は健康であっても、食材やメニューの中にコレステロールや脂肪酸、食塩、そしてカロリーがどれだけ含まれているかを知ることが今後の動脈硬化予防に必要です。