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元気に長生きするために(犬飼 道雄)          

 岡山で多くの公民館をめぐり、「元気に長生きするために~よく食べて・よく動く~」という講演をしてきました。参加される多くの方々は、“死ぬまで元気でいたい!どうしたらえんな?”と皆さんおっしゃります。

 日本では、健康寿命も平均寿命も延び続けています。一昔前の定年は55歳でしたが、最近は65歳になりつつあり、75歳を目指そうの声まであります。元気に長生きしているのは間違いないのですが、健康寿命と平均寿命の差は一定で変化していません。

ADLを維持・向上する

 日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)は、日常生活を送るために最低限必要な動作で、具体的には食事・排泄・着脱衣・入浴・歩行、移動などを指します。身体能力や日常生活レベルを図るための重要な指標で、Barthel Index※1(図1)やFIMなどを用いて評価します。

 

図1 Barthel Index(基本的ADL)

※1 Barthel Index:10項目を0点、5点、10点で点数化し、その合計点を100点満点として評価する。
(日本老年学会より引用)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/pdf/tool_09.pdf



 ADLが低下すると、日常生活が送りにくくなります。活動性が低下して、社会参加の機会が少なくなると、楽しみが減ってしまいます。生きがいや役割を見いだせなくなると、家に閉じこもりがち(社会面のフレイル)となり、口腔に関する関心が薄れオーラルフレイルとなり、栄養面のフレイル⇒身体面のフレイル⇒重度フレイルに繋がってしまいます。

ADLを低下させないためには?

 ADLに対して手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)があります。IADLはADLよりも複雑で高次な行為や動作で、具体的には電話の使い方・買い物・食事の準備・家事・洗濯・移動・服薬管理・金銭管理などを指します。IADLの評価には、Lawtonの尺度、老研式活動能力指標などがあります。

 高齢者が要介護状態になるまでの過程では、先にIADLが低下し、次にADLの低下が起こるとされています。したがって、ADLを低下させないためには、IADLが低下しないように、維持・向上させることが重要になります。

IADLのなかで特に注意することは?

 平成23年度要介護認定における認定調査結果によると、最初に買い物に行きにくくなり、ついで簡単な調理が難しくなることが明らかになっています。歩行ができ移動が自立している人(ADL)に比べて、買い物や簡単な調理ができる人(IADL)の割合は、要支援1から要介護2まで共通して低くなっています(図2)。

図2 要支援1~要介護2の認定調査結果


 

 買い物に関わるすべてを自分で行うことができなくなると、買い物がしづらくなります。その結果買い物の回数が減るなどして、どうしても日持ちするものを購入しがちになり、なんでも食べることが難しくなります(食品摂取の多様性が低下する)。また簡単な調理ができないと、炊飯、弁当・惣菜・レトルト食品・冷凍食品の加熱などをひとりでするのが難しくなり、食事の回数が減り、エネルギー摂取量が減少してしまいます。

 長い目で見れば、IADLは加齢や疾病が原因で低下し、いつかは自立して行うことが難しくなります。できることは自分でするとしても、適切な時期に適切なサポートを受けることが大切です。身体機能、精神機能の回復や維持を促すリハビリは言うまでもなく、最近では個人を取り巻く地域の環境(公民館の講演や配食サービスなど)にも様々なヒントがあります。IADL維持・向上のため上手に取り入れていきましょう。



なんでも食べることは大切か?

 最近1週間のうち、10種類の食品をほぼ毎日摂っていますか?①肉類、②魚介類、③卵、④大豆・大豆製品、⑤牛乳・乳製品、⑥緑黄色野菜、⑦海藻類、⑧いも、⑨果物、⑩油を使った料理のうち、この1週間でほぼ毎日食べた場合は1点、そうでない場合は0点で合計点を算出してみましょう(図3)。

図3 食品摂取の多様性スコア

 食品摂取の多様性スコアといい、7点以上あれば体重当たりのたんぱく質摂取量が多く、握力が強く、歩行速度が速いことが分かっています。なんでも食べることは、低栄養・フレイル・サルコペニアの予防に自然になるのです。

食べるために何が必要か?

 まずは食べるものがなければ、食べることはできません。食べるものがあれば、美味しくて、食べやすくて、適量で、バランスがとれていれば最高です。持病への配慮も必要です。

 そして食べるための総合力:食力(しょくりき)を意識する必要があります。食力とは、①食欲と満足、②食環境、③歯牙・口腔内環境(唾液を含む)、④摂食・嚥下機能、⑤全身筋力と身体機能、⑥消化管・消化器の状態、⑦消化管内の環境と排便、⑧食と死生観(倫理感)から成ります。

 食力を整えることで元気に食べれるようになり、加齢に負けない身体、病気・ケガになりにくい身体、病気・ケガが治りやすい身体になります。

さいごに

 最近、元気に長生きするためには、社会性の維持が大切であることが分かってきました。身体が動きにくくなれば、もちろんそれでもリハビリなどで身体を動かすことは大切ですが、みんなとその分しっかりおしゃべりしましょう。仲間と美味しいものを食べること、食べれるように食力を整えることが、元気に長生きすることに繋がります。

 “今日の話は、来れなかった友達3人に、あとで伝えてくださいね” が、公民館の講演の締めの言葉です。

筆者

岡山済生会総合病院
内科・がん化学療法センター
医学博士 犬飼 道雄

自己紹介

 岡山市の公民館を中心に、岡山済生会総合病院は、出張健康セミナーを行っています。私は、「元気に長生きするために~よく食べて・よく動く~」という講演を担当しています。また岡山県医師会をはじめとするさまざまな職能団体や行政などと連携して、フレイル予防・健康寿命延伸を目標とした同様の活動に幅広く参加させていただいています。地域のひとりひとりに栄養が幸せのちからになることを願っています。

患者さんとどのように接しているか

 がん化学療法を中心としたがん診療に携わっています。自分らしい生活を送りながらがん診療を受けれるように、栄養療法を駆使するなど、管理栄養士や看護師などとチームで診療にあたることを実践しています。

経歴

平成9年香川大学医学部卒業。平成18年岡山大学医歯学総合研究科博士課程病態制御科学修了。香川大学医学部附属病院腫瘍センターなどでの勤務を経て、平成27年から岡山済生会総合病院内科・がん化学療法センター勤務。
日本臨床栄養代謝学会理事。

好きな言葉

熱い心と、冷たい頭を持て
話せばわかる

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

まずは食べることが大切です。配食サービスはその助けになります。そして、たんぱく質をしっかり摂りたいときはパワーアップ食で!