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日々の食事・栄養が超高齢社会の日本を救う??(吉田 貞夫)

日本は、世界でも最も高齢化が進んだ国

 日本は、急速に高齢化が進み、世界でも最も高齢化率の高い国といわれています。日本の医療・介護スタッフは、日々、高齢者の患者さんに寄り添って、超高齢社会のさまざまな問題に立ち向かっています。その代表が、フレイルやサルコペニアです。

高齢者の身体機能低下とフレイル、サルコペニア

 フレイルとは、高齢者の方で、運動能力が低下、転倒・骨折のリスクが高い状態のことで、施設に入所したり、入院、死亡のリスクも高いといわれています。サルコペニアは、筋力が低下、筋肉量が減少し、日常生活に必要なさまざまな身体機能も低下した状態のことです。

 ペットボトルが開けられない、階段を昇るのが辛い、横断歩道が渡れないといったようなことがあったら、要注意です。図1は、40歳代の健康な男性と80歳代の患者さんの太もものCT画像です。80歳代の患者さんでは、筋肉(白っぽい部分)が著しく減少しているのがわかります。

図1 一般成人とサルコペニア高齢者の大腿(太もも)のCT画像

 フレイルやサルコペニアは、糖尿病、心臓病、認知症など、さまざまな病気の悪化の原因になったり、がんなどで手術を行う際、死亡率が高くなるなど、病気の治療にも影響します。新型コロナウイルスに感染した際に重症化したり、治療中に亡くなるなどのリスクとも関連があるのではといわれています。逆に、新型コロナウイルスの影響で、家から出る機会が減少することで、フレイルやサルコペニアの高齢者の方が増加しているのではと心配されています。

健康を支える栄養・日々の食事

 フレイルやサルコペニアを防ぐために重要なのは、しっかり栄養を摂って、適度な運動を行うことです。栄養が十分でないと、筋肉のたんぱく質が分解され、エネルギー源として消費されてしまうからです。日々の食事、栄養は、とても大切なのです。栄養のなかでも、たんぱく質を十分量摂取することが大切ですが、炭水化物や脂質も適切な量を摂取して、エネルギー量も確保することが大切です。

気付かないうちに低下する腎機能

 注意していただきたいのは、腎臓の機能が低下した方では、たんぱく質の摂りすぎが腎臓の負担になってしまうことがあることです。そこで、たんぱく質摂取量の上限の目安が決められています(表)。高齢者の方では、気が付かないうちに腎機能が低下していることがあります。検診や受診の際に、かかりつけ医などに、腎機能の低下がないか確認し、ご自分に適したたんぱく質の摂取量を選んでもらうようにしてください。例えば、ステージ G3a、標準体重40kgの方では、上限は、40gです。



表 腎機能(GFR;糸球体濾過量)とたんぱく質摂取量の上限

高齢者の腎機能評価にはシスタチンC

 腎機能のことで、もうひとつお伝えしたいのが、サルコペニアで筋肉が減少している方では、通常の検査では正確に腎機能が測れない可能性があるということです。通常、腎機能の検査には、クレアチニンという物質の血中濃度を使用します。クレアチニンは、筋肉で作られます。筋肉が減少した方では、作られるクレアチニンも少ないため、計算すると、実際より腎機能が良い値になってしまうことがあります。高齢者の方は、筋肉の量に影響されない、シスタチンCという物質を用いて腎機能の評価を行うとよいでしょう。かかりつけ医で、保険診療で検査を行うことができます。

図2 サルコペニアで筋肉が減少した方では、通常の検査では正確に腎機能が測れない

たくさんの量の食事が摂れないときの工夫

 高齢者の方は、たくさんの量の食事が摂れない方が少なくありません。少量でも、必要なたんぱく質、エネルギー量を摂取できるよう、工夫が必要です。また、その際、鉄分、カルシウム、食物繊維なども十分摂取できるよう、野菜などもうまく取り入れることが大切です。

 日々の食事を工夫しても、どうしても十分量のたんぱく質、エネルギー量が摂取できない場合には、ドリンクタイプやゼリータイプなどの補助食品を併用することも検討してみてください。ヨーロッパの学会のガイドラインでも、「慢性的に低栄養、または、低栄養のリスクの高齢者は、栄養カウンセリングや食品の追加を行っても食事摂取量が増えず、栄養摂取目標を達成できないときには、補助食品が提供されるべきである。」と記載されています。また、開始後は、「少なくとも1か月は継続するべきである。」と記載されています。

筋肉や免疫能の維持にもビタミンD

 最後にお薦めしたいのが、ビタミンDです。ビタミンDは、キノコや鮭などに多く含まれています。活性型ビタミンDが骨粗鬆症の治療薬として使用されているのはご存知かと思いますが、その他にも多くのメリットがあります。筋肉の維持にも、ビタミンDが重要なのではないかといわれています。

 また、免疫能の維持にもビタミンDが重要だといわれ、新型コロナウイルス感染症の治療に使用する臨床研究も行われました。最近では、がんの患者さんの生存率を高めるのではないかという報告も見られます。慢性腎臓病の患者さんでは、骨のミネラル量が低下することが知られています。こうした患者さんも、ビタミンDを積極的に摂取されることをお薦めします。

筆者

ちゅうざん病院 副院長
沖縄大学 客員教授
金城大学 客員教授
医学博士 吉田 貞夫

自己紹介

 リハビリテーション専門の病院で、副院長を勤める傍ら、日本臨床栄養代謝学会、日本病態栄養学会、日本臨床栄養学会などの指導医の資格を活かして、栄養管理の重要性について、執筆、講演などを行っています。執筆・編集を担当した『高齢者を低栄養にしない20のアプローチ MNAで早期発見 事例でわかる基本と疾患別の対応ポイント』(メディカ出版、2017年)は、医療・介護従事者だけでなく、一般の高齢者やご家族の方にも読んでいただけるよう、わかりやすい書籍に仕上げました。
 また、2つの大学の客員教授も兼任して、管理栄養士、看護師、理学療法士などを目指す学生さんの指導を行っています。

患者さんとどのように接しているか

 リハビリテーションでは、「頑張ってますね!」と賞賛の声かけをすることによって、訓練の効果がさらに高まるといわれています(強化刺激技法)。歩行訓練をしている患者さん、筋力トレーニングをしている患者さんなどを見かけたら、みなさんに笑顔で声かけをさせていただいています。

経歴


著作

 2011年6月、『ナーシングMOOK 見てわかる 静脈栄養・PEGから経口摂取へ』企画・執筆。同年、『MNAガイドブック』分担執筆。2015年4月、『経腸栄養 管理プランとリスクマネジメント』(サイオ出版)、2014年8月、『認知症の人の摂食障害 最短トラブルシューティング』企画・執筆。 2017年6月『高齢者を低栄養にしない20のアプローチ MNAで早期発見 事例でわかる基本と疾患別の対応ポイント』(メディカ出版)編集・執筆。

好きな言葉

「人間は、努力する限り、迷うものである。」ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

『まろやか麻婆豆腐』は、食べやすく、1食でたんぱく質を30.7gも摂取できるんですね。ほか、多彩なメニューが選べるのも、素晴らしいと思いました。