どっちがいいの?三角食べとばっかり食い(泉野 浩生)
日本では、好き嫌いをなくすように、ごはん、汁物、おかずを順番に食べていく「三角食べ」が1970年代から教育されてきました。
しかし、フランス料理や会席料理をはじめとしたコース料理では、最初にスープが出てきて、サラダや前菜、メインディッシュ、ごはん・デザートと続き、日本で良くないと教えられてきた「ばっかり食い」の順番に食べることになります。
はたしてどちらが健康に良いのでしょうか?
コース料理のメリット
コース料理は、最初にスープでおなかを温めて消化管の動きを活発にした後、サラダや前菜で食物繊維を摂ります。汁物は固形物よりも早く胃から腸に流れ、食物繊維は消化に時間がかかります。それによってメインディッシュの脂肪の吸収を抑えてくれたり、最後のごはんやデザートに含まれる糖質の吸収を緩やかにしてくれたりする効果があります。
血糖の急激な上がり下がりは血管の動脈硬化や認知症の進行につながりやすくなるため、食事の最初にドカンと血糖を急上昇させるよりも、できるだけ緩やかに変動することが望ましく、理にかなっている食べ方と言えます。
しかも、食後のコーヒーやお茶には、カフェインが胃酸の分泌を促すことによって消化を助けてくれる効果もあります。今みたいに科学が発達していなかった時代に、味覚だけでなく消化吸収のことまで配慮されているなんて、昔のシェフはすごいですよね。
「三角食べ」のメリット
一方、「三角食べ」は、口の中で素材をブレンドしたり汁物で押し流したりすることによって、味覚や噛む力が育たなくなるという意見もありますが、一概に悪いというわけではありません。
ブレンドすることによって味覚を楽しむという考え方や、噛む力や飲みこむ力が低下した方では、三角食べをすることによって、口やのどに残った食べものを汁物で流してくれる効果もあります。
私たちはこれを交互嚥下(こうごえんげ)と呼び、病気にかかって食事や飲みこみの訓練をするときにこの方法を使う場合もあります。
また、コース料理ではスープやサラダをすすったり噛んだりしながらゆっくり食べることにより、時間差攻撃によってメインディッシュやデザートの吸収をさらに遅らせるわけですが、最初のスープやサラダの量が多いとおなかいっぱいになってしまって、その後のメインディッシュやデザートを全部食べられず、必要なたんぱく質や糖質が足りなくなってしまうかもしれません。
その点、三角食べは全部食べられなかったとしても、同じ量だけ減っていきますので、栄養のバランスは保たれるメリットがあります。
どちらを選ぶべきか
それぞれにメリット、デメリットがあるので、一概にどちらが良いとは言い切れませんが、飲みこみに問題がない大人にとってはコース料理の方が健康によさそうです。とはいえ、毎食コース料理を食べるほど贅沢はできませんし、準備も大変です。
また、三角食べであっても、最初に汁物や前菜で消化管を準備しておいて、おかず、ごはん、の順に食べていくことはできそうですね。食事の宅配などをうまく活用してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、1日の中で考える場合、夕ごはんに脂肪をたくさん摂ると消化吸収に時間がかかる上、その後からだを動かすこともなければうまく代謝されません。たまにはいいですが、できるだけ朝や昼にバランスよく摂ることを心がけましょう。
また最近、ドラッグストアやコンビニエンスストアには、栄養補助食品がたくさん並ぶようになり、手軽に栄養補給ができるようになりました。栄養「補助」食品ですので、食欲があまりないときに1食分を置き換えるという方法ではなく、食事と食事の合間に少しずつ飲む方法(海外ではこれをシップフィーディング=ちびちび飲むと呼びます)がおすすめです。
筆者
自己紹介
救命救急センターの病棟には、いろいろな病気やけがを負った患者さんがいます。患者さんのもともとの病気、入院した原因となった病気やけが、患者さんの体調や好みに合わせて、くすりと同じように食事も配慮する必要があります。人工呼吸器につながれて会話ができない患者さんや、一歩間違うと胃腸が悪くなったり、誤嚥したりしてしまう患者さんたちと日々向き合っています。
昨日までできなかったことが一歩前進したり、食事を食べられるようになったり、重症患者さんたちの回復を共感することがやりがいです。
患者様とどのように接しているか
口から食べられるようになった患者さんには、「患者さんは頑張って食べようとしている」ことを理解しながら食事を提供することを心がけています。
現職と資格
長崎大学病院高度救命救急センター助教、長崎大学病院 NSTチーム長、長崎大学病院医療教育開発センター副センター長・外来医療教育部門副部門長・特定行為部門副部門長
厚生労働省認定臨床研修指導医、日本救急医学会救急科専門医、日本統括DMAT隊員、日本臨床栄養代謝学会認定医、日本病態栄養学会病態栄養専門医・NSTコーディネーター、SSTT (外傷外科手術治療戦略)コースインストラクター、PC3 (周産期初期診療アルゴリズム)コースインストラクター
好きな言葉
栄養療法はジョーカー、栄養を制する者は全身管理を制す
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
昨日の朝ごはん、昼ごはん、夕ごはんを思い出してみてください。なかなか思い出せないものですよね?思い出せないと、栄養のバランスも偏ってしまうかもしれません。
ミールタイムは管理栄養士さんが献立を考えてくれているので、忘れても大丈夫。和食の基本である一汁三菜で、三角食べをすることによって栄養のバランスが偏らないように構成されています。
さらにパワーアップ食は、不足しているたんぱく質を多く含むので、午前中に身体を動かしたりした後の昼ご飯に最適です。汁物をひとつ用意して、いただきましょう。