糖尿病とフレイル・サルコペニア ― 食べることを我慢しすぎないで(金子 至寿佳)
糖尿病食事療法の思わぬ落とし穴
糖尿病というと「食べすぎてはいけない」「甘いものは絶対ダメ」と思われている方が多いかもしれません。確かに、血糖を上げすぎないことは大切です。しかし、75歳を過ぎてからの“食事制限のしすぎ”は、思わぬ落とし穴になることがあります。
最近、医療の現場では「フレイル」「サルコペニア」という言葉がよく使われます。フレイルとは、年齢とともに心身の元気が少しずつ低下し、介護が必要になる一歩手前の状態を指します。サルコペニアは「筋肉が減ること」による身体機能の低下です。これらは糖尿病と深く関係しています。
糖尿病では、長い間の高血糖やインスリンの効きにくさによって、筋肉のたんぱく質が分解されやすくなります。また、神経障害や疲れやすさから体を動かす機会が減り、さらに筋肉が減っていきます。筋肉が減ると、今度は血糖を取り込む力も弱くなり、血糖が上がりやすくなる――こうした悪循環が起こります。
ですから、糖尿病の治療では「血糖を下げる」だけでなく、「筋肉を守る」ことがとても大切なのです。
ライフステージに合わせた適切量が大事
外来でよく聞くのがこんな言葉です。
「糖尿病だから、ご飯は半分にしています」
「果物は血糖が上がるから食べません」
確かに若いころの糖尿病では、食事制限が基本でした。しかし、75歳を超えるような高齢の方では、“食べなさすぎ”のほうが危険です。食事量が減ると、筋肉や体力がどんどん落ちてしまいます。筋肉が減れば、転倒や寝たきりの原因にもなりますし、免疫力も低下します。
果物にはビタミンや食物繊維が多く、少量であればむしろ健康に役立ちます。たとえば、みかんなら1個、りんごなら半分程度を目安に、食後にとると血糖が上がりにくくなります。
糖尿病のある高齢者の方には、「たんぱく質(お肉・魚・卵・大豆製品など)」をしっかり摂ることをおすすめします。体重1kgあたり1〜1.2gが目安ですが、難しく考えず、毎食に主菜(たんぱく質のおかず)を入れるようにしましょう。特に朝食はパンだけで済ませず、卵や豆腐、ヨーグルトなどをプラスするのがポイントです。

ただし、年齢とともに腎臓の働き(腎機能)が低下している場合があります。腎機能がかなり落ちている方では、たんぱく質をとりすぎると腎臓に負担がかかることがあります。
そのため、「しっかり食べる」ことと同時に、定期的に血液検査で腎機能をチェックし、主治医や管理栄養士と相談しながら、ちょうどよい量を決めることが大切です。
塩分コントロールで将来のサルコペニア予防
最近は「心臓パンデミック」とも言われるほど、心不全が高齢者に急増しています。糖尿病や腎機能低下と重なることも多く、塩分のとりすぎは心臓にも腎臓にもよくありません。
お年を重ねると味覚が鈍くなり、知らず知らずのうちに味が濃くなりがちです。若いころから「薄味」に慣れておくことが、将来の心臓病や腎臓病の予防につながります。
食べ物は、まさに自分の将来の身体をつくる“材料”です。
どんな食事を続けるかが、10年後、20年後の筋肉や臓器の元気を左右します。腎臓や心臓を守りながら、筋肉を保つための食事を意識することが、臓器の老化をゆるやかにし、将来のサルコペニアを防ぐ最大のコツです。
最後に
運動も無理のない範囲で続けましょう。椅子に座ったままできる足上げ運動や、つま先立ちなどの「簡単な筋トレ」でも効果があります。散歩や買い物など、外出する習慣も立派な運動です。
フレイルやサルコペニアを防ぐために、糖尿病の方が気をつけたいのは、「減らしすぎない」こと。
“食べる・動く・人と関わる”の3つを大切に、血糖コントロールと同時に“体の元気”を守っていきましょう。

筆者

糖尿病内分泌内科 金子 至寿佳
自己紹介
医師と美大生の2人の娘の母。美大生の娘から芸術の視点を教えてもらっている。病院での患者さんに対する栄養指導だけではなく、学校に出かけて児童生徒に対して自分で自分の健康を守ることができることを目指して食育の講義を行っています。
患者様とどのように接しているか
糖尿病治療とは、日々楽しく、健やかに生きるためのものです。食べたいものを厳しくがまんすることは、生活の潤いを損なってしまい本来の糖尿病治療ではなくなってしまいます。 ただ単に血糖値を下げるのではなく、若年の1型糖尿病、妊娠糖尿病、働く青壮年、高齢者など世代ごとに治療の意義をともに考えて、「血糖値に見つからないように楽しくたべる知恵」を一緒に見つけて自分自身の主治医となっていただくことを目指しています。
経歴
現職:日本赤十字社和歌山医療センター糖尿病内分泌内科部長
京都大学医学部臨床教授
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医・評議員
日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医・評議員
日本老年病学会老年病専門医・指導医・評議員
好きな言葉
ありがとう
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
食事療法が難しい、どのようなものを食べたらいいの?と迷うときに、一つのお手本として利用されることをお勧めしております。またタンパク質が足りないと思うときに、一品加えたいときに利用されても便利です。













