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ポリフェノールの効能(近藤 和雄)           

 ポリフェノールなる用語は、1990年初頭まで一般にはもちろん専門家の間でも知る人は極めて少なかった。それが私の赤ワイン、ココアの摂取によりLDLの酸化変性を抑制するという研究成果をきっかけにして、赤ワイン、ココアの成分のポリフェノールが身体に良いものとして人口に膾炙するようになった。その時から30年近くが経過しようとしている。しかし、なぜポリフェノールが身体に良いのか、そもそもポリフェノールとは何かを理解し、説明できる人は思いのほか少ない。ここではポリフェノールとは何かまとめておきたい。

ポリフェノールとは

 化学構造で六角形のベンゼン核に水酸基のOH基のついたものをフェノール基というが、ポリフェノールは、フェノール基にOH基を2個以上持つものの総称である。しかし化学の専門家たちの間ではポリフェノールの多くがフラボノイド骨格を持つためフラボノイドと呼称することが多く、ポリフェノールは俗称扱いである(図1)。それでもポリフェノールが使われているのは、ポリフェノール自体があまりにも一般的なりすぎたためである。

図1 フラボノイドとポリフェノール

 またポリフェノールは抗酸化作用を持つ抗酸化物で、体内でビタミンE,カロテノイド、ビタミンCなどと同じように抗酸化性を発揮する。さらにポリフェノールは、苦味、渋味成分であり赤ワインの赤い色、花の色の色素成分でもある。

抗酸化物と活性酸素

 我々人間を含む好気性生物は、大気中の21%の酸素を利用して様々な代謝を営んで、生を保っている。この代謝を行う過程でより反応性の強い活性酸素が1~2%生じる。この活性酸素をそのまま放置すると様々な疾病を起こす原因となるため即座に消す必要がある。

 このため人では、スーパーオキシドディスティムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシターゼなどの抗酸化酵素があり、さらにはビタミンEやカロテノイド、ビタミンCなどを摂取して、活性酸素の発生に対処している。知らず知らずに摂取しているポリフェノールも活性酸素対策に利用されている。

活性酸素と動脈硬化

 活性酸素が関与する代表的な疾患の一つに、動脈硬化性疾患がある。動脈硬化とは、血管壁が肥厚して堅くなる病態を指す。動脈硬化が進行して血管の内腔が閉塞すると、脳では脳梗塞、心臓の冠状動脈では、心筋梗塞が生じる。動脈硬化の発症には、脂質異常症などの危険因子が関与している。

 なかでも、コレステロールは、血液中でリポ蛋白として存在していて、動脈硬化の発症と正相関しているLDLと、逆相関しているHDLがある。さらには、このLDLが酸化して酸化変性LDLになって、マクロファージに取り込まれ、動脈硬化のもととなる。このため、LDLの酸化防止は動脈硬化予防には重要なステップになっている(図2)。

図2 動脈硬化の発症と防御因子

フレンチ・パラドックス

 脂肪摂取の増加は血中のコレステロールの増加につながり、動脈硬化性疾患が増えるが、フランスでは肉類などの豊富な脂肪摂取にもかかわらず、動脈硬化性疾患の増加が見られない(図3)。このことフレンチ・パラドックスと呼ぶ。このパラドックスのおこる原因には、これまで様々な仮説が出されていたものの今一つの感があった。そこへフランスで良く飲まれる赤ワインにポリフェノールが多く含まれ、LDLの酸化変性を防ぐことが明らかとなり、赤ワインとともにポリフェノールにも注目が集まるようになった。

図3 心臓病死亡率と乳脂肪消費量

ポリフェノールの多い食べ物

 ポリフェノールは全ての植物に含まれている。特に種子におおく、赤ワインにポリフェノールが多いのは、ブドウを種子、皮を丸ごとつぶして発酵させたことによる。表皮、特に表皮と実の境の部分にはポリフェノールが豊富である。従って種子をつぶして飲用するココア・チョコレート、コーヒー、種子を薄皮ごと摂取するアーモンドなどのナッツ類、そして、葉から抽出する茶類(緑茶、紅茶、ウーロン茶)など、いずれもポリフェノールが多く含まれている。

動脈硬化を防ぐ食事のヒント

 動脈硬化を防ぐための食事としてまず知るべきは、日本人が現在摂取している食事を維持することである。日本人の摂取している和食は、脂肪摂取が25%前後と少なく、脂肪酸の割合も飽和脂肪の多い欧米食と比べて、豊和脂肪が少なくn―3系脂肪酸の多い構成で理想的な割合で、食物繊維も多い。さらに大豆製品の摂取も多く、ポリフェノールを多く含む構成になっている。

 ただポリフェノールを考えて食事を考えても、ポリフェノールの摂取源の8割は、お茶やコーヒーなどの飲料からで、現実に食事からは2割に過ぎない。さらにポリフェノールの血中濃度の検討からはポリフェノールの血中滞在時間は2-3時間であるので、抗酸化対策には細かく摂取する必要がある。

 とは言っても、われわれには10時、3時にお茶などをとる習慣がある。要するに、私たちは、先祖の残してくれた食生活習慣の内容を理解したうえでおやつの時間を含めしっかりと守ることが求められている。

筆者

お茶の水女子大学 名誉教授
鶴見西井病院 顧問
医学博士 近藤和雄

自己紹介

東京慈恵会医科大学卒業後、東京慈恵会医科大学青砥病院、防衛医科大学校病院では、一般臨床に従事するとともに、研究室では脂質代謝研究に従事し、ヒトでの食物繊維、大豆蛋白など食べ物のコレステロール低下作用の研究に携わった。国立健康・栄養研究所に移って、アゾ化合物を用いたLDL酸化変性を測定法を開発し、赤ワイン、ココアがLDLの酸化変性を抑制することを明らかにした(Lancetに掲載)。お茶の水女子大に移ってからは、抗酸化物の探索を継続するとともに、培養実験を用いて、ポリフェノールが動脈硬化進展過程を抑える可能性を明らかにした。また、ポリフェノール摂取量を明らかにするため、食品のポリフェノール含有量を測定し、この測定値を用いて疫学研究と共同で、動脈硬化への予防作用の検討を進めている。既に高山市を対象にした検討では、ポリフェノールの抗動脈硬化作用が明らかとなっていて、さらに検討を継続中である。

受賞歴:平成6年食品産業技術功労賞(特別賞)平成26年日本栄養・食糧学会学会賞、平成31年日本栄養・食糧学会功労賞、令和4年日本臨床栄養学会功労賞

専門:脂質代謝学、臨床栄養学、日本内科学会認定医、日本医師会認定産業医、老年科専門医

学会:日本栄養・食糧学会名誉会員、元日本栄養食糧学会会長、元日本機能性食品医用学会理事長、日本未病学会名誉会員、日本動脈硬化学会功労会員、日本ポリフェノール学会理事

患者様とどのように接しているか

患者さんの希望を最優先、患者さんの立場を尊重するのを基本としている。そのうえで、対象の疾患の基本的治療方法を伝えられるように努力している。

経歴

昭和24年5月23日東京生。昭和54年東京慈恵会医科大学卒業。昭和56年東京慈恵会医科大学青砥病院内科助手、昭和59年防衛医科大学校第一内科助手、昭和61年医学博士(東京慈恵会医科大学)、昭和61年~63年ベイカー医学研究所訪問研究員(オーストラリア、メルボルン)併任、平成3年防衛医科大学病院講師(第一内科)、平成3年国立健康栄養研究所臨床栄養部室長、平成11年お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、平成13-19年お茶の水女子大学生活環境研究センター長併任、平成20-24年お茶の水女子大学附属中学校長併任、平成24-27年お茶の水女子大学生活環境研究教育センター長併任、平成27年お茶の水女子大学定年退職、平成27年お茶の水女子大学名誉教授、平成27年東洋大学食環境科学部健康栄養学科教授、令和2年東洋大学定年退職、令和2年介護老人保健施設あかしあの里施設長、令和4年鶴見西井病院顧問、現在に至る。

好きな言葉

人生万事塞翁が馬

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

ポリフェノールの観点からみると、野菜の多いもの、大豆製品の多いものを選ぶことは重要です。特に味噌汁を含めることは大事です。