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「時間栄養学」で「脳」を守り健康寿命を延ばそう(大和田 潔)

食物繊維の大切さ

 私は脳神経内科医であり総合内科専門医です。写真(図1)は脳MRIの断面図ですが複雑なネットワークでできている脳はダメージを受けると回復させることができません。

図1 脳MRI断面図

 健康寿命を延ばして「機能する体を維持」するためには、認知症のリスクファクターである糖尿病などのメタボを解決したりフレイルを予防する食事と運動が薬剤よりも先決だと考えてきました。そのため管理栄養士さんと長年一緒に患者さんの治療にあたってきました。実は、脳の専門家が管理栄養士さんとクリニックで一緒に仕事をすることはとても珍しいことなのです。彼女たちの臨床現場の卒後教育も手伝ってきました。

 腸の健康も大切です。心身を支えるのは食事です。栄養を吸収する「腸」も大切です。また、腸は栄養を吸収するだけでなくインスリンや食欲に関係するホルモンなどを分泌する器官であることもよく知られるようになりました。

 患者さんには食物繊維を十分食べて腸内細菌を整えて腸内環境を整えることで「慢性炎症」を抑えることをお伝えしています(図2)。また、人間の生活リズムに基づいた「時間栄養」にも注力しています。腸が脳を支えることから腸脳相関と呼ばれるようにもなりました。脳神経内科専門医としてコラムを書いたり取材を受けてきました。

図2 腸内環境を整える食物繊維と腸内細菌



 慢性炎症や時間栄養のことを『60歳 食べ方を変えるだけで健康寿命はもっと延ばせる!』(文末に紹介)にまとめ2022年末に上梓いたしました。食物繊維である海苔や発酵食品であるヨーグルトをテレビ番組出演やイベント、ウエブ公開サイトなどでお手伝いしているのもそのためです。国連の和食推進委員もしていました。

 食物繊維は水溶性食物繊維、不溶性食物繊維とわけていましたが最近はMACs(腸内細菌に届く炭水化物、MACs: Microbiota-accessible carbohydrates)として理解されるようになってきています。食物繊維は、厳密に水溶性と不溶性に分けることが難しいことと、どちらも腸内細菌のエサになるためです。腸内細菌が作り出すさまざまな物質は腸だけでなく、全身状態や脳に影響を与えます。

 私たちは、起きたり寝たりリズミカルに日々暮らしています。この人間の体がもつ1日のリズムをサーカディアンリズム(図3)や概日リズムとよびます。サーカディアンリズムに沿ってどんなものを食べると良いのか、リズムを整えるのにどんな食べ物が良いのか研究がすすんできました。『時間栄養学』と呼ばれています。脳に主時計があり、腸や肝臓などの消化器や体全体に副時計があり、時刻合わせをしながらサーカディアンリズムを刻んでいます。

図3 サーカディアンリズム


体を蝕む「慢性炎症」と「メタボ炎症」

 先ほどの病気が無いのに肥満などで起きてくる「慢性炎症」は自覚症状のない炎症です(図4)。炎症は体が異物を排除したり傷を治したりするときの体の反応です。ケガなどで起きる急性炎症は、患部が赤くなったり痛かったり腫れたりして自覚症状を伴います。ところが慢性炎症は体内で起きても自覚症状がありません。検査データにも現れません。

図4 慢性炎症とは


 けれども過剰に蓄積した脂肪細胞を顕微鏡で見てみると慢性的に炎症が起きていることが知られるようになりました。そういった場所では炎症に特有の細胞が入り込んでいて慢性炎症を起こしながら、そこから全身に良くないホルモンが放出されていることが知られるようになりました。その部分だけなら良いのですが、慢性炎症を抱えていると全身的に良くないことが起きることも知られるようになりました。

 通常の加齢の変化でも生理的な慢性炎症は起きていて加齢炎症とよばれます。過剰な脂肪の蓄積や運動不足でメタボ状態になっておきてくる慢性炎症は加齢炎症と分けて患者さんに「メタボ炎症」と名付けて説明するようにしています。メタボ炎症は生活習慣病を悪化させたり動脈硬化を加速します。加齢現象につながり老化を加速させます。取り除かれるべき老化細胞(ゾンビ細胞)が居座らないように新陳代謝していくことが健康寿命に重要といわれるようになりました(図5)。

図5 老化細胞の蓄積を防ぐポイント


 たとえば、カゼを引いたりケガをしたり、体に何らかの炎症があると糖尿病が悪化しインスリン注射の効きも悪化することを経験された糖尿病の方も多いでしょう。このような急性の炎症と同様に慢性炎症も生活習慣病を悪化させ悪循環になります。睡眠リズムの崩れも肥満につながります。

 過剰な脂肪の蓄積や運動不足→慢性炎症(メタボ炎症)→体重増加やデータ悪化など生活習慣病の悪化→過剰な脂肪の蓄積や運動不足・・・といった悪循環です。メタボ炎症を解決するための日中の活動性と良質な睡眠のためにも時間栄養学は重要です。

 日中の運動も脳を支えます。最近、運動をすることは薬より脳に良い効果を生むといった報告も相次いでいます。時間栄養学にそって食事をとり日中運動して健康な脳を維持し、翌日スッキリ起きてまた活動的な日々を送る。そのリズミカルな生活が健康寿命を延ばします。

加齢を遅くする2つの食事のコツ

 どの方の食事もその人の生活習慣と密接に結びついています。人間の体調や加齢速度は体質的なものが大きいのですが、環境も影響します。リモートワークが多い方、夜勤がある方、運動を趣味にしている方、人それぞれです。慢性炎症やメタボ炎症の解決にはお薬はありません。時間栄養学を考えた適切な栄養管理とムリのない日頃からの運動習慣が必要になってきます。


 食事で重要なのは2点。一つ目は、食べる量や摂取総カロリーだけでなく、タンパク質や食物繊維が十分含まれているのかといった内容が重要になります。きちんとタンパク質を含む食事にして筋肉や体の組織を維持することが大切です。二つ目は、その「どういった内容の食事」を「いつ食べると良いのか」ということも重要になります。

 例えば朝にタンパク質をとると筋肉量が増加しやすいこと(図6)や、朝に食物繊維をとっておくと1日の血糖値が安定しやすいことが知られています。食べ物からきちんとタンパク質を摂ることは重要なことです。

図6 タンパク質摂取と筋肉量増加率

 冷凍食品、缶詰、サラダチキン、納豆、豆腐などある程度保存がきいて手軽にとれるタンパク質はたくさんあります。工夫して食べるようにしましょう。加齢による筋力低下で体が衰えて機能する体が失われていく「フレイル」の予防にもなります。

健康寿命を延ばそう

 人間は症状が出ないと対応を考えられない性質があります。データが異常をきたしてもあまりピンとこないかもしれません。ましてや自覚症状やデータにも現れにくい慢性炎症やメタボ炎症は対応しようと思われないかもしれません。

 けれども寿命が長くなってきた昨今では、寿命の長さもさることながら心身ともに機能する健康な状態でどれぐらい暮らせるかという「健康寿命」が重要です。私が管理栄養士さんと一緒に最近お書きした本の『60歳 食べ方を変えるだけで健康寿命はもっと延ばせる!』のタイトルもそこからきています(図7)。

 上記の時間栄養や慢性炎症(メタボ炎症)のイラストはこの著書から引用しました。これから日常生活でゾンビ細胞を退治してSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype、細胞老化随伴分泌現象)を減らすことが注目されることを予想して記しました。私自身も実践している内容です。

図7 『60歳 食べ方を変えるだけで健康寿命はもっと延ばせる!』 著者;大和田潔 出版社 : 永岡書店 発売日 : 2022/10/11 ISBN-10 : 4522440375

 クリニックでは管理栄養士さんと協力して働いています。管理栄養士さんは栄養学会で発表を行い、クリニックが女子大学の栄養学部の学生さんが臨床を学ぶ場になったりしてきました。また管理栄養士さんの卒後教育も手伝ってきました。私は患者さんに参加していただいた臨床研究も行ってきましたし今後も予定されています。

 薬を飲む前に日々の生活を整えてみましょう!私は慢性炎症や認知症の治療薬もフレイルの予防薬もないことに着目することが健康寿命を延ばすことに重要だと思っています。脳の治療やメタボ炎症には薬が無いのです。管理栄養士さんと一緒に仕事をしてきたのはそのためです。

 そういったものは日々の食事や運動といった生活で自分で予防し、自分でメインテナンスしないといけないものです。時間栄養学にそった食事と運動をキープしメタボ炎症、慢性炎症、加齢炎症を減らして健康寿命を延ばすことにしましょう。それぞれの人が今からでも自分でやれることです。  一緒に日々の食事と運動を工夫する知識を増やして実践していくことにしましょう!皆様の健康寿命が延ばせることをクリニックのスタッフともども願っております。

筆者

あきはばら駅クリニック 院長
医学博士 大和田 潔

自己紹介

 「脳」のおとろえの認知症や「体」のおとろええのフレイルは発症すると引き返すことが難しい状態です。大学では神経細胞を研究して医学博士(東京医科歯科大学臨床教授)となりクリニックの診療に携わるようになりました。脳を守る栄養に注力してきたことから日本臨床栄養協会理事も拝命しております。 糖尿病は認知症の大きなリスクファクターです。糖尿病の患者さんは、そうでない人よりも2倍から4倍ほど認知症になる確率が高くなると言われています。脳神経内科医である私が管理栄養士さんと栄養指導に注力しているのはそのためです。  
 EPA・DHAを多く含む魚肉ソーセージである「リサーラ」をお手伝いしたり、海洋深層水由来のマグネシウム硬水ミネラルウオーターである「AECスッキリウオーター」を作ったりしてきました。

患者さんとどのように接しているか

 私は脳神経内科専門医、総合内科専門医として認知症などの疾患から患者さんを守ることを考えて診療しています。

経歴

都立両国高校卒業
福島県立医科大学卒業
東京医科歯科大学大学院修了 医学博士
東京医科歯科大学臨床教授
あきはばら駅クリニック院長(現職)

好きな言葉

人間万事塞翁が馬。
自分自身を信れば生きる道が見えてくる。

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

健康寿命を支える運動やフレイル予防に高タンパク質のパワーアップ食は役立つでしょう。