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腎臓を強くするための食べ物や食べ方(上月 正博)     

はじめに

 腎臓は、食べ方の影響を特に受けやすい臓器です。わが国の慢性腎臓病(CKD)患者数は1,480万人で、国民の8人に1人が罹患する国民病です。しかも、70歳代の3人に1人、80歳以上の2人に1人はCKDです。そこで私は腎臓を強くするための食べ物や食べ方などについてお話ししたいと思います。また、CKD食事療法の考え方や実践にも大きな変化がみられています。さらに運動療法の併用の重要性に関してもお話しします。


(1)腎臓病の予防:腎臓を強くするための食べ物や食べ方

 CKD患者数の増加の背景には、高齢化や運動不足などさまざまな要因は考えられますが、最大の理由は「食べ方」の啓蒙が進んでいないということに尽きると思います。CKDになってもはじめは症状がありません。したがって、読者の皆様はCKDになっていないか医療機関で診療を受けるとともに、早いうちから食べ方を正すことが、腎機能を強めて腎臓を長持ちさせ、長生きすることにつながります。

 私は、腎臓を強くするための「シンプルな食べ方10ヵ条」を提唱しています。

① すべての食品の栄養成分表示を必ずチェック

② 菓子パンやお菓子を控える

③ 甘いジュースや砂糖入りコーヒーを控える

④ 肉の脂身や皮は残す

⑤ ハム、ベーコン、ソーセージ、インスタント食品を食べ過ぎない

⑥ 朝食は「無塩」に近づけた献立にする

⑦ ファストフード、揚げ物、ラーメンを控える

⑧ 一汁三菜の魚の和定食を定番化し野菜から食べる

⑨ 緑黄色野菜・淡色野菜をできるだけ増やす

⑩海藻・キノコ・こんにゃくをできるだけ増やす

上月正博著:腎機能がみるみる強まる食べ方大全、文響社、2022.


(2)CKDの食事療法と最近の変化

 CKDに対する食事療法の考え方や実践にも大きな変化がみられています。CKDのステージ別の食事療法のまとめを表1、表2に示します。基本的に十分なエネルギー摂取量確保が不可欠です。一方、食塩摂取量の基本は3 g/日以上、6 g/日未満とするのが基本です。

表1 CKDステージによる食事療法基準(保存期)



表2 CKDステージによる食事療法基準(透析期)



 透析に至らない保存期CKDでは腎機能低下予防としてのタンパク質摂取制限が必要です。低たんぱく食では、肉、魚、卵、大豆を摂取することにもつながり、「おいしいおかずがでてこない」ことで、食欲が低下し、エネルギー摂取量が低下し、低栄養につながるおそれがあります。エネルギー摂取量が不足すると、身体中のタンパク質が分解されエネルギー源になり(異化作用)、体内の尿素窒素が増えるため、蛋白質を多く食べたことと同じ状態になり、保存期CKD患者ではタンパク質を制限する意味がなくなってしまいます。また、低栄養が存在すると、サルコペニアにつながり、活力低下、筋力低下・身体機能低下を誘導し、活動度、消費エネルギー量の減少、食欲低下をもたらし、さらに栄養不良状態を促進させるという悪循環が構築されます。

 最近は、タンパク調整ごはん・パン・もち、でんぷん加工製品など、治療用特殊食品も市販されているので、積極的に利用しましょう。フレイル・サルコペニア対策としてCKD患者においても運動療法に加えて、食事療法としてのタンパク質摂取の重要性が指摘され、表3のように保存期CKD患者様や透析患者様でのタンパク質制限は若干緩和の方向に修正されました。

表3 サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法




(3)運動療法の実際と注意点

 CKDにおいては、これまで安静が治療の一つと考えられてきました。しかし、過度の安静はむしろ有害であり、死亡率増加につながることが明らかになりました。CKD患者様の生命予後は身体機能に関係し、歩行速度が遅く、6分間歩行距離が短く、握力の小さい患者などでは死亡率が高いのです。


 運動療法は、フレイルの予防・改善、日常生活活動・生活の質の改善、心血管疾患予防による生命予後改善のみならず、腎機能改善・透析移行防止のための新たな治療としての大きな役割が期待されています(図1)。

図1 CKD患者における運動療法の考え方




 腎臓リハビリテーションとは、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムです。

 運動療法は、腎臓リハビリテーションの中核の一つであり、透析患者様では、運動耐容能改善、PEW改善、タンパク質異化抑制、QOL改善など、さらに、保存期CKD患者様では、腎機能改善・透析移行防止のための新たな治療としての大きな役割が期待されています。

 CKD患者様に対する運動療法の標準的なメニューは、原則として、週3~5回、1回に20~60分の歩行やエルゴメータなどの中強度あるいはボルグスケール12(楽であるとややきついの間)~13(ややきつい)での有酸素運動が中心となります。これは、腎臓や心臓に問題のない一般の方々が行っても「十分効果が上がり、しかも比較的楽で実行・継続しやすい運動」です。

 低体力者の場合は1回に3~5分程度の運動からはじめ患者自身の運動耐容能に基づいて、時間をかけて徐々に回数や時間を増やすようにしていきます(表4)。ただ、極度に激しい運動は腎機能の悪化を招く可能性があり、特に腎機能が重度低下している患者やネフローゼ症候群などの蛋白尿が多い患者には不適当であるとされています。透析患者様に対する運動療法の標準的なメニューも保存期CKD同様ですが、原則として非透析日に行います(表4)。さらに、最近は透析の最中に下肢エルゴメータなどの運動療法を行う施設も増加してきました。


表4 CKD患者に推奨される運動処方

 

 平成28年度(2016年)診療報酬改定では、腎不全期患者指導加算(月1回 100点)が糖尿病保存期CKDG4-5患者に対する認められ、平成30年度(2018年)の高度腎機能障害患者指導加算としてG3bまで対象が拡大されました。さらに、令和4年度(2022年)診療報酬改定では、透析時運動指導等加算として対象が透析患者にも拡がりました。このような腎臓リハビリテーションの運動療法に関する保険収載はわが国が世界唯一です。


おわりに

 一般の方が腎臓を守るための食事とCKDの患者様が腎臓を悪くしないための食事の注意点と運動の重要性に関して述べてきました。特に、CKDの治療は「運動制限から運動療法へ」のコペルニクス的転換を果たし、これまでとかく軽視されがちだった運動療法が、腎臓リハビリテーションの主要な構成因子として考えられるようになりました。

 また、タンパク質摂取制限のための低タンパク食に関して、1/35までタンパク質含有量を減らしたタンパク調整ごはんや1/50まで減らした精白米などの治療用特殊食品、ミールタイムなどおかずのタンパクを減らした治療用特殊食品など、さまざま市販されているので、積極的に利用するようにしましょう。


筆者

山形県立保健医療大学
理事長・学長
 医学博士 上月正博

自己紹介

 わが国は世界一の超高齢社会となり、実地医家の診る患者の様相が激変しました。内科治療で何とか内臓機能を維持できても、体力がどんどん低下していく患者様。内科疾患に加えて変形性関節症など運動器疾患などによる重複障害を抱えた患者様。家族の介護負担が増え、施設転院を余儀なくされる患者様。このような不動・安静のよる全身の様々な症状である廃用症候群を抱える患者様が多くみられる時代になってきました。

 一方、自立可能な人々に対しても、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)、メタボリックシンドローム(メタボ)など、矢継ぎ早に新しい概念が生まれました。これらすべての概念で共通しているのは、身体不活動や安静にすることの危険性、有酸素運動やレジスタンストレーニングなどの運動療法の重要性を指摘しているといえます。

 私は大学卒業後、内科医として診療し、総合内科専門医、腎臓専門医、高血圧専門医を取得しましたが、このような問題点を打破するにはリハビリテーション医学の技術の習得が必須と感じ、卒後15年目にリハビリテーション科に移り、リハビリテーション科専門医を取得しました。

 その後、縁あって、母校である東北大学で内科とリハビリテーション科を融合させた「内部障害リハビリテーション科」の教授として22年間勤めてその普及に努めるとともに、「腎臓リハビリテーション」という新領域を作り、世界で初めて透析予防の運動療法や透析中の運動療法などの診療報酬収載に成功しました。現在もこれらの普及に邁進しています。

患者様とどのように接しているか

 慢性腎臓病は生活習慣と関係が深い病気です。患者様の生き方に病気の本当の原因が隠れていることが多いのです。このため、患者様の「食事」や「運動」を尋ね、さらに、「物事のとらえ方」や「考え方」、「主義」や「信条」、「習慣」、「趣味」や「嗜好」、などを外来受診のたびにそれとなく聞いていきます。そして、患者様が生活習慣の変容を少しでも達成しようという際には心より励まし、少しでも達成できた際には心より賛辞を送ります。そのための励ます言葉や誉め言葉をたくさん準備しており、『名言で心と体を整える』(さくら舎)、『名医の身心ことばセラピー』(さくら舎)という2冊の本にまとめました。

経歴

1981年、東北大学医学部卒業。メルボルン大学内科招聘研究員、東北大学医学部附属病院助手、同講師を経て、2000年に東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻内部障害学分野教授に。日本腎臓リハビリテーション学会理事長、国際腎臓リハビリテーション学会理事長を歴任。心臓や腎臓などの内部障害リハビリテーションを専門とする。総合内科専門医、腎臓専門医、高血圧専門医、リハビリテーション科専門医など。腎疾患や透析医療に基づく身体的、精神的影響を軽減させる「腎臓リハビリテーション」を提唱。2018年ハンス・セリエメダル受賞。2022年日本腎臓財団功労賞受賞。2022年から、東北大学名誉教授、山形県立保健医療大学理事長・学長。『国立大学教授・腎臓の名医が教える 運動を頑張らなくても腎機能がみるみる強まる食べ方大全』(文響社)、『東北大学病院式 腎機能を自力で強くする食事と運動』(永岡書店)ほか、著書多数。

好きな言葉

A paradigm shift in rehabilitation medicine: from ‘adding life to years’ to ‘adding life to years and years to life’.  Masahiro Kohzuki 

(リハビリテーション医療のパラダイム・シフト:運動機能や生活の質の改善だけでなく生命予後の改善を目指して。上月 正博)

不肖、私の創ったリハビリテーションのキャッチフレーズです。リハビリテーションはとても有効な医療なのに、医療関係者の中でもあまり理解されていない現状を打破すべく創りました。おかげさまで海外でも受けています。
患者様や学生への指導でも言葉はとても重要です。特に若手や経験の浅い医療関係者はその語彙が少なく、患者様への説得力に欠く光景をよく目にしました。その現状を打開すべく、私は、患者様や学生向けの名言を収録した『名言で心と体を整える』(さくら舎)、『名医の身心ことばセラピー』(さくら舎)を出版して、医療関係者や患者様自身にも一読を勧めています。

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

必要な摂取カロリーをきちんととりながら、おいしく低たんぱく食を食べることのできるミールタイムは、慢性腎臓病患者の強い味方です。適切な運動療法を併用しながら腎機能を維持しましょう。