mealtime

認知症予防の栄養素(高畠 英昭)

認知症に対する薬物療法

 最近(2023年12月)、「レケンビⓇ」(一般名:レカネマブ)というアルツハイマー病に対する新しい注射薬が発売されました。臨床試験(治験)では、病気の進行速度を27%緩やかにする効果が確認されています。

 ただ、新薬とはいえ、根治できる薬ではありませんし、価格もかなり高価です。誰もが認知症にはなりたくないもの。薬に頼らず、もっと身近で手軽に始められる認知症予防として、今回は食事についてお話をしていきます。

オメガ-3脂肪酸

 オメガ-3脂肪酸には、調理油などに含まれている必須脂肪酸のα-リノレン酸、魚類に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などがあります。オメガ-3脂肪酸は、血中の中性脂肪を下げたり、不整脈を予防したり、動脈硬化を防いだりすることなどがわかっています。

 魚を摂取することで、アルツハイマー病のリスクが60%軽減したという報告があるように、これらの脂肪酸は脳の健康に寄与し、認知機能をサポートする可能性があります。

ビタミンB群

 葉緑素や穀物に多く含まれるビタミンB群は、エネルギー生産や神経伝達物質の合成に関与しています。特にビタミンB6、B12、葉酸は認知症予防に寄与すると考えられています。

抗酸化物質

 カロテノイド(β-カロテンなど)、ビタミンC、ビタミンAなどが含まれます。カロテノイドは植物が光合成をする際に必要な化合物なので、全ての植物の葉や茎に含まれています。

 カロテノイドの供給源としては、緑黄色野菜や果物の寄与が最も大きく、特ににんじん、ほうれんそう、かぼちゃがこれに当たります。これらの物質は体内の酸化ストレスから細胞を守り、脳の健康に寄与する可能性があります。

ビタミンE

 穀物、ナッツ、種子、植物油に多く含まれています。ビタミンEにも抗酸化作用があり、脳の細胞を酸化ストレスから保護する可能性があります。ビタミンC、Eの摂取はアルツハイマー病発症を予防するというデータがあります。

ビタミンD

 ビタミンDは、日光によって体内で生成される他、魚や乳製品などからも摂取でき、特に魚介類に多く含まれます。

 ビタミンDは骨の代謝に関わるため骨粗鬆症予防にも重要な栄養素として知られていますが、ビタミンDの欠乏は認知症のリスクを2.3倍、アルツハイマー病のリスクを2.5倍、脳卒中のリスクを2.0倍上昇させるという報告もあります。

ポリフェノール

  茶、赤ワイン、果物、野菜、ナッツなどに含まれています。ポリフェノールは抗酸化作用があり、脳の機能を保護します。赤ワインを1日250~500ml摂取することで、認知症のリスクを軽減する可能性があります。

認知症と食事

 炭水化物を主とする高カロリー食などは、軽度認知障害や認知症のリスクを高める傾向にあります。また、認知症の危険因子として、加齢や遺伝的要因の他に、血管性危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症)や生活習慣因子(喫煙など)があります。(認知症治療ガイドライン2017)。

 したがって、個々の栄養素に注目するだけでなく、禁煙をし、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の予防や悪化防止も念頭に、塩分の取り過ぎに注意し、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

体重と認知症

 中年期の肥満は認知症リスクを上げる一方、高齢期の肥満者(BMI>25)では認知症が有意に少ないことが示されています。フレイル・サルコペニア対策などと同様に、高齢期では十分な栄養摂取をして体重を減らさないようにすることが勧められます。

地中海食のすすめ

 地中海食とは、イタリア料理・スペイン料理・ギリシア料理など地中海沿岸諸国の食事や食習慣のことを指します。その特長は、ナッツ・オリーブオイル・野菜・果物・全粒粉など未精製の穀物・豆・種子・魚・鶏肉がよく使われ、チーズとヨーグルトも頻繁に食されます。一方、赤肉・卵・菓子の消費は控えめです。また、赤ワインも適度に飲まれます。

 地中海食は低炭水化物食(低糖質ダイエット)と同等のダイエット効果が認められているだけでなく、生命予後や認知症予防にも良い効果があることが示されています。

 地中海食の一例。春菊(β-カロテン )、トマト(ビタミンA・C・E、 β-カロテン、リコピン )、オイルサーディン(EPA、DHA)、雲仙ハム(タンパク質、ビタミンB1・B2)を使用した著者自作の創作パスタ。赤ワイン(ポリフェノール)とともに。

 


 

適度な運動

 食事だけでなく、適度な運動も認知症予防に効果があります。有酸素運動や筋力トレーニングを定期的に行うことがおすすめです。

サプリメント

 日々の食事だけでは十分に摂取することのできない栄養素について、サプリメントの使用も最近では良く行われています。しかしながら、抗酸化サプリメントの服用で死亡率は有意に上昇し、ビタミンA、ビタミンE、βカロテンのサプリメント使用でも死亡率は有意に上昇するとする研究結果も示されています。やはり、サプリメントに頼りきらず、日々のバランスの良い食事から必要な栄養素を摂取することが大切なようです。

筆者

長崎大学病院
リハビリテーション科
医学博士 高畠 英昭

自己紹介

 160年の歴史を持つ長崎大学病院で、初めてのリハビリテーションだけをする医者です。2000年から病棟回診を、医師・看護師・リハスタッフ・管理栄養士の多職種で行い、患者さんの食事摂取量は調理師さんにも把握してもらっていました。時にライブハウスで歌っています。また、最近は台所にも良く立っています。長崎大学アメリカンフットボール部の顧問もしています。

患者様とどのように接しているか

 医療を、医者のためでもなく、家族のためでもなく、患者本人のために行えるように、常に本音で話をするようにしています。

経歴と現職

1993年3月 長崎大学医学部医学科卒業
1993年6月 長崎大学医学部脳神経外科入局
1994年6月~ 県西部浜松医療センター脳神経外科ほか
1997年6月 長崎大学医学部脳神経外科 医員
2000年6月 佐世保市立総合病院脳神経外科 医長
2005年4月 長崎医療センター脳神経外科 医長
2014年4月 産業医科大学リハビリテーション医学講座 講師
2017年4月 長崎大学病院リハビリテーション部 准教授
2020年11月 長崎大学病院リハビリテーション科 准教授
2023年10月 長崎大学病院リハビリテーション科 教授

好きな言葉

良かさ



ミールタイム パワーアップ食の活用方法

バランスの良い食事には最適です。