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サルコペニアってなに?どうやったら予防できるの?(杉本 研)

サルコペニアって?

 現在、日本の平均寿命は世界一ですが、それには死因となり得る病気が医療の進歩により治癒する割合が増加したことが関係しています。しかし、その一方で病気は治癒していても生活機能が低下して人の手を借りなければならない高齢者が増加しています。そのような高齢者は、元の病気の影響や食事量の減少、活動性の低下などによって筋肉が人並み以上に減っていることが多く、そのことをサルコペニアと呼びます。

サルコペニアの診断

 サルコペニアは単に筋肉が減っていることではなく、筋肉が減っていることによって転倒や骨折、要介護や死亡といった不良の転帰に関連するため、サルコペニアであるかどうかの診断が重要となります。サルコペニアは筋肉量、筋力、下肢の身体機能の測定により診断します。筋肉量は体組成計という、体に弱い電流を流し、その抵抗の程度で成分を判別する機器で測定します。筋力は握力計で、下肢の身体機能は歩くスピードや椅子からの立ち上がりにかかる時間を測定します。

 しかし、筋肉量を測定する機器がない施設もあるので、その場合はふくらはぎの一番太い部分の周囲長を測定することで代用し、男性では34cm未満、女性では33cm未満であれば筋肉量が少ないと判定します。握力は男性では28kg未満、女性では18kg未満で、椅子からの立ち上がり時間は5回繰り返すのに12秒以上かかれば、それぞれ低下していると判定します。

 筋肉量が減っているかを簡単に見分ける方法に「指輪っかテスト」があり、自分の親指と人差し指で輪っかを作り、それをふくらはぎの一番太い部分に当て、囲めない場合は筋肉がまだ十分あり、すきまができる場合は筋肉が減っていると判定します(図1)。

図1 指輪っかテスト


サルコペニアにはどう予防、対処する?

 ではサルコペニアにならないように予防する、あるいはサルコペニアと診断された場合にはどうすればいいのでしょうか。まず予防については、適切に栄養を摂ることと運動習慣を持つことが重要です。適切な栄養とは、必要とされるカロリー、例えば体重50kgで家事中心の日常生活をしている女性であれば少なくとも1,500キロカロリーを1日で摂り、3食ともたんぱく質を含むことを指します。運動習慣は1日7,500歩(速歩であれば17.5分)を週2〜3回以上行うことが推奨されています。一度に7,500歩でなく、分けても構いません。

 次にサルコペニアと診断された人の場合は、まず栄養としては1日で摂取する最低カロリー数は予防と一緒ですが、たんぱく質に関しては体重あたり1.0〜1.2g、すなわち体重が50kgですと、1日50〜60gを3食に分けて、特に朝、昼にしっかり摂取することが必要です。たんぱく質を効率良く摂取するには、必須アミノ酸であるロイシンを多く含む食材が良く、例えば豚肉や鶏肉、魚、豆類、チーズなどが良いとされています。食欲が落ちている場合には、必須アミノ酸摂取のために経口栄養補助食(ONS)を利用することも効果的です。 

 次に運動としては、ウォーキングなどの低強度の運動のみでは筋肉量や筋力は増えないので、中強度以上の運動であるレジスタンス運動(自重やゴム製チューブなどに抗う運動)が必要になります。具体的には階段昇降や速歩、かかと上げ・つま先上げ、ももあげ、スクワットなどの運動がそれに当たります。中強度以上の運動が難しいようであれば低強度で反復回数を増やすことでも同等の効果があるとされています。片足立ち訓練などのバランス運動を加えることで、転倒予防の効果も期待できます。頻度は週2〜3回以上が、それ以下であると運動効果が蓄積していかないため、推奨されています(図2)。

図2 サルコペニア患者さんへの栄養、身体、精神・社会面へのアプローチ


サルコペニアは早期発見が大切です

 サルコペニアの患者さんは、食欲がない、あるいは運動する気になれないといった心理的な問題、また一人暮らしで頼る人がいないといった社会的な問題を抱えている場合が少なくありません。そのため、サルコペニアに対する栄養・運動療法を有効にするには、状況に応じて心理面への対応を専門家に依頼したり、介護保険のサービスを受けるための手続きを進めたりする必要があります。それが難しい場合は、サルコペニアの診療を専門としている老年科医やリハビリ科医などに相談することが望ましいです。

 サルコペニアはある程度進行してしまうと回復が難しくなり、寝たきりや死亡につながります。そのため、できる限り早い段階で筋肉量・筋力・身体機能を評価して、それらが低下していれば食事内容や運動習慣を見直し、サルコペニアからの回復を目指しましょう。

筆者

川崎医科大学
高齢者医療センター
副院長
医学博士 杉本 研

自己紹介

 老年科専門医として高齢者診療に日々従事する傍ら、鉄道旅行やバレーボール、仏像鑑賞など多くの趣味を持ち、家でじっとする時間が少ない生活をしています。

患者様とどのように接しているか

 患者さんがその日の診察に満足して診察室を出てもらえるように心がけています。まだ頭に?マークがついているな、と思う時は診察を止めずに続けるようにしています。

経歴と現職

1996年 大阪大学医学部医学科卒業
2004年 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員
2008年 大阪大学老年・腎臓内科学助教
2013年 大阪大学老年・腎臓内科学講師
2020年 川崎医科大学総合老年医学 主任教授
2023年 川崎医科大学高齢者医療センター副院長

好きな言葉

人の短を言うことなかれ、己の長を説くことなかれ(空海)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

朝に豆類やチーズ、魚などたんぱく質を含む食材を使った料理を食べましょう!