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しっかり食べて筋力アップが健康長寿への道(野見山 崇)

3食しっかり食べる、間食しないが基本中の基本

 “ダイエット”と聞くと辛い食事制限を思い起こすかもしれませんが、“ダイエット”には本来正しくしっかり食べるという意味も含まれます。健康長寿の為には正しくしっかり食べることが重要で、極端な食事制限や低炭水化物食はしてはいけません。

まずは3食しっかり食べましょう。現代人は朝食抜きの人が多く見受けられますが、朝食を抜くと昼食後の血糖が急激に上がります。タンパク、脂質、炭水化物の栄養素を満遍なく3回に分けて摂取しましょう。

また、間食をしないということも重要です。我々の身体は、食事中にはエネルギーをため込むホルモンが、空腹時にはエネルギーを燃やすホルモンが上昇し、蓄積と燃焼のバランスを保っています。少量でも間食をすると、いつも食後でいつも蓄積している体になり、肥満の原因になります。食間を保ち、燃やす時間を作りましょう。送り物で頂いたケーキや菓子類、果物がどうしても食べたいときは、食事の時間に一緒に食べてその分他の糖質を減らしてください。“おやつ”ではなく“デザート”にして頂きたいのです(図1)。

図1 食事の鉄則

食べる順番も大切

 食事の際に、食べる栄養素の順番も大切です。①野菜、②おかず(タンパク質)、③炭水化物の順に食べましょう。先に摂取された野菜に含まれる食物繊維は、糖や脂の吸収を抑えてくれます。ここで“野菜”を正しく理解することが重要です。いも類、カボチャ、レンコンは野菜ではなく炭水化物です。葉物野菜など、日本糖尿病学会が出版している食品交換表の表6にあるものを野菜として摂取してください。

 次にタンパク(おかず)を摂取します。炭水化物の前にタンパクを摂取することによって、インクレチンという腸管ホルモンが分泌され、インスリンの分泌がスムーズになり食後の血糖が抑えられます。そして最後に炭水化物ですが、よく噛んで食べましょう。1くち30回噛むことが推奨されていますが、難しい人は1くちを3くちに分けて10回ずつ噛んでも結構です。

筋力アップの秘訣ロイシン

 タンパクを摂取する際、ロイシンというアミノ酸を多く含むタンパクを摂取すると、筋力や筋量が保たれる可能性が報告されています。図2にロイシンを多く含む食材が挙げられています。鶏肉や魚のタラのような白っぽい食材に多く含まれますが、鮭にも多く含まれます。鮭はβ-クリプトキサンチンによって赤く見えますが、実は白身魚の一種です。β-クリプトキサンチンは抗酸化作用がありますし、魚脂に含まれるエイコサペンタエン酸はインクレチンの分泌を促進し、血管保護作用もあります。鮭は健康長寿食のキングなのかもしれません。

図2 ロイシンを多く含む食材

効果的な食後の運動

 理に適った食事に加えて、食後の運動は健康長寿への道の良きパートナーです。食後に15分だけで良いので運動をする習慣をつけましょう。食事によって摂取されたエネルギーが、脂肪ではなく筋肉に吸収されますので、肥満予防と筋力アップを同時に行うことが出来ます。運動と言っても屋外をウォーキングしたり、スポーツジムに行くなど大掛かり事をする必要はありません。リビングとキッチンを何度も往復して洗い物をする、1階から2階まで何度も上り下りをして洗濯や掃除をするなど日常生活の活動(NEAT:Non-Exercise Activity Thermogenesis)を増やすだけで結構です。

 近年、運動には多面的効果があることが分かってきました(図3)。糖脂質代謝のみならず、認知症やがんも予防してくれるかも知れません。運動の後は水分摂取が必要ですが、一般的なスポーツ飲料は糖質を多量に含んでいます。ミネラルを十分量含み、カロリーゼロの飲料を摂取してください。

図3 運動の多面的な作用 

毎日の食生活はサイエンスです。科学的に理に適った食生活に適度な運動を加えて健康長寿をゲットしてください。

筆者

順天堂大学医学部附属静岡病院
糖尿病・内分泌内科教授
医学博士 野見山 崇

自己紹介

糖尿病の合併症・併存疾患の研究を長年行ってきました。特に最近は糖尿病治療薬の血管保護作用やがん抑制作用といった血糖管理を超えた夢のある作用を研究しています。また、JADEC(日本糖尿病協会)の理事として糖尿病連携手帳や自己管理ノートの編集委員長をしています。趣味は剣道で錬士六段です。糖尿病についてのコラム「糖キング~Talking~」を執筆中です。

患者様とどのように接しているか

私の目指している医師像は“気軽に相談できる親戚の叔父さんもしくはお兄さん”です。外来では患者さんとの距離を近づけるために、天気や最近のスポーツの話題など診療には関係ない話を出来るだけします。そして“残心”で診察室を退室するまで見届けるようにしています。

経歴と職歴

昭和45年福岡市出身。
平成 7年順天堂大学医学部医学科卒業
平成 7年順天堂大学医学部附属順天堂医院内科臨床研修医
平成10年順天堂大学大学院医学研究科(博士課程)内科学・代謝内分泌学講座
平成17年ケンタッキー大学留学
平成20年順天堂大学医学部内科学・代謝内分泌学講座助教
平成22年福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科講師
平成24年同准教授
令和2年国際医療福祉大学市川病院糖尿病・代謝・内分泌内科教授
令和4年順天堂大学医学部附属静岡病院 糖尿病・内分泌内科教授

日本内科学会総合内科専門医、東海支部評議員、日本糖尿病学会公認糖尿病専門医、指導医、学術評議員、日本内分泌学会公認内分泌代謝専門医、指導医、評議員、日本糖尿病合併症学会評議員、日本体質医学会評議員、JADEC(本糖尿病協会)理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

好きな言葉

残心、順天応人

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

多彩な栄養素が摂取できるミールタイムパワーアップ食を、1日1食、朝食や昼食など準備する時間が少ない時間帯に取り入れみてはいかがでしょう。