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便秘と治療(中倉 兵庫)

便秘

 旧石器時代に狩猟生活から農耕生活を営むようになり、運動量が減少した紀元前1万年頃より人類は、便秘に悩まされているといわれています。

便秘は赤ちゃんからご老人まで幅広くどの年代にもよくみられます。20~60歳までは女性のほうが多いですが60歳以降は男女差が少なくなり、年齢を重ねるごとに有症率が高くなります。原因は、加齢に加えて食物繊維の摂取不足などの食事、運動不足など生活習慣によるものや、内服薬の副作用によるもの(薬剤性便秘)、持病によるもの(症候性便秘)などがあります。これらの原因が単独だけではなくいくつも重なることも多いですが、大腸がんなど重篤な病気が隠れていることもあり、注意が必要です。

一方で、便秘であるがために様々な疾患に影響を及ぼすとされています。例えば、排便回数が1日に1回以上出ている人に比べ4日に1回以下の人は、循環器系疾患の死亡率が1.4倍、脳血管疾患の死亡率が1.9倍高くなります(1)。また排便回数が少ないほど、便が硬いほど認知症リスクが高くなったとの報告(2)や、慢性腎不全に至るリスクが高くなるとの報告(3)があります。そして、海外のデータでは便秘のある人は便秘のない人に比べ死亡率が高いといわれています。

便秘といっても人により症状は様々です。図1に示すように人によって便秘のとらえ方が異なるため、その対応も変わってきます。

図1 「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」フローチャート

2023年日本消化器病学会が定めるガイドラインでは便秘について「本来排出すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義され、さらに慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体的にも様々な支障をきたしうる病態を慢性便秘症と定義しています(4)。つまり、便秘とは本来出すべき便が十分に出ない、または快適に出ないために腹痛・便が出しづらい(排便困難感)・便が出切らない感覚がある(残便感)といった排便のトラブルが長く続く状態といえます。

便秘と治療

☆生活習慣

 便秘に対して第一に行うべきなのは、食事・生活・排便習慣などの生活習慣の改善です。
そのためには、3食規則正しく摂り、適切な食物繊維の摂取など食生活の見直しも大切です。十分な便の量を確保するためには,適切量の食物繊維(典型的には15~20g/日)を食事に取り入れます。とくに植物繊維は,一般に消化吸収されないので,便の量が増加します。

そして適度な運動習慣などや、便意を感じたら我慢せずトイレに行って排便をする排便習慣の確立も重要です。排便しやすい姿勢(図2)をとることも便秘改善につながります。ただ、便意を感じていないのにトイレに行って長時間いきむことは誤った排便習慣です。

図2 排便しやすい姿勢

☆便秘治療薬

 生活習慣を改善しても便秘が解消されない場合は、あまり我慢をせず医療機関と相談し症状にあった便秘薬を処方してもらいましょう。便秘薬は古くから使用されてきたお薬に加え、近年新しく何種類も開発され使用できるようになりました(図3)。

図3 慢性便秘症の内服治療

食べ物が便になって排出されるまでの時間は約24時間〜72時間といわれています。ところが大腸の動きが鈍ると、便の通る速度が通常より遅くなり、水分が吸収されすぎて硬くなってしまいます。そして便が硬くなると、なおさら排出されにくくなり便秘を招くことになります。便秘薬の作用としては、大腸の運動を促したりする作用、腸内の水分を増やして便を軟らかくする作用があり、症状に応じて適した便秘薬を選択していきます。また、大きく分けて非刺激性下剤と刺激性下剤がありますが、ガイドラインが示しているのは、安定した排便回数や便の硬さを保つために非刺激性下剤を毎日適量内服することです。刺激性下剤は適量の非刺激性下剤が見つかるまでの一時的な頓服使用にとどめます。

最後に

 便秘に対しては食事・生活・排便習慣などの生活習慣を整えることが、重要です。ただ、それだけでは難しい場合は医療機関に相談してそれぞれに適したお薬の力を借りて、便秘のない快適な生活を目指しましょう。

文献

(1)日本消化管学会編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症, 2023

(2)Honkura K, et al. Atherosclerosis. 246: 251-256, 2016

(3)Shimizu Y, et al.: Public health ; 221; 31-38, 2023

(4)Journal of the American Society of Nephrology 28(4):p 1248-1258, 2017

筆者

自己紹介

大学を卒業後、あまり進路を迷わず、子供と接したいという思いだけで小児科に入局しました。その後上司に導かれるがままに小児腎臓病を専門としました。東京女子医科大学腎臓小児科に約3年国内留学し、小児の腎不全や透析療法を学び、大阪に戻り小児の透析を広めていきました。その後縁があって現在所属の病院に移籍とともに、小児だけではなく、成人の腎不全や透析に携わっています。

患者様とどのように接しているか

患者様の目をみてお話をして、同じ目線で一緒に考えるように心がけています。

経歴

1997年 大阪医科大学 卒業
2003年 東京女子医科大学 腎臓小児科 助教
2007年 大阪医科大学 小児科 助教
2012年 第一東和会病院小児科 部長
2016年 有澤総合病院 血液浄化センター長
2018年 有澤総合病院 副院長
2019年 Cambodia International University客員教授
2021年 天の川病院(旧有澤総合病院)院長、大阪医科薬科大学臨床教育教授

好きな言葉

セレンディピティ
「偶然と賢明さによって、探していたものと異なるものを発見すること」と定義されますが、普段何気ないことも見過さない目を持ち、どんなこともよりよいものにつなげる力をもつ。と解釈できます。

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

普段の食事では不足してしまいがちな食物繊維をしっかりとることができ、便通の改善に効果的でさらに様々な疾患の予防ができる食事と考えます。