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肥満は万病のもと!肥満で舌も肥大化する?!(品川英朗)

 肥満は、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、脳血管疾患、心疾患、さらには癌や認知症など、数多くの疾患との関連性が高いと言われています。また睡眠時無呼吸症候群(SAS)も肥満により引き起こされる疾患の1つとして一般に知られています。SASには、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)や中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)などがありますが、圧倒的に前者の患者が多く、睡眠時に気道が閉塞し、無呼吸の状態を生じる疾患です。特に舌への脂肪蓄積により、舌筋群だけではその重さを支えきれず、舌根沈下のような状態により、無呼吸となる場合があります。無呼吸の状態が長ければ長いほど、低酸素状態により脳の神経細胞にダメージを生じ、認知機能の低下まで引き起こす大変怖い疾患です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断

 診断は、ポリソムノグラフィー(PSG)検査を行い、10秒以上の無呼吸あるいは低呼吸が1時間あたり5回以上続くか、7時間の睡眠中に30回以上ある場合、SASと診断されます。特にOSASの場合、対処療法としては、CPAPによる治療が第一選択肢となります。鼻に装着したマスクから、気道に圧をかけ、気道の閉塞を防ぐ対処療法で、持続陽圧呼吸療法とも言われています。

 またオーラルアプライアンス(OA、口腔内装置)を用いた下顎前方位による気道の確保を行う対処療法もあります。

オーラルアプライアンス

この場合、歯列を固定源とするため、無歯顎者は使用できず、また歯周病を罹患している患者さんは、歯の状況をさらに悪化させてしまう危険性があります。そのため、舌のみを前方に出して、気道の閉塞を防ぐOAも使用されています。

舌のみを前方に出すオーラルアプライアンス

実際に仰臥位での舌の安静位と前方位(OA装着時)の状態を3次元MR画像で比較すると、明らかに、気道が広がっていることが確認できます。

 しかしながら、これらの治療法は、あくまでも対処療法に過ぎず、根本的な治療ではありません。

肥満で舌も肥大化する?!

 焼肉の中で、「牛タン」が好きという人が多くいますが、なぜでしょうか?舌は緻密な内舌筋という筋繊維で構成されており、その筋繊維の間に脂肪が溜まる構造になっています。「牛タン」は、舌先端分よりも、舌根部の方が、噛めば噛むほど、筋繊維による弾力感と溶け出す脂質により、焼肉としてとても美味しい部位となります。逆に「牛タン」の舌先端部は、筋繊維のみのため、シチューなどの煮物に使われることが多いのは良く知られています。

焼肉で人気が高い牛タン

 ヒトの舌も同様で、舌先端分は絶えず、舌の微細運動を行うために、筋繊維のみで、逆に舌根部は脂質がつきやすくなります。したがって、舌根部に、脂質がついてしまうとなかなか落とすのが難しい部位でもあります。まさにお腹やお尻に脂肪が蓄積するのと同じようなことが、舌の舌根部でも起こっているのです。

肥満患者の舌(BMI=29.5)

舌のトレーニングが健康の鍵!

 舌に脂肪がつかないようにするためには、まずは肥満の防止と舌のトレーニングが必要になります。当時、100歳を超えても現役スキーヤーだった三浦敬三さんが著書の中で、徹底した栄養管理や運動による筋力強化に加えて、舌出し健康法が効果的だったと述べられています。この舌出し健康法とは、自分の舌を前方、右前、左前に思いっきり出す運動で、三浦さんは、毎朝顔を洗ったら100回、その後も暇があれば舌を出し、1日に1000回程度は行っていたとのこと。この運動の特徴は、舌筋群を鍛えるばかりではなく、口腔顔面領域全体を動かすことにより、口腔顔面領域の血流の改善や刺激による脳の機能保全といった効果もあります。以前、舌の前方運動を行った際の脳の賦活領域について実験したことがあります。手指運動は、脳の片側性支配(対側)であるのに対して、舌運動は脳の両側性支配であるため、舌運動による脳の賦活領域は広く、舌運動そのものの重要性が分かります。

 是非この機会に、舌運動も日々の運動として取り入れていただければと思います。舌運動により、OSASの予防以外にも、誤嚥性肺炎などの発症予防やオーラルフレイル予防にもつながると考えます。

 では実際にどのような舌運動をすればよいかですが、①:舌を前方に思いっきり出して、5秒間そのままキープしてみましょう、②:舌を右方向に思いっきり出して、同じく5秒間そのままキープしてみましょう、③:舌を左方向に思いっきり出して、同じく5秒間そのままキープしてみましょう、④:①~③を10回程度繰り返します。

舌を思いっきり前方へ(5秒間キープ)

 三浦さんも一押しの舌出し健康法になりますが、三浦さんと同じように1日1000回はとてもできませんので、それぞれ皆さんにあった回数で継続されることをお薦めします!

筆者

自己紹介

現在は、食についての興味関心から、学生達と商品開発をしたり、販売したりしています。最近では、企業様のご協力で、抗酸化作用のあるウチワサボテンの赤い実を使った赤いビールを作り、今シーズン、地元のラグビーチームを応援しました!

患者さんとどのように接しているか

普段は、患者様より学生達に接することが多いのですが、患者様への対応同様に、学生達にも優しく接するように心がけています。ただ国家試験対策の講義では、親心から厳しく指導しています。

経歴

東京医科歯科大学歯学部卒、同大学院(顎顔面矯正学分野)修了、博士(歯学)。東京都老人総合研究所、イリノイ大学、メリーランド大学、大阪大学、大阪府立大学などでの研究員を経て、2016年から現職(相愛大学管理栄養学科教授、同総合研究センター長)

好きな言葉

人間万事塞翁が馬

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