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ビタミンと健康増進・病気の予防(田中 清)

ビタミン欠乏症

ビタミンは13種類あり(脂溶性9・水溶性4)、欠乏により欠乏症が起こります。

図1

ビタミンB1欠乏による脚気が代表的で、心不全や神経障害を起こします。かつて日本では膨大な数の患者が発生し死者も多数でした。米のビタミンB1は胚芽・ぬかに含まれ、白米にはほとんど含まれないため、白米ばかり食べることにより、脚気が起こりました。

図2

海軍軍医の高木兼寛先生は、洋風の食事や麦飯の導入により、見事に脚気を予防されましたが、これは鈴木梅太郎先生がビタミンB1を発見される前のことです。その後ビタミンが次々に発見されて、対策が講じられ、少なくとも先進国では、ビタミン欠乏症はほぼ克服されたと考えられており、健康増進におけるビタミンの意義が軽視されがちですが、決してそうではありません。

ビタミンD不足

欠乏より軽度のビタミン不足でも、種々の疾患リスクが高まります。ビタミンDを例にお話しします。ビタミンDの最も基本的な役割は、腸管からのカルシウム・リンの吸収促進です。骨はビルに例えられ、鉄筋の枠組みにコンクリートを流し込んでビルができるように、骨はたんぱく質の枠組み(主にコラーゲン)の上に、リン酸カルシウムが沈着して生成し、これを石灰化といいます。ビタミンD欠乏では、コラーゲンの枠組みができても、沈着させるリン酸カルシウムが足りません(石灰化障害)。小児に起こったものをくる病、成人のものを骨軟化症といいます。

体内に約1㎏のカルシウムが存在し、その99%が骨と歯にあります。残りの1%に関して、細胞内カルシウム濃度を1とすると、細胞外カルシウム濃度は10,000であり、細胞外から細胞内にカルシウムが流入すると、筋肉の収縮や神経伝達などが起こります。したがって細胞外(血液中)カルシウム濃度の維持は生命維持に欠かせません。

血液中カルシウムは手持ちの現金、骨のカルシウムはカルシウム銀行の預金残高に例えられます。ビタミンD不足により、腸管からのカルシウム吸収が低下し、血液中カルシウム濃度維持のため、骨が壊されて(骨吸収)、骨のカルシウムが血液中に動員されます。手持ちの現金が乏しくなると、ATMに行くイメージでしょうか。このためビタミンD不足の結果、骨折のリスクが高まります。ビタミンD不足は、骨折以外にも、筋力低下・感染症・免疫疾患・大腸がんなど、多くの疾患のリスクになることが報告されています。

その他のビタミン不足

脚気に至るほどの欠乏でなくても、ビタミンB1不足が疾患リスクとなることが最近報告されています。摂取した炭水化物・脂質などからエネルギーを生み出すのにはビタミンB1が欠かせません。心臓は大量のエネルギーを必要とするので、脚気において心不全が起こるのは当然ですが、より軽度のビタミンB1不足であっても、心不全のリスクとなることが報告されています。最近ニューヨーク科学アカデミーは、Thiamine Deficiency Disorders (TDD)すなわち「ビタミンB1欠乏病」という概念を発表しました。

図3

ビタミンB1欠乏・不足者は非常に多いが、そのほとんどは典型的な脚気症状は示さず、他の病気でもみられるような症状しか示さないので、症状の有無ではなく、血液中ビタミンB1濃度などの検査によって診断すべきであるというものです。潜在性のビタミンB1不足者数は多数にのぼると思われますが、実態はまだ不明です。

アミノ酸のメチオニンの中間代謝産物であるホモシステイン(Hcy)は、ビタミンB12・葉酸依存性にメチオニン、あるいはビタミンB6依存性にシステインに代謝されます。これらビタミンが欠乏・不足すると血液中Hcy濃度が上昇し、高Hcy血症は動脈硬化・骨折・認知症などのリスクです。

図4

ビタミン不足と疾患リスク

ビタミン不足では、各個人に外見上の異常や自覚症状はないので、重要性が認識されにくいですが、これは慢性疾患のリスクに共通します。例えば高LDLコレステロール血症状は、動脈硬化の重要なリスクですが無症状です。

ビタミン不足の解消による疾患リスク軽減は、社会的に大きな意味を持ちます。最近画期的な新薬が開発されています。ビタミンの効果はそれより小さいですが、安価であり、副作用の懸念もほとんどありません。いわゆる予備軍と言われる人たちに対しては、薬物療法は現実的ではなく、栄養改善によるリスク低下が重要です。

図5

またビタミン不足解消は、薬物療法にはない利点もあります。メタボリックシンドロームの場合、内臓脂肪蓄積によりインスリン抵抗性高血圧・脂質異常症・糖尿病などが起こるのであれば、内臓脂肪蓄積減少により、複数の疾患リスクが低下します。同様に、高Hcy血症状を改善すれば、動脈硬化・骨折・認知症のリスクが低下し、ビタミンD不改善により複数の疾患リスクが同時に低下します。

筆者

地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立総合病院 リサーチサポートセンター 臨床研究部長 田中 清

自己紹介

私は何度か専門分野が変わっています。元々は内分泌内科医で、甲状腺を専門にしていましたが、教授が代わった際、骨・カルシウム研究室のセットアップを命じられ、骨粗鬆症診療に関わるようになりました。その後勧めてくださる方があり、管理栄養士養成大学の教員となり、ビタミン欠乏・不足と疾患リスクの関係を研究してきました。2023年より現職の静岡県立総合病院リサーチサポートセンター臨床研究部に勤めています。病院ですが、研究部門です。

患者様とどのように接しているか

私の主な研究テーマはビタミンですが、臨床との関りは甲状腺疾患と骨粗鬆症です。どちらも患者さんのほとんどが女性です。できるだけ丁寧なご説明をすることを目指しています。

経歴

1977年京都大学医学部卒業、1984年同大学院医学研究科修了・医学博士。米国オレゴン大学、静岡県立総合病院、京都大学RIセンター・京大病院を経て、2000年から管理栄養士養成大学の教員(甲子園大学・京都女子大学・神戸学院大学)。2023年より静岡県立総合病院リサーチサポートセンター臨床研究部長。日本人の食事摂取基準WG・検討委員会委員(2010年版~2025年版・ビタミン担当)。

好きな言葉

人生の本舞台は常に将来に在り(尾崎行雄)

私は新しい分野に取り組むのが性分にあっているようで、既に出来上がった分野より、誰もやっていないテーマに無謀に挑戦してしまいます。共同研究者からは、ブレーキなし自転車と言われています。

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

できる限りいろんな種類のものを食べると、ビタミンが充足する可能性が高まります。