タンパク質・HMB で筋肉を守る食習慣(天神 尊範)
健康で長く、自分らしく生きるために本当に大切なこと
―筋肉を守るという視点から―
健康で長く、自分らしく生きるために何が大切か。私は日々の診療のなかで、その答えは「筋肉を守ること」にあると強く感じています。
高齢になると、筋肉は自然に減っていきます。これがサルコペニアです。多少の筋力低下は加齢に伴う変化として避けられません。しかし、これを放置すると問題は深刻になります。歩く速度が落ちる、立ち上がるのがつらくなる、疲れやすくなる、ふらつきや転倒が増える。さらに進めば、買い物やトイレ、入浴といった日常生活そのものが難しくなります。筋肉は単に体を動かすためのものではなく、その人らしい生活を支える大切な土台です。元気に長生きできるかどうかは、筋肉をどれだけ守れるかに大きく左右されます。
では、その筋肉を守るために必要なものは何でしょうか。重要なのは、十分なエネルギーを確保すること、タンパク質をしっかり摂ること、そして口から安全に食べ続けられる力を守ることです。運動だけでなく、食べることと飲み込めることがそろって、はじめて筋肉は守られます。
まず見落としてはいけないのが、エネルギーです。タンパク質が筋肉の材料になるのは事実ですが、エネルギーが不足すると、摂ったタンパク質は体を動かすための燃料として使われてしまいます。つまり、食事量が少ないままタンパク質だけを増やしても不十分です。ごはん、パン、麺、芋類、油脂なども含めて、まずはしっかり食べることが大前提です。特に体重減少や食事量の低下がある場合には、早めに対策をとることが重要です。朝食を抜かない、間食を上手に使うなど、小さな工夫も意外に大きな差になります。
そのうえで、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などからタンパク質を摂ることが重要です。高齢になると、「量が食べられない」「肉が重たく感じる」といった理由で、タンパク質が不足しやすくなります。卵、豆腐、ヨーグルト、牛乳、やわらかい魚など、食べやすい食品を上手に取り入れることが大切です。少量でも継続して摂ることが、筋肉維持には有効です。一度にたくさん食べられなくても、毎食少しずつ積み重ねることに意味があります。
さらに、近年注目されているのがHMB(タンパク質の一部であるロイシンから作られる物質)です。HMBは筋肉の減少を抑える働きが期待されています。ただし、HMBだけで筋肉がつくわけではありません。基本はあくまで十分な食事、特にエネルギーとタンパク質です。そのうえで、栄養が不足しがちな方や筋力低下が進んでいる方に対して、補助的に役立つ可能性があります。
もう一つ重要なのが、口の機能です。噛みにくい、飲み込みにくい、むせる、口が乾く。こうした変化は食事量の低下につながり、低栄養から筋肉減少へと悪循環を生みます。これは決して珍しいことではありません。口の状態が悪いままだと、食べたい気持ちそのものが落ちてしまうこともあります。
「最近むせるようになった」「食べるのに時間がかかる」「固いものを避けるようになった」。こうした変化があれば要注意です。口腔ケアや姿勢の調整、食形態の工夫、簡単な嚥下トレーニングで、食べる力を守れることがあります。口の機能は見落とされがちですが、栄養状態を支える重要な要素です。
また、筋力低下のサインを早めに見つけることも重要です。ペットボトルのふたが開けにくい、買い物袋が重く感じる、椅子から立ち上がるときに手をつく。こうした小さな変化が、筋力低下の始まりを知らせます。運動も特別なものは不要で、立ち座りや散歩、軽いスクワットでも十分です。無理なく続けることが最も重要です。特別な道具や難しい知識がなくても、今日からできることはたくさんあります。大事なのは、早めに気づいて、早めに手を打つことです。
健康を守る基本はシンプルです。しっかり食べること、必要な栄養を摂ること、口の機能と筋力を落とさないこと。筋肉は人生の自由度そのものです。日々の積み重ねが、将来の体をつくります。健康で長く、自分らしく生きるために、まずは筋肉を守ることから始めてみてください。

筆者

クローバーホスピタル
医師 天神 尊範
自己紹介
リハビリテーション栄養、摂食嚥下、総合内科、消化器内科を専門とする医師。
現在はリハビリテーション栄養医として、クローバーホスピタル回復期リハビリテーション病棟を中心に診療を行っている。
栄養・嚥下・リハビリを統合した「口腔リハ栄養」を軸に、機能回復と生活再建を支える医療を実践している。
患者様とどのように接しているか
「口から食べること」を軸に、栄養・嚥下・リハビリを一体として捉えた医療を行っています。単なる栄養補給ではなく、患者様の生活背景や在宅環境も踏まえ、継続可能な形での改善を重視しています。
経歴
2001年 聖マリアンナ医科大学医学部 医学科卒業
沼津市立病院、大船中央病院、海老名総合病院、
横須賀タワークリニック、ライフタウン診療所を経て
2019年より現職
好きな言葉
エンデバー(挑戦・努力)
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
HMB は食事量低下時の効率的な栄養補給に有用です。













