mealtime

糖尿病とサルコペニアを防ぐ食のススメ(阿部 眞理子)

1.「筋肉」が寿命を決める?!

人生100年時代といわれる現代で重要なのは、単なる長寿ではなく、自立して元気に暮らせる「健康寿命」を伸ばすことです。その鍵として近年注目されているのが「筋肉」です。
皆さんは「サルコペニア」という言葉をご存じでしょうか。これは加齢に伴い筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下してしまう状態を指します。以前は単純に老化現象と捉えられていましたが、近年の研究で、サルコペニアは転倒・骨折のリスクを高めるだけでなく、免疫力の低下や認知症、さらには死亡リスクの増大に直結する深刻な病態であることがわかってきました。
特に注目されているのが、糖尿病との負のスパイラル(悪循環)です。

筋肉は「最大の糖代謝臓器」:筋肉は、私たちが食事で摂取したブドウ糖をエネルギーとして消費する貯蔵庫の役割を果たしています。筋肉が減ると、ブドウ糖の行き場がなくなるため血糖値が下がりにくくなり、糖尿病の悪化を招きます。

高血糖が筋肉を破壊する:高血糖状態が続くと、体内で酸化ストレスや慢性的な炎症が生じます。これによりインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が起こると、筋肉の合成が妨げられ、分解が加速してしまいます。
このように、「糖尿病が筋肉を減らし、筋肉が減ることで糖尿病が悪化する」という悪循環が生まれます。筋肉を守ることは、代謝機能を維持して健康寿命を延ばすための重要な課題なのです。

2.最新知見に基づく「食」の戦略

では、どのようにしてこの悪循環を断ち切り、筋肉を維持していけばよいのでしょうか。かつて糖尿病の食事療法といえば「カロリー制限」が主役でした。しかし現在は、高齢者の「フレイル(虚弱)」やサルコペニア予防の観点から,単に量を減らすのではなく、「何を、いつ、どのように食べるか」という質の改善が重視されています。
ここからは、筋肉を守り、血糖値を安定させるためのポイントを解説します。

①たんぱく質の量と摂取のタイミング
筋肉の材料となるたんぱく質は不可欠です。高齢者は体内のたんぱく質合成効率が落ちるため、若い頃よりも多くの摂取が必要になります。65歳以上では、体重1kgあたり1.0g〜1.2g(体重60kgなら60〜70g)以上が推奨されています。
重要なのが「摂取タイミング」で、最新の研究では、「朝食」での摂取量が筋肉維持の鍵を握ることが示されています。夕食に肉や魚をしっかり食べても、朝食に十分なたんぱく質を摂らないと、睡眠中に低下した栄養状態が回復せず筋肉の分解が進んでしまいます。
アドバイス:朝食に卵、納豆、ヨーグルト、ツナ缶などをプラスし,1食20g程度を目標に3食均等に摂りましょう。特に、筋肉合成を促すアミノ酸「ロイシン」を多く含む食品(乳製品、青魚、大豆など)を意識すると、より効果的です。

②「糖質」は制限ではなく選択
過度な糖質制限はエネルギー不足を招き、筋肉を減らす原因になります。大切なのは、糖質を敵視するのではなく、種類を選ぶことです。白米や食パンなどの精製された炭水化物は血糖値を急上昇させますが、玄米、もち麦、全粒粉パンなどの「茶色い炭水化物」は食物繊維が豊富で、血糖値の上昇を緩やかにします。
アドバイス:白米にもち麦を混ぜるだけでも効果があります。食物繊維は腸内環境を整え、全身の炎症を抑えることで、筋肉の維持にも役立ちます。

③抗酸化・抗炎症食材の活用
高血糖や加齢による筋肉へのダメージを抑えるため、抗酸化・抗炎症作用のある栄養素を取り入れましょう。
・ ビタミンD:筋肉の合成を助けます。鮭、青魚、干し椎茸などに多く含まれます。
・ オメガ3脂肪酸:青魚(サバ、イワシ)アマニ油に含まれる良質な油は、体内の炎症を抑え筋肉の減少を抑制します。
・ 野菜・海藻・きのこ: 「ベジ・ファースト(野菜を先に食べる)」を実践することで、糖の吸収を緩やかにします。

3.腎臓への配慮と個別化治療

腎臓の機能が低下している方では、たんぱく質の過剰摂取が腎臓に負担をかけることがあります。最適な栄養バランスは病状や活動量によって異なるため、自己判断せずに主治医や管理栄養士と相談し、自分に合った食事療法を見つけることが大切です。

4.運動との掛け合わせで効果倍増

食事の効果を最大化するのは、運動です。スクワットや片足立ちなどのレジスタンス運動(筋トレ)を行った直後から数時間以内にたんぱく質を含む食事を摂ることで、筋肉の合成効率が飛躍的に高まります。「運動」と「栄養」はセットで考えましょう。

5.さいごに

健康で長生きの秘訣は、筋肉を減らさない生活に尽きます。
「朝のたんぱく質」「茶色い炭水化物」「運動後の栄養補給」の3つを意識するだけでも、体は変わります。サルコペニアや糖尿病は予防可能です。今日のご飯から、未来の自分のための体づくりを始めてみませんか。

筆者

汐田総合病院 総合診療科 医師 阿部 眞理子

自己紹介

糖尿病専門医としての知識を活かしながら、日々さまざまな患者さんの診療にあたっています。診察を通して強く感じるのは、「食事は健康の基本である」ということです。糖尿病の有無にかかわらず、何をどう食べるかは、私たちの体を支える大切な要素です。患者さんとの会話から得られる気づきは本当に多く、その学びを少しでも皆さんの健康づくりに役立てたいと思っています。

患者様とどのように接しているか

診療では、何よりも顔を合わせた対話を大切にしています。病気や治療に関する真面目なお話はもちろんですが、時にはちょっとした雑談もできるような、温かい信頼関係を築くことが私のモットーです。

経歴

新潟大学医学部卒業
現職:汐田総合病院 総合診療科
資格:日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医

好きな言葉

笑う門には福来る

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

健康づくりに欠かせない“たんぱく質”ですが、実は毎日の食事で十分に摂るのは意外と難しいものです。
私は患者さんに、「メインの献立を考える際のヒントとして使うこと」や、どうしても足りない時の「不足分を補うサポーター」として活用することをおすすめしています。