mealtime

噛み応えを楽しんで、体も心も健康に!(島谷 浩幸)

皆さんはしっかり噛んで食事をしていますか?普段は何気なく当たり前のように食材を噛んでいると思いますが、噛むことにまつわる子供の頃の思い出があります。

休日に祖父母の家に行くと木の蔓で編んだ籠に自家製の干し柿が置いてあり、おやつ代わりによく食べました。中味のしっとりした濃厚な甘さは子供ながらにとても美味しく感じましたが、表面の手強い歯応えに難儀したのを今でも鮮明に覚えています。

その当時はもちろん意識しませんでしたが、近年、「咀嚼(そしゃく)」の健康効果が注目を浴びており、歯科医師としては是非お伝えしたい内容です。

しっかり噛むと脳の血流が促進され、記憶などを司る海馬等の脳領域が刺激されると研究報告されています。高齢者では認知症の予防に(図1)、そして子供たちには勉強やスポーツの意欲向上や知育にもつながることが期待できます。また、噛むことによるリラックス効果だけでなく、唾液の分泌が促進され、消化・吸収を助けてお通じにも好影響を与えるという報告もあります。

歯の形には役割があり、食物を前歯で噛み切り、奥歯ですり潰します。その機能を十分発揮するために健康な歯は不可欠です。厚生労働省が「噛ミング30」政策で一口に30回以上噛んで食事するのを推奨するように、咀嚼の効果を健康づくりと食育の視点から国も認めており、噛める食品数が多いほど死亡率が少ないという研究報告もあります(図2)。

よく咀嚼すると唾液分泌が増し、様々な効果が期待できます。唾液アミラーゼという消化酵素が糖質分解で消化を助けるほか、唾液のラクトフェリン等の抗菌物質が虫歯や歯周病の原因となる細菌の増殖を抑えます。唾液が増すと細菌等を洗い流す自浄作用も促され、虫歯・歯周病の予防になります。

元来、干し柿などのドライフルーツは古来より保存食として重宝され、ブドウやアンズ、イチジク等、多彩な果物がその対象となり、様々な味わいを私たちに提供してきました。特にその濃縮された天然の甘みで、砂糖の普及が十分でなかった時代には、多くの者を魅了する貴重な存在だったようです。

美濃の干し柿は戦国時代、明智光秀が松平竹千代(後の徳川家康)に食べさせた逸話や、織田信長が宣教師フロイスにお気に入りの土産として与えた記録も残ります。戦国武将たちが干し柿を噛みながら、合戦の戦略を構想していたと想像するのも面白いですね。もちろんドライフルーツに限らず、歯応えのあるゴボウなどの野菜は食物繊維が豊富なものが多く、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の予防効果も期待できます。

しかし、手軽な食べやすさが求められるファストフードなどの普及で、現代人は噛まない傾向にあることが危惧されます(図3)。

よく噛む習慣をつけるために、野菜ソムリエとして調理法や食べ方の工夫で噛む回数を増やす方法をお伝えしましょう。

1.食材選びの工夫:食物繊維が多いものを選ぶ。

咀嚼を増やすには食物繊維を多く含む歯応えのある食材(根菜、キノコ類、海藻類等)を使うのが重要です(図4)。注意したいのは、食物繊維を多く含む食材でも調理法で咀嚼回数が減ることです。野菜も茹でたり炒めたり加熱調理すると食感が軟らかくなり多く食べれる反面、噛む回数は減ります。逆に食物繊維が少なくても生のサラダで食べると、歯応えを維持できます。

2.調理する際の工夫

具材を大きく切る、硬く茹でる、軟らかい料理に噛み応えのある食材を混ぜるといった一工夫により、しっかり噛みながら、食事の満足度もアップすることができます。

3.噛む際の工夫

一口の量は少なく食物の形がなくなるまで意識して噛む、飲み込んでから次の食物を口に入れる等、時間をかける咀嚼が大切です。テレビを見ながら、スマホを操作しながらといった「ながら食べ」は、噛む意識が薄れるので控えるようにしましょう。

 正しい歯磨き習慣で得られる健全な歯は、美味しく食べるための基本です。しっかり噛んで歯応えを楽しみながら、体も心も健康を目指しましょう。

【参考資料】
・恒石美登里ほか:Association between number of teeth and Alzheimer`s
disease using the National Database of Specific Health Checkups of Japan. PLOS ONE April 30, 2021(オンラインジャーナル).
・Ansai T et al: Relationship between chewing ability and 4-year mortality in
a cohort of 80-year-old Japanese people. Oral Dis, 13: 214-219, 2007.
・斎藤滋:よく噛んで食べる-忘れられた究極の健康法、NHK出版、2005.

筆者

医療法人恵泉会堺平成病院
歯科科長 島谷 浩幸 

患者様とどのように接しているか

病院内の歯科で高齢患者さんが多いため、家族も交えたインフォームド・コンセントを重視し、できるだけ多くの治療法の選択肢を提示できるように心掛けています。

経歴

大阪歯科大学卒。同大学大学院(細菌学)修了、博士(歯学)。大阪大学微生物病研究所等を経て、2019年より医療法人恵泉会堺平成病院・歯科科長。京都文化医療専門学校・非常勤講師を歴任。

好きな言葉

晴耕雨読

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

食事は栄養素の摂取だけでなく、五感で感じながら楽しんで食べるのを心掛けています。