mealtime

筋肉が減ると飲み込みも弱くなる?(百崎 良)

 「最近、食事中にむせることが増えた」「硬いものが食べにくくなった」「食事に時間がかかるようになった」。年齢を重ねると、このような変化を感じることがあります。食べ物を口から胃まで安全に送り込む「飲み込む力」は、健康に生活していくうえでとても大切です。そして実は、この飲み込む力にも「筋肉」が深く関係しています。加齢や病気、活動量の低下、栄養不足などによって筋肉量や筋力が低下することを「サルコペニア」といいます。サルコペニアというと、「足腰が弱くなる」「歩けなくなる」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、筋肉は手足だけにあるわけではありません。私たちが食べ物を噛み、口からのどへ送り、飲み込むときにも、舌やのどなどの多くの筋肉が働いています。そのため、全身のサルコペニアが進むと、飲み込みに関係する筋肉も弱くなり、飲み込む機能が低下することがあります。こうした状態は「サルコペニアの嚥下障害」と呼ばれています。ここで注意したいのは、サルコペニアと飲み込みの問題がお互いに影響し合うことです。筋肉が減って飲み込む力が弱くなると、硬いものを避けたり、食べる量が少なくなったりすることがあります。食事量が減れば、必要なエネルギーやタンパク質などを十分に摂れなくなり、低栄養につながります。そして低栄養になると、さらに筋肉が減ってしまいます。つまり、「筋肉が減る → 飲み込みにくくなる → 食べる量が減る → 低栄養になる → さらに筋肉が減る」という悪循環が生じることがあるのです。この悪循環を防ぐためには、「飲み込み」だけを見るのではなく、栄養と運動を含めて全身の状態を考えることが重要です。

 まず大切なのは、必要な栄養をしっかり摂ることです。筋肉を維持するためには、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などからタンパク質を摂ることが大切です。ただし、タンパク質だけを摂ればよいわけではありません。筋肉をつくり、身体を動かすためにはエネルギーも必要です。特に食事量が減っている方では、「何を食べるか」だけではなく、「必要な量を食べられているか」にも目を向けてみてください。そして、栄養とともに大切なのが身体を動かすことです。食事から十分な栄養を摂り、適切に身体を動かす。この二つを組み合わせることが筋肉を守るためには重要です。特別な運動だけでなく、歩く、立ち上がる、家事をするといった日常の身体活動も大切にしましょう。

 もちろん、「むせる=サルコペニアの嚥下障害」というわけではありません。脳卒中や神経・筋疾患など、飲み込みにくくなる原因はさまざまです。「食事中によくむせる」「食事に時間がかかる」「食べる量が減った」といった変化に加えて、「最近痩せてきた」「歩くのが遅くなった」「以前より力が弱くなった」といった変化がないかにも注意してみてください。特に、「食べにくくなった」と「痩せてきた」が同時にみられる場合には注意が必要です。年齢のせいだから仕方がないと考えず、医療機関などに相談してください。

 食べることは、栄養を摂るためだけの行為ではありません。好きなものを味わい、家族や友人と食卓を囲むことは、人生の大きな楽しみでもあります。いつまでも自分の口からおいしく食べ続けるために、口やのどだけではなく、全身の筋肉と栄養状態にも目を向けることが大切です。「食べる力」を守るためにも、「筋肉を守る」という視点をぜひ覚えておいてください。

筆者

三重大学医学部附属病院
リハビリテーション科 
教授 百崎 良

自己紹介

三重大学でリハビリテーション医学の診療・教育・研究に携わっています。専門はリハビリテーション医学で、特に高齢者のフレイルやサルコペニア、低栄養、嚥下障害などに関心を持って研究を行っています。

患者様とどのように接しているか

病気や障害だけを見るのではなく、「その方がこれからどのような生活を送りたいのか」を大切にしています。患者さんやご家族、多職種の医療スタッフと目標を共有し、食事や運動、生活環境なども含めて、その方らしい生活を取り戻す方法を一緒に考えることを心がけています。

経歴

東京慈恵会医科大学卒業後、リハビリテーション医学を専門として診療・研究・教育に従事。東京大学公衆衛生大学院修了。現在、三重大学医学部附属病院リハビリテーション科教授。

好きな言葉

人格が主人、知識才能は召使

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

食事量が減ったときの栄養補給に活用するのも一つの方法です。