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明日の若さと健康を守るミネラル「亜鉛」(西牟田 守)  

 食事中に含まれる必須微量栄養素(ビタミン類やミネラル)の働きが明らかになりつつあり、栄養素に関する新しい情報があふれています。ここでは、それらを正しく理解し、食生活に生かしてゆくために、ミネラル、とくに、微量元素について解説します。

 ミネラルのうち、成人における1日の摂取量がおよそ100mg以上の元素を主要元素、100mg未満の元素を微量元素とよびます。そのうち、成人における1日の摂取量がおよそ1mg以上の元素を微量元素I、1mg未満の元素を微量元素IIと区別して考えてゆきましょう(表1)。

 微量元素Iに属する必須元素は、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)の4元素です。このうち、鉄(Fe)に関しては、血液中で酸素(O2)を運搬している、赤血球中のヘモグロビンに含まれており、不足すると貧血(鉄欠乏性貧血)を発症させるとして、古くから注目されていました。しかも、食材料を工夫しないと、食事摂取基準(推定平均必要量)を満たしにくい栄養素としても知られています。鉄製の調理器具を用いて「ひじき」などの水煮素材を作成すると、鉄(Fe)の成分値が高くなることも知られています。

 今回説明させていただくのは、亜鉛(Zn)です。栄養素としては、馴染みの薄いミネラルですが、非常に重要な働きをもっています。DNAを複製したり、タンパク質を合成したり、細胞を増殖したりするときに必要です。成長期には成長を促進し、成長後は活動や消耗により失った身体を復元します。このように考えると、亜鉛(Zn)は「明日の若さと健康」を守る重要なミネラルであるといえましょう。しかし、普段は「縁の下の力持ち」のように静かに身体の健康を支えています。ところが、「Znは不足しやすいミネラル」であることがわかってきました。これまでは、特に注目されていなかったミネラル「亜鉛」が、急に脚光を浴びたのです。

 亜鉛(Zn)不足の症状は表2に示したとおり多岐に渡りますが、ご心配の方は、比較的亜鉛(Zn)が多く含まれる「かき」でも試してみてください。

 亜鉛(Zn)の摂取量(食品成分値)は、ほぼ鉄(Fe)と同じレベルですが、鉄(Fe)のように調理操作で増えることはありません。鉄(Fe)が不足するような食生活では、同時に亜鉛(Zn)も不足します。鉄(Fe)の場合、失血すると一度に多くを失われますが、亜鉛(Zn)も、意外なことで失われる場合がありました。

 それは、尿中排泄量が多くなる場合です。この状態(病態)を「特発性高亜鉛尿症」とよびます。「特発性」とは、「原因がよくわからない」という意味です。では、どんな場合に亜鉛(Zn)が尿から失われるのでしょうか。亜鉛(Zn)は、通常、タンパク質と結合し、血液中を流れているので、腎臓の糸球体でほとんど濾過されず、尿にもほとんど排泄されません。しかし、分子量の小さい化学物質と亜鉛(Zn)が結合すると、亜鉛(Zn)化合物が糸球体を濾過され、尿から排泄されてしまうのです。

 この分子量の小さい物質には、激運動や糖代謝異常で増加する、遊離脂肪酸 (FFA)などがあります。しかし、最も重要なのは、医師から処方される治療薬です。がんや生活習慣病の治療薬として、医師から処方される薬剤のなかには、亜鉛(Zn)と結合して、尿から亜鉛(Zn)を排泄させるものがあります。これは、この作用を「キレート作用」とよびますが、服用し続ける性質の薬剤ですので、医師と相談して、確認する必要があるでしょう。

 微量元素IIに属する必須ミネラルは、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、モリブデン(Mo)、セレン(Se)の5元素です。これらは、日本人の食生活では不足することはない、と考えられています。しかし、ヨウ素(I)の摂り過ぎ(過剰摂取)で問題となった事例が、日本で報告されています。
 
 ヨウ素の極めて多い「昆布」を毎日のように食べていたら、母乳を与えられていた乳児が甲状腺機能障害を発症したというものです。一つの食品「ばかり」食べていると、他の食品であっても、栄養素の不足もしくは過剰となる可能性は十分ありますので、よく考えて「ばかり」食べには注意したいものです。食事の基本は、さまざまな食品を満遍なくいただくことです。そうすれば、微量元素をはじめ、必要な栄養素を過不足なく摂れることにもなります。

筆者

東洋大学ライフイノベーション
研究所 客員研究員
医学博士 西牟田 守

自己紹介

厚生省栄養研究所(現国立健康栄養研究所)健康増進部疲労生理研究室に奉職して以来、ミネラルの必要量やヒトにおけるミネラル代謝について研究してきました。また、同時に、予防医学に特化して、「病気にならない方法」の開発についても、人を対象に、運動生理学的、栄養生理学的、及び、疲労生理学的方法を用いて研究し、生活習慣病の危険因子や予防因子とミネラルの代謝が深く関わっていることを明らかにしてきました。研究成果は、主に、英文誌J. Nutr. Sci. Vitaminol.に収載されています。

患者様とどのように接しているか

日常生活での、運動、食事、休養、睡眠を振り返り、患者さんと一緒に、改良点を探し出しています。ご自身で気がつかれたことは、改善しやすいものだと思います。「自分の健康は自分で守る」のが一番です。

経歴

東京慈恵会医科大学卒
国立栄養研究所健康増進部疲労生理研究室長
千葉県立保健医療大学教授 東洋大学教授
を経て現職

好きな言葉

温故知新(何故かを考えると発見が生まれる)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

毎日、いろいろなメニューを楽しんで、食べ続けてください。

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