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腸から見る、食事による効果的な栄養補給(田附 裕子)

効果的な栄養補給って何?

 健康を維持し、体を守るためには、栄養バランスの取れた食事が不可欠です。しかし、食事が私たちの健康に与える影響は、単に摂取した栄養素の量だけでなく、消化管からの消化・吸収も重要な要素です。

 消化管の中で、小腸は食物が消化され、栄養素が吸収される主要な場所です。小腸は三つの区分に分かれており、その中でも特に上部の十二指腸、中部の空腸、下部の回腸が栄養吸収において重要な役割を果たしています。

 十二指腸では、胃からの食物が消化された後、胆汁と膵液が分泌され、脂肪やタンパク質、糖質などの栄養素が分解されます。

 その後、空腸や回腸において、栄養素が腸壁の細胞に吸収され、血液やリンパ液に移動します。腸管壁には、細胞膜が複数の栄養素の吸収をサポートするための特殊な構造(絨毛)があります。この構造は、表面積を増やし、栄養素の吸収効率を高める役割を果たしています(図1)。

図1 正常腸管での各種栄養素の吸収部位(千葉正博ほか:臨床栄養:117(6):645-651,2010)

 今回、「腸から見る、食事による効果的な栄養補給」というテーマに焦点を当て、健康な腸内環境を促進し、栄養を最大限に吸収するための食事方法について提案します。

1.食物繊維を取り入れる

 腸内の健康は、食物繊維の摂取量に大きく影響されます。食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとして機能し、腸内のpHバランスを整えることで、消化をサポートします。

 1日に必要な食物繊維量は、年齢や性別によって異なりますが、一般的には以下のような目安があります:

・成人男性:25〜38g
・成人女性:18〜25g

 ただし、個々の健康状態や活動レベル、食生活によっても必要な量は異なる場合があります。食物繊維は消化器官の健康に重要であり、便秘の予防や体内の不要物質の排出を助けます。

 野菜、果物、穀物、豆類などの様々な食品から食物繊維を摂取することで、腸内環境を改善しましょう。食物繊維については、藤岡 由夫先生の記載された「食物繊維と腸内細菌 〜どうすればいいの?〜」をご覧ください。

2.発酵食品を取り入れる

 発酵食品には、腸内細菌のバランスを整え、消化を助ける効果があります。ヨーグルト、キムチ、麹、納豆などの発酵食品を日常の食事に取り入れることで、腸内フローラを健康な状態に保ちましょう。

例えば・・・
ヨーグルト:善玉菌である乳酸菌が含まれており、腸内環境を整える助けとなります。選ぶ際には、添加された砂糖や甘味料が少ないものを選ぶことが重要です。

キムチ:白菜、大根、キュウリなどの野菜を塩漬けにして、唐辛子の粉、にんにく、ショウガ、ネギ、塩辛などの様々な調味料を混ぜて作られる発酵食品で、植物性乳酸菌が豊富に含まれています。また、唐辛子の辛み成分である「カプサイシン」が、代謝を高めて血流を促し、体を温めることで免疫力を高める効果も期待されています。

麹:麹から作られた食品には、日本の伝統的な調味料である味噌や醤油が含まれます。ビタミンB群が豊富なだけでなく、麹に含まれるオリゴ糖が腸内環境と整え、善玉菌を増やす手助けをします。

納豆:大豆が発酵してできる食品で、日本の伝統的な食品の1つです。ビタミンK2やたんぱく質、食物繊維を含んでいます。ただし、主治医からビタミンKを含有する食品を控えることが指示されている内服をしている方は、摂取には注意してください。

3.プロバイオティクスの摂取

 プロバイオティクスは、腸内の善玉菌を増やし、消化器系の健康をサポートする役割を果たします。ヨーグルトや発酵乳製品、サプリメントなどのプロバイオティクスを摂取することで、腸内環境を改善し、栄養素の吸収を促進します。

4.バランスの取れた食事

 栄養バランスの取れた食事を心がけることも、腸内の健康に重要です。タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど、全ての栄養素をバランスよく摂取することで、腸内環境を整え、健康な体を維持します。

5.十分な水分摂取

 水分は、消化器系の正常な機能を維持するために重要です。十分な水分を摂取することで、便秘の予防や消化を助けることができます。一日に推奨される水分摂取量を意識し、水分補給を行いましょう。主治医から水分制限が必要で利尿剤などが処方されている場合は、緩下剤の併用が排便に効果的なこともあります。

まとめ

 腸内環境は、私たちの健康に直接影響を与える重要な要素です。栄養補給において、単に栄養素の摂取量だけでなく、その栄養素が腸内でどのように処理され、吸収されるかも考慮する必要があります。

 食物繊維の摂取、発酵食品の摂取、プロバイオティクスの摂取など、腸内環境を整えるための様々な方法があります。健康な腸内環境を促進し、栄養を効果的に吸収するために、バランスの取れた食事と生活習慣の見直しを行いましょう。

著者

大阪大学大学院医学系研究科
 外科学講座 小児成育外科学
准教授

大阪大学医学部附属病院
栄養マネージメント部 副部長
NST委員長
 医学博士 田附 裕子

自己紹介

 小児外科の一般診療はもちろんですが、最近は腸管不全治療センターにおいて、短腸症や腸管蠕動障害などの腸管不全の患者さんの診療に従事しています。
 将来的に小腸移植が必要な患者さんとその家族が、少しでもよいQOLで日常生活を過ごしていただけるよう多職種で腸管リハビリテーションを実践しています。

患者様とどのように接しているか

 一人として同じ患者さん・家族はないので、どの診療が適しているか、患者さん・家族と一緒の方向を向いて治療していけるように心がけています。
 また、明日、何が起きるかわからない日常において、普段は医療者や病院のことは忘れてもらってよいですが、もし困ったときに頼りにしていただければと思っています。

経歴

平成6年秋田大学医学部卒。大阪大学医学部外科学講座で外科研修を開始し、平成10年より小児外科の専従となる。大阪母子医療センター、大阪大学、兵庫医科大学、自治医科大学などでの勤務をへて、2015年から大阪大学小児成育外科に勤務。
日本外科学会・外科専門医・指導医、日本小児外科学会・小児外科専門医・指導医、日本臨床栄養代謝学会・指導医、他。

好きな言葉

感謝、合掌

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