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「微量ミネラル」の効果 (橋詰 直樹)

微量ミネラルについて

 高齢者は、経口摂取量の低下や偏った食生活により、栄養素の摂取不足によって栄養素の欠乏に至る場合があります。栄養素の中てミネラルは酸素、炭素、水素、窒素の4つを除いた他の元素を呼び、特に微量ミネラルは体内に極めて少ないものをいいます。微量ミネラルは欠乏症を来しやすく、それぞれの微量ミネラルが関与する生理作用に障害を認めます。そのため食生活において十分な補給を目指す必要があります。

鉄について

 微量ミネラルの中で一番多いミネラルは鉄です。鉄は成人の体内の中で2−4g含まれます。主に赤血球の中のヘモグロビンとして存在し、そのほかには肝臓や筋肉に貯留されます。鉄は日本人では8mg/日摂取し、欧米人では12mg/日摂取しているといわれています。鉄が腸管から吸収される量は最大で1日1mg程度ですが、鉄は能動的に排泄される機構がなく、腸管粘膜や皮膚の剥離などにより1日1mg程度が排泄され、吸収と排泄が平衡状態に保たれています。

 欠乏症では貧血やそれによる皮膚や軟部組織への酸素供給量が減少することで皮膚や軟部組織の脆弱化を招きます。鉄の多い食材は鶏肉や豚肉のレバー、貝類、根菜類があります。通常の食生活では過剰症はほとんどありませんが、サプリメントなどで過剰に長期摂取した場合に肝臓に鉄が沈着するヘモクロマトーシスとなり肝機能異常をきたす場合があります。

亜鉛について

 早期に欠乏症状を呈する微量ミネラルは亜鉛です。亜鉛は多くの酵素活性および酵素構造の維持に不可欠な微量ミネラルです。特に創傷治癒においては、DNAおよびRNAポリメラーゼ、DNA転写因子など核酸やタンパク合成に必須なミネラルです。さらに、過剰な活性酸素を消去する抗酸化酵素Zn/Cu-SOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)の構成因子としての役割を担い、生命維持に必須な生理作用を有します(図1)。

図1 微量元素の特徴と作用


 
 亜鉛は日本人では9mg/日摂取し、欧米人では8-11mg/日摂取しているといわれています。しかし、慢性肝疾患に伴う吸収障害やアルブミン合成能低下に伴う輸送低下、消化管吸収障害、その他薬剤による排泄促進などにより欠乏症状を呈します。

 欠乏症では下痢や成長発育障害、皮膚障害を認めます。亜鉛欠乏症の発症までの期間は、他の微量ミネラルが半年から1年で症状を呈するのに比べて短く、早くて14日程で症状を来す場合もあります。

 また、亜鉛は舌の味覚をつかさどる舌蕾の形成にも関与しています。舌蕾の形成不良より味覚障害が生じると、食欲が低下し、結果的に低栄養を助長してしまうのです。我々の施設においても、食欲低下を認めている患者さまや創部治癒が滞る患者さまには、積極的に亜鉛を測定し、欠乏症を認める場合は食事での摂取を推奨します。

 亜鉛の多い食材は牡蠣が有名ですが、豚肉のレバーや牛肉の赤身に含まれています。場合によって食事摂取でも上昇を認めない場合には内服薬での補充を行うこともあります。

 亜鉛も鉄と同様に通常の食生活では過剰症はほとんどありませんが、サプリメントなどで過剰に長期摂取した場合腸管からの吸収において亜鉛と銅は競合するため、過剰な亜鉛を補充すると銅欠乏症を来す場合があります。銅欠乏症では貧血、白血球減少、糖質代謝異常が認められます。 

筆者

久留米大学外科学講座
小児外科部門 助教
 
久留米大学病院
栄養治療部 副部長
医学博士 橋詰 直樹

自己紹介

 専門は小児外科で、小児や経口摂取が困難である重症心身障害者の方の外科的治療を行っています。また病院内では栄養治療部を兼任しており、小児だけではなく高齢者の栄養障害が認められる様々な疾患の方の治療をお手伝いしています。

患者様とどのように接しているか

 栄養、特に食事は味・形態・摂取方法・摂取量に至るまで患者さまによって大きく異なります。その人々にあった無理のないテーラーメードが提供できるように、多職種で関わる事をモットーとしています。

経歴

2006年高知大学医学部医学科卒。久留米大学医学部外科学講座小児外科部門にて小児外科を始める。大学病院・市中病院で経験を積んだ後、2023年より久留米大学病院栄養治療部を兼任。日本外科学会・外科専門医、日本小児外科学会・小児外科専門医、日本臨床栄養代謝学会・指導医

好きな言葉

敬天愛人 (中村正直)
God is in the details. (Ludwig Mies van der Rohe)

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

食物繊維の摂取は便通の改善のみではなく、腸内細菌叢の改善につながり、様々な疾患の予防効果が期待されています。積極的な食物繊維の摂取には効果があると思われます。