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食べて動いてサルコペニアを予防しよう!(大坂 貴史)

最近、日本人の高齢化が進んでいます

 厚生労働省が令和4年に行った調査では平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳で、男女ともに世界でトップクラスです(参考文献 1)。私の外来も平均年齢が75歳です。

 もちろん、元気で長生きであれば良いことなのですが、実際はそうではありません。平均年齢とは別に「健康寿命」という「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」という概念があるのですが、令和元年度は男性72.68歳、女性75.38歳と先ほどの健康寿命と10年近くの開きがあります(参考文献 2)。

 この約10年はいわゆる不健康である期間ということでこの期間はここ10年ほど大きく変わっていません(参考文献 2)。この10年間をどうやって短くするか、というのが元気な老後を過ごすうえで大切なテーマなのですが、それには筋肉が大きく関係していると考えられています。

筋肉があることは健康につながる

 近年、骨格筋はただ身体を動かすための運動器だけではなく、マイオカインという物質を出す内分泌臓器としての一面もあることが明らかになってきています(参考文献 3)。

 このマイオカインが動脈硬化の予防を助けたり骨粗鬆症の予防をしたりする事から私の健康を守ってくれるとされており、最近の研究では握力が少なくなると心血管病、がん、すべての原因による死亡率が高くなるとされています(参考文献 4)。

サルコペニアの予防には色々な視点が大切

 筋肉が減った状態をサルコペニアと言うのですが、前段で筋肉をできるだけ減らないようにする、つまりサルコペニアの予防が重要であるという事をお話したのですが、サルコペニアの予防には何が必要なのでしょうか?

 実はサルコペニアの原因には様々なものがあります。具体的には、栄養因子(食事量・たんぱく質・ビタミンなどの摂取不足)、生活習慣(座位時間の延長、肥満、喫煙)、体液性因子(感染症、炎症、酸化ストレス)、神経系因子(脳梗塞、神経毒、筋炎)、ホルモン因子(テストステロン、エストロゲン、成長ホルモン、インスリン)などです(参考文献 5)。

 ざっくりわけると、栄養不足・運動不足・病気の3つです。このすべてを解決しないと筋肉はどんどん減っていきますので、できるだけ色々な事に目を配っていきましょう(図1)。

図1 サルコペニアの原因



食事の量と質を見直しましょう

 まず、1つ目は食事です。年を取ると食欲が落ちると言われています。どうしても栄養素に目が行きがちですが、まず重要なのは総エネルギー量です。全体のエネルギーが足りていないと特定の栄養素だけとっても結局は筋肉にも健康にもよくありません。

 適切なエネルギー量の計算は中々ややこしいですが、一番わかり易い方法としては体重を定期的に測定し、増えていけば多い、減っていれば少ないと考える事です。

 適切なエネルギー量がわかったうえで次に栄養素として大切なものはたんぱく質です。特に高齢者では重要です。なぜなら、同じ筋肉をつくるために必要なたんぱく質の量は若い人よりも高齢者の方が多いことが知られているからです(参考文献6)。

 そんなことから、日本における摂取基準でたんぱく質の必要量は若い人は1日体重あたり0.66 gですが、65歳以上の高齢者はサルコペニアの予防のために1日体重あたり1.0 g以上が望ましいとされています(参考文献 7)。

 つまり、体重60kgであれば1日60g、1食20gのたんぱく質を目標としましょうということですね。たんぱく質を何から取るかについては牛や豚からの肉からだけでなく、大豆など植物性のたんぱく質を積極的にとることも重要です。

運動は筋トレが大切

 運動にはいろいろな種類があり、一般的な区別だと「歩く」「有酸素運動(ランニング、サイクリングなど)」「レジスタンストレーニング(筋トレ)」「座っている時間を減らす」です。これらのどの運動も健康には良いのですが、筋肉を増やすという点にとって最も良いのは筋トレです(参考文献 8)。

 実際、加齢に伴った筋肉の減少に対抗しようとするならば、日常で使用する程度の負荷では足りません。筋肉は細い繊維が束になったような構造をしています。その中でどれくらいの数の繊維が力を発揮するかで筋力が決まり、強い筋力は多くの筋繊維、弱い筋力は少ない筋繊維なのです。つまり、弱い力しか使わなければ筋肉の一部分しか使わないのです。

 筋トレをする上で、これを機会にジムに行くというのも良いと思います。ただ、中々ジムが続かないという人やあまりお金をかけたくない人には自重トレーニングという器具を使わないトレーニングがおすすめです。実際、ジムであっても自宅であってもしっかりとやれば十分筋肉は付きますが、私のおすすめはスロトレです。

 スロトレとは筋トレをゆっくりとした動作で行うというものですが、低負荷であっても高負荷と同程度の効果が得られ(参考文献 9)、関節の負担や血圧への悪影響が少ないと言われており、高齢者にはおすすめのトレーニングです。ぜひ動画で御覧ください。 


他の病気も大切

 筋肉が増えにくいときに、糖尿病、がん、甲状腺、神経疾患など様々な病気が原因の可能性があります(参考文献 5)。健康診断を受けていない方はぜひ受けていただきたいですし、筋肉が減ってきておかしいなという方はぜひ病院を受診してください。また喫煙も筋肉が減る原因になりますので、禁煙も重要です。食事と運動だけで必ずしも健康が得られるということではないということも大切です。


参考文献

1.厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html

2.厚生労働省 健康寿命の令和元年値について
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf

3.Bay ML, Pedersen BK. Muscle-Organ Crosstalk: Focus on Immunometabolism. Front Physiol.2020 Sep 9;11:567881.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33013484/

4.Van Ancum JM, et al. Muscle mass and muscle strength are associated with pre- and post-hospitalization falls in older male inpatients: a longitudinal cohort study. BMC Geriatr. 2018 May 16;18(1):116.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29769029/

5.Zembroń-Łacny A, et al. Sarcopenia: monitoring, molecular mechanisms, and physical intervention. Physiol Res. 2014;63(6):683-91.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25157651/

6.Franzke B, et al. Dietary Protein, Muscle and Physical Function in the Very Old. Nutrients. 2018 Jul 20;10(7):935.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30037048/

7.厚生労働省日本人の食事摂取基準たんぱく質
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586557.pdf

8.Grgic J, et al. Does Aerobic Training Promote the Same Skeletal Muscle Hypertrophy as Resistance Training? A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2019 Feb;49(2):233-254.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30341595/

9.Tanimoto M, et al. Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men. J Appl Physiol (1985). 2006 Apr;100(4):1150-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16339347/

筆者

綾部市立病院
内分泌・糖尿病内科 部長
医学博士 大坂 貴史

自己紹介

 闘う糖尿病内科医、運動療法の専門家。病院の外で「糖尿病で不幸になる人を減らす」活動をしています。Lumedia編集員/法人代表。ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA/居合・弓道・合気道有段者 YouTubeで健康情報紹介しています!健康は~筋肉ぅ!!!

■くろまめチャンネル / 綾部市立病院糖尿病チーム
https://www.youtube.com/c/KuromameAyabeDiabetes
■筋肉博士の健康チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCQ4UxW0jx0Keu2ZgeXrPOiQ

患者様とどのように接しているか

 糖尿病の治療目標やその方針は一人ひとり異なっています。たくさんの患者さんを診ていますが、型にハマった診療ではなく、その方々それぞれの糖尿病についてオーダーメイドで向き合っています。

経歴

H21年3月
京都府立医科大学医学部医学科卒業

H21年4月
健康会京都南病院 臨床研修医

H24年4月
京都第二赤十字病院 代謝腎臓リウマチ内科

H26年4月
京都府立医科大学 内分泌・代謝内科学 大学院生

H30年3月
京都府立医科大学 内分泌・代謝内科学 大学院 卒業

H30年4月
綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科 医長
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学講座 客員講師

H31年4月
綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科 部長

好きな言葉

Where there is a will, there is a way.
精神一到何事か成さざらん

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

どれもたんぱく質が20g以上で大変良いと思います。