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心と体が健幸になる食事(高橋 路子)

 理想的な食事・生活習慣とはどんなもの?と聞かれたら、「バランスの良い食事、良質な睡眠、適度な運動」と答えてくださる方が多いと思います。それでは「バランスのよい食事」というのは具体的にはどういうものでしょうか。

バランスの良い食事とは

 小学校の家庭科で3大栄養素とか5大栄養素について習ったのを覚えていらっしゃいますか。3大栄養素というのはエネルギー源となるタンパク質:P、脂質:F、炭水化物(糖質+食物繊維):Cのことで、そこにビタミンとミネラルを合わせて5大栄養素ですね。

 エネルギー源となる3者のバランスをPFCバランスと言って、総エネルギー量に対する比としてP:F:C=13~20:20~30:50~65が目標値となります。これは、各食材に含まれるタンパク質、脂質、炭水化物を積算せねばならず、ちょっとわかりにくいですよね。

 そこで、1日に何を、どれだけ食べたらよいかを考える際の参考になるようにと厚生労働省と農林水産省から食事バランスガイドが発行されました(1)(図1)。

図1 食事バランスガイド


 主食(中盛り150gの米飯だったら1日4杯程度)、副菜(野菜料理5皿程度)、主菜(肉・魚・卵・大豆料理から3皿程度)、牛乳・乳製品(牛乳だったら1本程度)、果物(みかんだったら2個程度)と具体的に記載されています。それでも種類がありすぎて分かりにくいという方のために、もっとシンプルに食材の割合として、主食:野菜(豆類):魚・肉・卵=6:3:1というバランス表示があります。

 この3者はそれぞれ分類方法が異なるため割合が違うように見えますが、主食に関してはすべて5~6割以上になっています。パンや麺でなく、お米をしっかり食べることで満足感や持久力が得られてパフォーマンスが上がりますし、便通にも良い効果があります。

私たちの体は食べたものでできている

 筋肉や骨や脂肪組織、髪の毛、皮膚、爪に至るまで私たちの体を構成しているものは、食べた物を消化吸収して得られたエネルギーと材料を使って体内で再合成された産物とも言えます。また、目に見えない元気、集中力、やる気、良質な睡眠なども食事や生活習慣に大きく関わっています。

 例えば、幸せホルモンと言われるセロトニンは約90%が腸内で生成されますので、腸内細菌のエサとなる食物繊維の存在は重要です。セロトニンの前駆体であるトリプトファンは、食べ物から得なければ体内で作ることができない必須アミノ酸ですが、卵、大豆、カツオ、乳製品などに多く含まれており、ビタミンBやD、鉄、亜鉛、マグネシウムなどの存在下で分泌が促進されます。また、朝ご飯にタンパク質を摂ることで13~15時間後に睡眠ホルモンのメラトニンが合成されて良質な睡眠が誘導されます。

一汁一菜のメリット

 バランスの良い食事を実現しやすいのは何といっても和食です。和食の基本は一汁三菜と思われる方が多いかも知れません。毎日一汁三菜の献立を考えるのも作るのも大変ですよね。そこで、三菜のうち二菜分を味噌汁に入れ込んだ具沢山味噌汁とタンパク質のおかずの一汁一菜(2)を定番にしてみませんか。これなら、ご飯を炊いて、具沢山味噌汁ともう一品は魚か納豆か卵などタンパク源のおかずで完成です。

 さらに言えば、ご飯を玄米や雑穀入りご飯にすれば食物繊維、ビタミン、ミネラルも摂れてまさにバランスの取れた食事になります。玄米は消化に悪いと言われることがあります。確かに硬いままだと消化しきれずに腸内に残ってしまってかえって悪いこともあるかもしれません。消化吸収しやすくするためには、よく浸水すること、そして寝かせ玄米(3)や酵素玄米と言われる方法で炊飯することをお勧めします。もちもちした食感で、食べると体が喜ぶのを実感いただけると思います。

驚きの味噌の効果

 最後に味噌について研究成果のお話をさせていただきます。味噌汁は塩分過多になるからという理由で避けている方もおられるかも知れませんが、次のような報告があります。

・発酵性大豆食品の摂取量が多いほど総死亡リスクが低下する。
・女性では納豆、味噌の摂取量が多いほど死亡リスクが低下する(4)。
・味噌を含む発酵食品は大腸炎、肝炎、肥満症を抑制する(5)。
・味噌の摂取が増加すると高血圧を抑制する(6)。

 カツオや昆布、いりこなどのお出汁をとって、いろんな野菜、キノコ、豆腐、魚や鶏肉などお好みの具材で日替わりのおいしいオリジナル具沢山味噌汁と米飯を中心とした一汁一菜の食事を試してみてください。継続することで心と体の健幸を実感いただけると思います。

参考文献
(1)厚生労働省・農林水産省 食事バランスガイドについて
(2)金村真友子 農業と経済88(4)102-108,2022
(3)荻野芳隆 寝かせ玄米生活
(4)BMJ 368:m34, 2020
(5)Life Sci 117(1):1-6,2014
(6)Hypertens Res :43(11):1757-67, 2019

筆者

神戸大学医学部附属病院
栄養管理部 部長/糖尿病・内分泌内科 特命講師 高橋 路子

自己紹介

 糖尿病外来、減量外来、栄養サポートチームを長年担当する中で、栄養管理と疾患予防の重要性を痛感しています。食を通じて心と体の健康と幸福を目指す「食健幸プロジェクト」を立ち上げて食育活動の輪を広げています。一汁一菜はその中でもおすすめしています。

患者様とどのように接しているか

 信頼関係を構築して患者さんご自身から能動的な言動を引き出すことで行動変容に繋がるようにサポートさせていただきます。

ご経歴と現職

1994年
 神戸大学医学部医学科卒業
1994年
 神戸大学医学部附属病院第三内科研修医
1995年
 淀川キリスト病院内科
1997年
 神戸大学医学部附属病院第三内科医員
2007年
 兵庫県広域防災センター消防学校救急救命士養成所副所長
2011年
 育児・介護復職者短時間勤務非常勤医員
2013年
 神戸大学医学部附属病院栄養管理部副部長・糖尿病・
 内分泌内科特命助教
2014年
 同 特命講師 2019年 同 栄養管理部部長 現在に至る

好きな言葉

人は人によって人となる

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

PFCバランスは18:30:52とまさに理想的。メニューも工夫されているので毎日の食事におすすめです。