脂肪肝を改善「地中海食」と肝硬変の栄養療法(白木 亮)
脂肪肝とは
脂肪肝という言葉、聞いたことがある人は多いでしょう。脂肪肝とは『余分な糖質や脂質が中性脂肪に変わり、肝臓に蓄積された状態』のことをいいます。生活習慣の乱れ(食べ過ぎ、運動不足など)によって発症することが多いですが、アルコールによって脂肪肝になる場合、あるいはその両方によって発症することもあります。
日本では脂肪肝の方が非常に多く、約 2000 万人と推定されており増加しています。脂肪肝には実は様々な状態があり、例えば脂肪が蓄積しただけの状態は「単純性脂肪肝」、肝炎を伴う状態は「脂肪肝炎」と言い、これらをまとめて「脂肪性肝疾患」と呼びます。
脂肪肝がもたらす健康障害
脂肪性肝疾患は様々な健康障害をもたらします。一つ目は、肝臓の炎症や線維化によって肝硬変や肝がんを発症する危険性です。実際、脂肪性肝疾患を原因とする肝硬変・肝がんは増加傾向です(図1)。
二つ目は、メタボリック症候群を伴うことが多く、日本人の死因の上位を占める脳梗塞や心筋梗塞が増加する危険性です。近年、脂肪性肝疾患自体が梗塞の原因となる動脈硬化の危険因子であるという報告もなされています。
三つ目は、肝外悪性腫瘍、特に大腸がんや女性における乳がんの発症頻度が増加することが報告されています。脂肪性肝疾患では、消化器がん(食道、胃、膵、大腸)のリスクが1.5〜2倍高まり、肺がん、乳がん、婦人科がんや泌尿器科がんのリスクが1.2〜1.5倍高まると報告されています。さらにこれらのリスクは、年齢、性、喫煙、肥満や糖尿病など他のリスク因子とは独立していると報告されています。
低エネルギー食と地中海食
脂肪性肝疾患の治療において、生活習慣の改善、特に食事療法は最も重要となります。肥満を伴う脂肪肝の方は、減量するだけで脂肪肝が改善します。実際、5%の体重減少で、肝臓にある脂肪の沈着率が低下し、7%の体重減少で肝臓の炎症が改善し、10%の体重減少で肝臓の線維化も改善すると報告されています。具体的な食事としては、『低エネルギー食』です。通常のエネルギーよりも約30%低下させたエネルギー制限食が様々なガイドライン等で推奨されています。
最近の米国消化器病学会では、エネルギーを1200〜1500kcal/日制限、あるいは現状から500〜1000kcal/日減らすことが有用であると報告されています。またそのエネルギーの割合は、炭水化物50〜60%、脂質20〜25%と脂質が制限されることが多いです。
地中海食に代表されるように、低炭水化物に加えて不飽和脂肪酸を摂取することで肝の脂肪化が改善することが報告されています。なお、地中海食とは、ギリシャ、イタリア、スペイン、モロッコなどの地中海沿岸の国々で食されている伝統的な食事様式のことです。厳密な決まりごとはありませんが、野菜、果物、全粒雑穀類、豆類、種実類、ハーブ、スパイスなどの食品とオリーブオイルを豊富に摂取し、適量のワインとともに頂く食事です。
肝硬変とサルコペニア
一方、肝硬変まで進展した場合は、サルコペニア(骨格筋量や筋力の低下)を合併することが多く、通常の肝硬変の栄養療法と同様に十分なエネルギーとたんぱく質(分岐鎖アミノ酸を含むアミノ酸)の摂取が重要となります。特にたんぱく質摂取については、栄養障害のない代償性肝硬変患者の場合は 1.2g/kg(実体重)/日、栄養障害やサルコペニアを合併する肝硬変患者の場合は 1.2g~1.5g/kg(実体重)/日を摂取する必要があるとされています。
慢性肝疾患においてサルコペニアの合併は、肝機能や肝がんの合併とは独立した予後因子であり、食事や運動による介入が重要となります。さらに近年、脂肪性肝疾患を専門とする本邦の専門医より、生活習慣について10のアドバイスが報告されています(表1)。
筆者
自己紹介
消化器内科医、内科医として岐阜県関市にあるJA岐阜県厚生連中濃厚生病院に勤務しております。また消化器疾患は、食事の消化・吸収の臓器ですので栄養と深い関わりがあり、臨床栄養も専門としています。
患者様とどのように接しているか
特定の臓器や疾患に限定せず、患者さんの心情や社会的側面なども含めて幅広く考慮しながら、個々人に合った総合的な疾病予防や診断・治療を行う全人的医療を心がけています。
経歴
好きな言葉
Stay hungry. Stay foolish.
ハングリーであれ。そして、愚か者であれ。
Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)
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