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低栄養・フレイル・サルコペニアの予防に役立つリハビリテーション栄養(若林 秀隆)

フレイル・サルコペニアとは

 フレイルとは、生活機能が健常ではないが要介護状態やねたきりでもないという中間の状態です。歩行やトイレといった身の回りの動作は自分でできますが、家事の一部や仕事には介助が必要な状態です。フレイルの主な原因は、サルコペニア、低栄養、ポリファーマシー(2種類以上の薬剤を服用していて何らかの薬剤による悪影響がある状態で、5-6種類以上の薬剤を服用していると副作用が生じやすいです)です。

 サルコペニアとは、加齢などの影響で筋肉量や筋力、身体機能が低下して、けがや病気になりやすい状態です。サルコペニアは手足や体幹の筋肉だけでなく、飲み込みや呼吸にかかわる筋肉にも生じます。サルコペニアの主な原因は、加齢、低活動、低栄養、疾患です。フレイル、サルコペニアとも、原因の1つに低栄養がありますので、栄養対策がとても大事です。一方、肥満のためにフレイル、サルコペニアになる方もいます。この場合には、できるだけ筋肉を保ちながら脂肪を減らしてやせることが重要です。

フレイルの診断

 フレイルの診断には、改訂J-CHS基準を用います(表1)。体重、筋力、易疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち、3項目以上に該当すればフレイルと判定します。1-2項目に該当すればプレフレイル(フレイルの前段階)、該当項目なしであれば健常と判定します。

表1 改訂J-CHS基準



サルコペニアの診断

 サルコペニアの診断には、2019年にアジアのワーキンググループによって発表された『AWGS2019』を用います。筋肉量低下を認め、筋力低下もしくは身体機能低下を認める場合にサルコペニアと診断します。筋肉量低下の目安は、下腿周囲長です。下腿周囲長は、ふくらはぎで最も太い場所の周径をメジャーで計測します。下腿周囲長が男性34cm未満,女性33cm未満の場合に、筋肉量低下が疑われますので、筋力と身体機能を評価します。

 筋力は、握力で評価します。男性で28kg未満、女性で18kg未満であれば「筋力低下あり」と判定します。身体機能は、5回椅子立ち上がりテストで評価します。高さ40cm前後の椅子を使用して、座位から直立位を経て座位に戻ることを繰り返して、5回目の直立位になるまでに要する時間を評価します。12秒以上であれば「身体機能低下あり」と判定します。筋力低下もしくは身体機能低下を認めた場合には、サルコペニアの可能性と判定します。

サルコペニア対策の栄養

 まずはたんぱく質、必須アミノ酸(特に分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン)を十分に摂取することが重要です。少なくとも体重1kgあたり1g以上、できれば1.2-1.5g程度摂取するとよいです。ただし、慢性腎不全があって人工透析を行っていない場合には、たんぱく質制限が必要ですので主治医に確認してください。

 また、できるだけ多くの種類の食品を摂取することも重要です。魚・油・肉・牛乳・野菜・海藻・いも・卵・大豆・果物の10品目のうち、7品目以上をほぼ毎日摂取することが望ましいです。10品目の頭文字をつなげて「さあにぎやかにいただく」(かな、ぶら、く、ゅうにゅう、さい、いそう、も、まご、いず、だもの)と憶えましょう(図1)。

図1 さあにぎやかにいただく

リハビリテーション栄養

 リハビリテーション栄養とは、生活機能やパフォーマンスをできるだけ高めるリハビリテーションや運動と栄養を併用することです。栄養を考えないで運動のみ頑張ったり、運動をしないで栄養のみ頑張ったりでは逆効果となることがあります。十分なエネルギーやたんぱく質を摂取しないで運動だけ頑張ると、エネルギーバランスがよりマイナスになりますので、体重や筋肉が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養だけ頑張って運動をしないと、筋肉ではなく脂肪だけが増えて、肥満で動きにくい体になってしまいます。リハビリテーション栄養の視点で、運動と栄養を同時に取り組むことが大切です。

 生活機能やパフォーマンスを高めるためのベスト体重を目指すことが重要です。ベスト体重が決まれば、体重増減を目指します。理論的には7500kcal、エネルギーバランスをプラスマイナスすることで1kgの体重増減が得られます。そのため、1か月で1kg体重を増減させたい場合には、今までの食事から1日250kcal程度エネルギー摂取量を増減します(250kcal×30日=7500kcal)。ただし、体重減少を目指す場合には、たんぱく質の摂取量を減らさないことが重要です。

筆者

東京女子医科大学病院
リハビリテーション科
医学博士 若林 秀隆

自己紹介

 生活機能が低下している方のくらしをよりよくするために、リハビリテーション科医師として働いています。理学療法、作業療法、言語聴覚療法といったセラピーは大切ですが、「栄養ケアなくしてリハビリテーションなし」「栄養はリハビリテーションのバイタルサイン」であることを、リハビリテーション栄養を通じて広めています。病院などで作られる医原性の低栄養・フレイル・サルコペニアを予防することにも力を入れています。

患者さんとどのように接しているか

 本人が自分自身でベストと考える体重をまず確認します。そのうえでその体重が生活機能を高めるために適当な場合には、一緒にその体重を目指します。適当でない場合には、多職種で本人との話し合いを行い、共有できる体重のゴールを模索します。

経歴

 平成7年横浜市立大学医学部卒業。平成28年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科などでの勤務を経て、令和2年6月~東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授。令和3年5月東京女子医科大学大学院医学研究科リハビリテーション科学分野基幹分野長。現在に至る。

好きな言葉

 No venture, no glory

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

 たんぱく質摂取は大事ですが、筋力トレーニングなど運動とセットで活用することが大事です。人工透析をしていない慢性腎不全の方は、主治医と確認の上、活用してください。