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「脂」と「糖」と上手くつき合おう(栁内 秀勝)        

 脂肪や糖を過剰に摂取することは、肥満・メタボリックシンドロームに始まり、高血圧、糖尿病、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患などを誘発します。しかしながら、「脂質」や「糖」の摂取を極端に控えるとことも健康被害の原因となります。

極端な脂質摂取制限のデメリット

 コレステロールは、細胞膜の構成成分の1つであり、細胞の健全性に不可欠な物質です。また、コレステロールは、神経細胞の軸索を包み保護しているミエリン鞘にも存在します。そして、ステロイドホルモンと呼ばれるホルモンは、副腎皮質、精巣、卵巣、胎盤でコレステロールから作られます。

 このようにコレステロールは、私たちが生きていく上で不可欠な物質です。そのため、成長期等に極端な脂質の摂取制限を行うと、成長不良や肌・皮膚の異常、神経伝達機能の障害を生じる可能性があります。 また、脂質は、脂溶性ビタミンであるビタミンA、D、E、Kの運搬を行っているため、極端な脂質摂取制限は、これらのビタミン欠乏を引き起こします。

極端な糖質摂取制限のデメリット

 脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖であるため、極端な糖質制限は、低血糖による頭痛や眠気の原因になります。極端な糖質制限は、エネルギー基質として脂肪がより多く利用されるため、脂肪酸代謝が活性化され、多くのケトン体が生成されます。そして、そのケトン体の増加が著しい場合、ケトアシドーシスという致死的な代謝性アシドーシスを発症します。

 糖尿病のないヒトにケトアシドーシスが発症することは稀ですが、1日80kcal以下の糖質制限食により糖尿病のない肥満者にケトアシドーシスが発症したという報告があります。また、極端な糖質制限は、糖を新たに作るために、より多くのタンパク質が利用されるため、筋肉のタンパク質が分解され筋肉量低下を招きます。

上手な脂質摂取のススメ

 脂質といっても種類があり摂取を控えた方が良い脂質とそうでない脂質があります。以前、デンマークの研究者がデンマーク人と北極圏に住むエスキモーの疫学調査をしたところ、エスキモーにおける急性心筋梗塞や糖尿病の発症が、デンマーク人に比べ著しく低いことを発見しました(図1)。

 その理由を明らかにするために食事の調査をしたところ、エスキモーがデンマーク人に比べより多くのEPA・DHAを摂取していることが明らかになり、EPA・DHAに動脈硬化や糖尿病を予防する効果があることが考えられました。そして、その後の研究で、EPA・DHAを摂取することで、糖尿病や心臓病を発症する危険性が低下することが認められました。

図1 デンマーク人およびエスキモーにおける急性心筋梗塞・糖尿病発症の相違と食事中に含まれるEPA,DHAの割合の相違

 食事に含まれる脂肪で注意すべきものは、摂取を控える方が良い飽和脂肪酸・トランス脂肪酸、摂取をすすめる多価不飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸です(図2)。飽和脂肪酸の過剰摂取は血液中の中性脂肪やコレステロールを増加させます。また、マーガリンなどに多く含まれるトランス脂肪酸は炎症を惹起したり、インスリン抵抗性を悪化させたりすることが知られてます。

 先ほど説明したEPA・DHAは魚に多く含まれる脂肪酸で多価不飽和脂肪酸のオメガ3脂肪酸に分類され、摂取がすすめられる脂肪酸です。動脈硬化性疾患予防ガイドラン(2022年版)に、「適正な総エネルギー摂取量のもとで飽和脂肪酸を減らすこと、または飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置換することは血清脂質の改善に有効であり、冠動脈疾患発症の予防のために推奨する。(推奨レベルA)」、「適正な総エネルギー摂取量のもとで、血清脂質の改善を目的に、飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸に置換することを推奨する。(推奨レベルA)」と記載されています。

図2 摂取を控える方が良い脂肪酸と摂取をすすめる脂肪酸

上手な糖質摂取のススメ

 食後血糖値の上昇を抑えることによって、肥満をはじめとした生活習慣病への連鎖を上流で食い止めることができると考えられています。食品には食後血糖値が上昇しやすい食品とそうでない食品があります。食後血糖値の上昇を示す指標として、グリセミックインデックス(Glycemic Index, GI)が用いられています。最も体に吸収されやすく食後血糖を上昇させやすいブドウ糖を100とし、GI値70以上が高GI食品、GI56~69が中GI食品、GI55以下が低GI食品とされています(図3)。

 例えば、主食の白米を雑穀米に替えたり、食パンをライムギパンなどに替えることにより食後の血糖値の上昇を緩やかにすることが出来ます。私の糖尿病の患者さんに間食で食べていた菓子パンを高カカオチョコレートに替えるよう薦めて実行してもらった結果、1カ月で約1.5㎏体重が減少しました。

図3 高・中・低GI食

自己紹介

 糖尿病専門医として、多くの糖尿病患者さんの診療にあたっています。また、自分の施設の指導医として、週1回、糖尿病カンファレンスを開催し入院患者について若い先生達とディスカッションして楽しい時間を過ごしています。私たちの施設は千葉県内で千葉大学に次いで2番目に多くの糖尿病専門医を擁しており、治療困難な糖尿病患者さんの診療を得意としています。私はお酒が大好きで、お酒を飲みながら友人や部下達と糖尿病や動脈硬化の研究について話す時が至福の時です。

患者さんとどのように接しているか

 患者さんの話をよく聞いて、その人の日常生活やキャラクターなどから実行可能性が高いと考えられる治療法を選択するようにしています。運動習慣が無いような人なら、通勤の時に一駅前で降りて歩いてみたらどうでしょう?とか、間食がやめたいけどやめられないような人ならアーモンドチョコや高カカオチョコレートを薦めてみたりします。そして、体重や血糖値に効果が表れてくると患者さん自ら積極的に運動したり間食をやめたりすることをよく経験します。

経歴


好きな言葉

明るく、楽しく、魅力的に

ミールタイム パワーアップ食の活用方法

魅力的な高蛋白質なおかずが選べるので肥満の方の食生活改善に役立つ可能性があります