身体を動かして、たんぱく質をしっかり摂り、認知症と要介護を防ぎましょう (降矢 芳子)
「筋肉は、体を動かすためのもの」と思っていませんか。
実は最近の研究では、筋肉はそれだけではなく、全身の健康を支える大切な「臓器」であることがわかってきました。筋肉は血糖値や脂肪の代謝を調節し、体を病気から守る働きを助けるだけでなく、脳にも良い影響を与えています。つまり、筋肉を元気に保つことは、体だけでなく脳の健康を守ることにもつながるのです。
年齢を重ねると、「足腰が弱くなった」「疲れやすくなった」「物忘れが増えた」と感じる方が多くなります。実は、筋肉の衰えと認知機能の低下には深い関係があることが、近年の研究で明らかになっています。筋肉を保つことは、転倒や寝たきりを防ぐだけでなく、認知症の予防にも役立つと期待されています。
加齢とともに筋肉量は少しずつ減少し、特に太ももなど下半身の筋肉が衰えやすくなります。筋肉が減ると歩く力や立ち上がる力が弱くなり、転倒や骨折の危険が高まります。また、活動量が減ることでさらに筋肉が減るという悪循環に陥り、要介護につながることも少なくありません。病気や入院で寝ている時間が長くなるだけでも筋力は低下するため、できるだけ早く体を動かし始めることが大切です。(図1)

筋肉からは「マイオカイン」と呼ばれるさまざまな物質が分泌され、血管や脂肪組織、そして脳にも働きかけています。運動をすると脳の血流が増え、記憶をつかさどる海馬や、考える力や判断力を担う前頭葉が活性化されます。このため、適度な運動は認知症の予防にも役立つと考えられています。
筋肉を保つためには、「運動」と「栄養」の両方が欠かせません。ウォーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることがおすすめです。全身の筋肉の約6~7割は下半身にあるため、スクワットや椅子からの立ち座り運動、かかとの上げ下げなどを続けるだけでも十分な効果が期待できます。重い器具を使う必要はなく、自分の体力に合わせて無理なく続けることが大切です。(図2)

食事では、筋肉の材料となるたんぱく質を毎食しっかり摂りましょう。肉、魚、卵、大豆製品、牛乳やヨーグルトなどを毎日の食事に取り入れることがおすすめです。また、筋肉は運動をすると新しく作られやすい状態になり、その働きは約24時間続きます。特に運動後45分程度は筋肉づくりが活発になるため、この時間にたんぱく質を補給すると、筋肉づくりをより効果的に助けることができます。
さらに、歩きながらしりとりや計算をするなど、体と頭を同時に使う「デュアルタスク運動」もおすすめです。体だけでなく脳も一緒に働かせることで、注意力や記憶力、判断力の維持につながることが期待されています。
【今日からできる3つのポイント】
① 毎日20~30分歩きましょう。
少し息が弾むくらいの速さで歩くと、筋肉と脳の両方によい刺激になります。
② スクワットを10回、2~3セット(もしくは椅子からの立ち座り運動を10回6セット)行いましょう (図3)。
椅子からの立ち座り運動でも十分です。足腰を鍛えることは、転倒予防や要介護予防につながります。

③ 毎食たんぱく質を摂り、運動後はできれば45分以内に補給しましょう。
肉、魚、卵、大豆製品、牛乳、ヨーグルトなどを毎食取り入れましょう。運動後のたんぱく質補給は、筋肉づくりをより効果的にしてくれます。
筋肉は何歳からでも鍛えることができます。そして、筋肉を鍛えることは、脳を元気にすることにもつながります。筋肉は、人生100年時代を元気に生きるための『貯金』です。何歳からでも筋肉は応えてくれます。今日から一歩踏み出し、『歩く』『筋肉を鍛える』『たんぱく質をしっかり食べる』ことを習慣にして、いつまでも自分らしく、笑顔で元気に暮らしていきましょう。
筆者

リハビリテーション科
医学博士 降矢 芳子
自己紹介
神経内科医としては、認知症や神経変性疾患を専門としてきましたが、今まさに非薬物療法としての運動療法が注目され求められているのではないかと思います。運動療法の効果を得るためには充分な栄養を摂ることが重要です。栄養を取り身体を動かすことが、多くの病気に共通した「薬」であると確信しています!
患者さんとどのように接しているか
若いころ、先輩医師から「患者さんこそが最大で最良の先生、教科書です」と言われ、患者さんの声を聴き、患者さんから多くの事を教えられ、学び、現在に至っています。患者さんからお話を伺うことが、私の医師としての仕事に繋がっています。
経歴
昭和61年 東京女子医科大学医学部卒業。平成2年 東京女子医科大学脳神経センター内科大学院卒業。東京都精神医学総合研究所、奈良県立医科大学神経内科、社会医療法人 平成記念病院 リハビリテーションセンターなどでの勤務を経て、令和元年から東京女子医科大学附属足立医療センター リハビリテーション科 教授。日本リハビリテーション医学会代議員、指導医、専門医 日本神経学会代議員、指導医、専門医。
好きな言葉
実るほど こうべを垂れる 稲穂かな (…黄金色の田んぼに風が吹き渡るのを見るのが好きです)
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
「この年でこそお肉でパワーですよ」と実母にも義父母にも言い、一緒にお肉を食べてきました。沢山の品数で1人分のおかずを作るのは大変ですが、パワーアップ食はそんな時の強い味方になりそうです!













