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在宅医療で大切な「食力」(中西 陽一 )

栄養が幸せのちからになる

 在宅医療では様々な患者さんがいらっしゃいます。通院が困難となってしまっている患者さんが中心となるので、外出ができないことはもちろん自宅内での生活にも苦労していることが多いです。そのような患者さんに医療サービスを通じて生活をより良きものにしていくことのお手伝いをするのが、訪問診療の役割です。

 その中で栄養については大変重要なのですが、病院のように直接食事を提供するわけにはいかず、栄養剤なども購入してもらわないと提供することはできません。関わっている医療・介護スタッフはもちろんのことですが、まず患者さんやご家族等に栄養の大切さを理解してもらわなければなりません。

 コロナ禍前には、東口髙志先生を中心としたWAVES Japanの活動が患者だけでなく市民に栄養の大切さを知ってもらう活動をしていました。私も犬飼道雄先生(2023年6月14日参照)や吉田貞夫先生(2023年6月28日参照)達をはじめ全国の医療者と北海道から沖縄までその活動を行ってきました。

 コロナ禍で活動が難しくなってしまいましたが、今後その活動がまた行えるように準備を進めていきたいと考えています。WAVES Japanの根底にあったものが「栄養が幸せの力になる」ということで、その中で最も重要なことが「食力」です。

食力とは?

 「元気に食べてますか?」これが食力のキーワードです。食力は東口先生が提唱された栄養摂取の総合力で、食べる力であることはもちろんのこと、食事ということに対する考え方も関わってきます。

 それは①食欲と食の満足②食事の環境③口腔内環境④嚥下・摂食機能⑤筋肉量と身体機能⑥消化管機能⑦排便習慣⑧食べられなくなったらどうするか、ということで構成されます。これはフレイル・サルコペニア対策には大変重要なものと考えられます。在宅医療での栄養管理はこれらのことを患者さん・ご家族等に理解していただくことから始まります。(図1)

図1 食力とは?(WAVES Japan テキストより引用)


食欲と食の満足

 元気に食べているためには「食べたいな」「おいしかったな」と思えることが必要になります。在宅医療では住み慣れた場所で医療サービスを受けられるようにしていますが、家で生活しているということは食べたいと思うものを食べることが出来るという環境です。

 そのため自宅は食の満足については病院より優れた場所であると考えられます。ただ、フレイル・サルコペニア対策にはたんぱく質をしっかり摂取していることが大切です。肉・魚・卵などたんぱく質の含まれている食事をおいしく食べていることが必要です。

食事の環境

 誰と食事をするか、誰が食事を準備するかということも重要なことです。食事を自宅で準備できない場合等では、コンビニエンスストアやスーパーまでの距離も重要になります。当クリニックの栄養指導では、栄養士と一緒にコンビニエンスストア等に行き、実際のお弁当や食材を見ながら行う場合もあります。

口腔内環境

 食べられる口であることも重要です。口の中が乾燥していたり、歯がなかったりしていたら元気に食べることはできません。口の中のケアを誰が行うかも重要です。口の中の環境のチェックには、訪問歯科診療や訪問リハビリテーションを利用することも出来ます。

嚥下・摂食機能

 当然食べる機能がなければなりません。嚙む力や飲み込む力を維持することが必要になります。これらの力が落ちた時に、どのようなものなら食べられるかを考えることになります。病院やクリニックでは訪問栄養指導を行っているところもあるので、在宅医療の現場でも患者さん・ご家族等と一緒に考えていくことが出来ます。

筋肉量と身体機能

 筋肉量を保つことで身体機能を保っていきます。適度な運動習慣や訪問リハビリテーションの利用、デイサービスなどで運動をすることが必要になります。

消化管機能

 腸管の消化・吸収機能が十分でなければ、たとえ食べられていても栄養にはなりません。十分食べているのに瘦せてしまう時などには消化管のどこかに病気がないかチェックすることをおすすめします。在宅医療では採血や超音波検査などを行うことが出来ます。

排便習慣

 下痢や便秘を繰り返していると食欲が低下してしまう場合が多いです。そのような場合でも、適切に整腸剤や便秘薬を使うことで、元気に食べられるようになっていきます。

食べられなくなったらどうするか

 病気や老衰によって食べられなくなってしまう場合があります。そのような時にどうするか、これを食べられている時から考えておくことで、実際にそうなったときに、その人らしく生活していくことが出来ます。

病気になった時に

 食力があることは、栄養状態が保たれていることになり、病気のあと回復することが出来るようになります。栄養状態が保たれていなかったら、病気から回復できない、回復しても元の生活にもどれないことになっていきます。(図2)

図2 低栄養のリスク(WAVES Japan テキストより引用)


おわりに

 在宅医療では病気について考えることも多いですが、患者さんの生活、介護しているご家族等の生活についても考えていくことになります。病院に通うことが難しくなってしまっても在宅医療を導入することで、元気な生活を送っていただくことが出来ます。


筆者

戸田中央トータルケア
クリニック
 院長
医学博士 中西 陽一

自己紹介

 在宅医療を専門とするクリニックに勤務しています。その前は消化器外科医で、術後早期回復のために栄養療法を行うようになりました。術前から低栄養であったために、術後、元の生活に戻れなくなった患者さんも経験することがありました。これは手術したから、病気になったから、元の生活に戻れなくなったのではなく、そのような栄養状態であったこと、それにかかりつけ医も含めて周りが気付いていなかったことが原因だと思います。
 WAVES Japanでは病気になる前の一般市民に栄養の大切さを知ってもらい、そのような状態になる患者さんがいなくなることを理想として活動していました。

患者様とどのように接しているか

 患者さんにその人らしく、暮らしたい場所で、安心して生活して頂けるように接していくように努めています。そのためにどんなに小さなことでも気軽にお話して頂けるように診察の雰囲気作りを心掛けています。

経歴

平成10年杏林大学卒業
東京大学付属病院外科で研修後、日立製作所日立総合病院、多摩老人医療センター(現多摩北部医療センター)、公立昭和病院を経て佐々総合病院外科で勤務
2017年より佐々総合病院 副院長
2019年より在宅診療部を立ち上げ部長を兼任、外科医の傍ら急性期病院と在宅医療を繋げることを目標に訪問診療医としてデビュー
2022年在宅専門診療所 戸田中央トータルケアクリニック院長

好きな言葉

夢なき者に成功なし


ミールタイム パワーアップ食の活用方法

しっかりと食べているつもりでもたんぱく質不足となってしまう場合も多いです。パワーアップ食はそれを解消してくれる食事だと思います。