『フレイルこそ漢方薬のターゲット:薬食同源』(坂元 隆一)
【漢方薬と西洋薬の違い】
漢方薬は病気の症状を抑えるというよりも、自然治癒力を高めるという概念のもとに服用されています。
また、西洋薬は、一つの病気しか治せませんが、生薬の足し算で構成される漢方薬では、一つの薬が多くの症状を改善します。例えば、「葛根湯」であれば、風邪以外にも筋肉痛や肩こりなどに活用されることがあります。また、入院中に便秘で悩むご高齢の方に麻子仁丸を処方すると、便秘も治ったけど、肌がつやつやしてきて、よかったと、退院時に話される方も多いです。それは、麻子仁丸に含まれる大黄という生薬が瀉下作用だけでなく、消炎・鎮痛・抗炎症・駆瘀血作用などがあるため、麻子仁丸のような大黄含有漢方薬で便通を整えると、いろいろな症状が軽快する訳です(表1)。また、下剤の主薬・大黄以外に脇役(麻子仁・枳実・杏仁・厚朴・芍薬)がたくさん揃っているので広範な訴えが改善するのです。

【漢方薬による治療では自然治癒力を高める】
漢方薬とは、自然界にある植物や鉱石といった素材で作られた生薬を、一定の割合で配合した薬です。これらを使った漢方治療は、「自然治癒力、病気に対する抵抗力・免疫力を引き出す」ことに主眼をおいています。つまり、漢方治療とは、西洋医学のように細菌やウィルスを直接殺すことを目的にするのではなく、自然治癒力を向上させ、菌などに対抗できる身体を作ることが治療目標です。
例えば、インフルエンザが流行している時期に、補中益気湯という漢方薬を処方することがありますが、これには免疫力を高める朝鮮人参や黄耆といった生薬が含まれています(参耆剤:表2を参照)。特定のウィルスを消滅させるのではなく、体内の免疫力を高めることで、ウィルスに抵抗し、感染しにくくするのです。

【漢方薬が効く仕組】
漢方薬は複数の生薬を配合(生薬の足し算)しており、先述の補中益気湯(別名、医王湯)は、10種類の生薬で構成されています。生薬には、それぞれの特性、作用、副作用があります。作用を強める生薬や、毒性や副作用を弱める生薬など、複数の生薬を配合することによって、生薬を単体で用いるときより効果が高まり、より安全な薬剤になるように配合されています。この「配合の法則」は、二千年以上の長きにわたる臨床経験を通して発見されてきたもので、副作用の少ない、有効な漢方薬のみが残り、現在使用されています。

【漢方治療のポイントは漢方薬と養生】
せっかく漢方薬を処方されても、生薬の薬効を吸収する消化器官の働きが低下していると、その効果を身体に十分取り込むことができません。漢方薬を服用する際には、同時に「漢方薬が効く環境作り」を心がけることが肝要です。
暴飲暴食、偏食(同じものばかり食べる)、冷たいものを摂り過ぎるといった行為を避け、常日頃、胃腸がベストな状態で働くように食養生を心がける必要があります。また、日常生活における養生(休養、運動、睡眠)によって、気・血・水のバランスを整えることも重要です。
【薬食同源:食養生の基本】
「体のバランスを食事で整える=食養生」
東洋医学が意味する病気とは、「人間が本来あるべき状態(=健康)」に対して、バランスが崩れていることを意味します。バランスの傾きが軽いものは、「体質的に偏った状態」とし、この段階なら食養生などにより、その偏りを立て直すことができます。一方、この傾きが許容範囲を超えると、食養生よりも効果が強い薬物(漢方薬)治療といった医療的な手段によって、健康な状態に引き戻すことが必要になります。このように、病気を治療するための「薬物」と、体質を改善する「食品」とは、同じ発想で選ばれており、作用が穏やかなものが食品、作用が強く治療効果が高いものが薬物(漢方薬)に用いられています。これが「薬食同源」の意味であり、食養生の基本的な考え方です。
【食養生を行うための3つのステップ】
①自分の体質を知ること
食養生では自分の体質、特に「寒熱」「虚実」を知ることが大切です。例えば、「寒熱」(寒証、熱証)の熱証タイプの人には、体を冷やす涼性食品が向いていますが、寒証タイプの人が食べると冷えが悪化してしまいます。同様に、「虚実」(虚証、実証)の把握も大切なポイントです。
②季節と人体との調和
乾燥する秋は潤わせる食品、寒い冬には体を温める食品というように、四季の陰陽変化に調和させることで、体のバランスが整います。
③食品の性質を知ること
食品には生薬同様、五味・五性の性質があります。冷えには温める食品を摂るなど、食品の特性を知ることで、体調を整えることか可能です。以上のポイントを踏まえたうえで、地元で採れた旬の食材をバランスよく、腹八分目で食べることも大切です。
【フレイルこそ漢方のターゲット】
日常のさまざまな不調に対して、漢方薬が著効することを多数経験します。そのうちの一つ、疲労、倦怠感は、全身の気が不足した「気虚」の状態にあると考えます。気を補う治療をして、脾や胃、腎に効くケアを行います。
気虚タイプ
慢性的な疲労とともに、胃腸症状がみられる状態で、慢性疲労で最も多いのは、気が不足した「気虚」によるものです。胃腸の消化吸収の不調により、活動のエネルギー源が作れなくなることで、肉体的な疲労や倦怠感が生じます。まずは、補剤と呼ばれる気を補う処方が適応です。気虚に対しては、補中益気湯(別名、医王湯)がファーストチョイスです。脾の働きを補う黄耆、気を補う朝鮮人参を含有する参耆剤です。筆者も外科医時代、当直明けで疲れたときに飲むと、元気になって、手術に臨んでいました。血のもつ滋潤(皮膚を潤わせ、栄養を補給する)作用が不足するため、皮膚が乾燥しやすい血虚もある「気血両虚」の場合のフレイルに対するファーストチョイスは人参養栄湯です。病後など極端に体力がない場合は、滋養強壮効果が高い十全大補湯が選択肢となります。胃腸の働きを活発にする食材として、消化酵素を含み、胃にやさしい山芋や長芋が推奨されます。生薬でもあるナツメ(棗の実を乾燥させたものが生薬の大棗)は、消化器官の働きを補う作用があり、緊張の緩和・鎮静・滋養強壮に効果的です。
腎虚タイプ
中高年で、腰痛や下半身の脱力感、下肢痛、排尿障害、夜間の頻尿などが現れる際は、加齢による腎の働きの低下(腎虚)による疲労と考えられ、腎の働きを補助する処方、すなわち、八味地黄丸や牛車腎気丸が効果的です。腎虚には、腎の働きを強化する食材、すなわち、コラーゲンを多く含む牛すじが効果的です。他、イカやウナギも腎の働きを高めます。
気滞タイプ
肉体的な疲れだけでなく、無気力、抑うつ感、不眠など精神症状がみられる疲れには、体内で気が滞っている状態(気滞)と考え、気を巡らせる漢方薬を処方します。具体的には、胃腸が弱い人には香蘇散、問題がなければ加味帰脾湯が代表的な処方薬です。滞った気の巡りをスムーズにする食材として、柑橘類や香味野菜など香りの強い食材も効果的です。気の流れをつかさどる肝を補う酸味の食材(梅干しや黒酢など)も気が晴れて効果があります。
【最後に】
慢性疲労には、甲状腺や糖尿病などの疾患が隠れていることもあり、症状が長く続くときは、病院での診察が推奨されます。また、近年、高齢化が進み、慢性心不全で利尿薬の投与を受けておられる方々には、利尿薬の副作用で低カリウム血症がみられることが多く、在宅医によるカリウムの補正がなされていない場合には、脱力感、筋力低下、こわばり、不整脈などの症状がみられることがあり、果物などのカリウムを多く含む食材の摂取が推奨されます。
漢方薬にも副作用があり、偽アルドステロン症に注意が必要です。甘草という生薬を多量に摂取すると、主成分のグリチルリチンがコルチゾールの代謝を阻害します。過剰になったコルチゾールがアルドステロン受容体にも結合し、アルドステロン過剰症状である低カリウム血症、浮腫、高血圧などがみられます。甘草を含有する漢方薬の投与中は、浮腫、体重増加、血圧上昇などの出現に注意します。甘草は医療用漢方製剤の7割近くに含まれるため、複数の漢方薬を内服中の方は、特に注意が必要です。
<漢方薬のやめどき>
漢方薬に対する味覚の変化(美味しく感じる時は継続、不味いと感じるようになったら中止)や飲み忘れも漢方薬の減量、中止のきっかけになります。
出典
※1 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を基に筆者作成
※2、3 筆者作成
筆者

回復期リハビリテーションセンター
副センター長 坂元 隆一
自己紹介
鹿児島市生まれで、現在、浜松市に居住。外科医として17年間病院勤務の臨床経験を活かして、現在、リハビリテーション科医として、漢方療法も駆使した全身管理を行っています。急性期でのポリファーマシーを回復期では改善すべく、薬を減らすよう、漢方薬の力も借りながら奮闘中です。
患者様とどのように接しているか
患者さん、ご家族、関連在宅スタッフさん達とコミュニケーションをとることが得意です。病棟看護師、薬剤師、リハスタッフ、管理栄養士、MSW、メディカルクラークさん達と患者さんの情報共有を徹底し、良好なコミュニケーションをとりながら、患者さんの家庭因子(生活背景、在宅環境等)も考慮した生活機能改善を重視しています。
経歴
- 鹿児島ラ・サール高校卒業
- 1982年 浜松医科大学医学部医学科 卒業
- 1982年 浜松医科大学医学部附属病院第一外科研修医
- 1983年 静岡県立総合病院呼吸器外科 医員
- 1986年 富士宮市立病院 外科 (医長、科長)
- 1999年 医療法人社団恒仁会 静岡広野病院
院長/内科・リハビリテーション科 - 2005年 共立蒲原総合病院 リハビリテーション科 部長
- 2006年 静岡市立清水病院 リハビリテーション科 科長
- 2022年 医療法人弘遠会すずかけセントラル病院
総合診療科/リハビリテーション科 部長 - 2025年 総合青山病院 リハビリテーション科
回復期リハビリテーションセンター副センター長(現職) - 【資格・学会活動】
日本リハビリテーション医学会認定臨床医、専門医、指導医
日本栄養治療学会認定医、特別会員
日本プライマリ・ケア連合学会認定医、指導医
日本骨粗鬆症学会認定医 他
好きな言葉
笑う門には福来る
積小為大
発心、決心、持続心
継続は力なり
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
「カレイの野菜あんかけ」は、1食でたんぱく質を22.8g摂取でき、食物繊維、カリウム、リンも補給できて、おすすめです。また、「チキンとキーマカレー風」は葉酸が摂取できるのが魅力的で、とても美味しかったです。












