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“聞こえづらい”への対処とフレイル予防(内田 育恵)

1.超高齢社会のフレイル

平均寿命の延伸により、100歳を迎える人も稀ではなくなりました。一方で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく自立して寿命を全うする方ばかりではありません。健康と要介護の間の中間的な状態である「フレイル(虚弱)」の予防を意識することが大切です。フレイルやその前段階であるプレフレイルのときに、適切な介入や対策をとれば、再び健常な状態に戻る可能性があると考えられています。

フレイルは多面的でいくつかの表われ方をします。①毎日の生活を営むための身体機能が衰える身体的フレイル、②外出減少など社会とのつながりが希薄になる社会的フレイル、③判断力や認知機能低下、意欲の低下や抑うつなどの精神心理的フレイル、がお互いに関連しあっています。

2.加齢とともに“聞こえづらい”は身近な問題に

超高齢社会において、難聴はたいへん頻度の高い健康問題のひとつです。日常生活に支障をきたす中等度以上の程度である難聴者の割合は、地域住民を対象とした調査によれば70歳代では3~4人に1人程度にみられ、その割合は年齢上昇とともに増加します。

難聴はフレイルの身体的な構成要素のひとつでもあり、聞こえづらさに対処せず放置した場合には、コミュニケーション障害や、就業機会の喪失、対人関係の障害、うつ、無気力、社会的孤立などのリスクとなり、さらには認知機能低下に結びつくという連鎖も想定されています。つまり前述した①身体的フレイル、だけではなく、②孤立、孤食、独居、経済的困窮等の社会的フレイル、③精神心理的フレイルが、様々に交錯して悪循環を起こし、自立度の低下を促進していきます。

高齢期の難聴は、年齢を重ねるにつれ徐々に進行するため、日常生活に不自由が出るようになってはじめて“聞こえづらさ”を感じることが少なくありません。自分自身での気づきや周囲からの早期発見に、重要な意味があります。一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、聞こえのセルフチェックを提案しています1)。次のリストでひとつでも当てはまる方は、お近くの耳鼻咽喉科で相談してみましょう。難聴の中には、治療により改善する要素が含まれていることがあり、自己判断せずに専門的な評価を受けることをお勧めします。

3.社会的フレイルと難聴の関係

フレイルのうち社会的フレイルは、社会活動や人との交流機会の減少など、フレイルの社会的な側面を表しますが、社会とのつながりを失うことがきっかけとなり、ドミノ倒しのようにフレイルが進行したり重症化することが指摘されています。社会的な役割や知的な活動が維持されることや、日常生活動作の中でも、掃除や料理、買い物や金銭管理、交通機関を利用して移動するなどの行動が、社会参加により続けられると想定されます。

社会的フレイルの評価のための質問項目2)をみると「ときどき友人の家を訪ねている」や「毎日誰かと会話する」については、難聴があり対策が取られていなければ、障壁になると考えられます。われわれは以前に7つの大学病院の補聴器外来を受診した60歳以上の補聴器初心者さん達を対象に、補聴器を始める前と6ヶ月後で聞こえに関するハンディキャップを比較しました3)4)。具体的な設問のうち

「参加したい会があっても聞こえが悪いためにやめてしまうことはありますか」
「聞こえが悪いために家族と話したいのにやめてしまうことがありますか」
「聞こえにくいことが私生活や社会的な活動の妨げになっていると思いますか」
「何人かで話すとき聞こえが悪いために取り残されている感じや疎外感を感じることがありますか」

などの項目で、高齢難聴者が聞こえづらさのために社会活動や人との交流をあきらめている実情が明らかとなりました。補聴器を使用し始めて6ヶ月後に、これらのハンディキャップが軽減したことも明らかになりました。

4.“聞こえづらい”への対処

人との交流に支障が出るような難聴に対しては、補聴器や人工内耳といった聞こえを補う機器の活用が選択肢となります。聞こえを補う機器の活用が、認知機能や孤独感、社会参加、社会的孤立に対して有益な効果をもたらすことが、大規模な研究調査により報告されています。

他者から心なく聞き返しの多さなどを指摘されることが、人との交流減少や社会的フレイルのきっかけとなり、フレイルの負の連鎖の入口となる可能性があります。たとえ難聴があっても適切なタイミングで正しい対策をとることによりフレイル予防が見込まれることから、“聞こえづらい”と感じたら、是非専門家に相談して、豊かな毎日を過ごしましょう。

  • 参考
  • 1)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 難聴啓発プロジェクト:https://owned.jibika.or.jp/portal
  • 2)Makizako H, et al:Social frailty in community-dwelling older adults as a risk factor for disability. J Am Med Dir Assoc 2015;16:1003.e7-1003.e11.
  • 3)Uchida Y, et al:A multi-institutional study of older hearing aids beginners-a prospective single-arm observation on executive function and social interaction. J Am Med Dir Assoc 2021;22:1168-1174.
  • 4)内田育恵,ほか:プロダクティブ・エイジング(生産的高齢化)社会の実現に向けた難聴者への補聴器導入-補聴器を始めたシニアの変化.日耳鼻 2021;124:1452-1456.

筆者

愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 特任教授
医師・医学博士 内田 育恵

自己紹介

大学卒業後、出身地である愛知県に戻り名古屋大学医学部耳鼻咽喉科学教室に入局いたしました。同教室在籍中に、地域住民を対象とする疫学調査『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences – Longitudinal Study of Aging : NILS-LSA)』に聴覚部門の研究員として参加する機会に恵まれ、医学・心理・運動・身体組成・栄養などの老化・老年病に関わる広い分野の専門家と連携し、現在も研究を継続しています。

疫学研究により得た知見を臨床に還元したり、大学病院の医療現場からclinical questionを研究解析の課題としたり、新たな関心事に取り組んでいます。殊に近年は、高齢期の難聴がもたらす種々の悪影響、認知症、フレイルへの関わり、脳形態との関連に注目しており、研究者チームでの協働や社会啓発に注力しています。

患者様とどのように接しているか

耳のことで受診される方が多いので、ゆっくり、はっきり、ことばを区切ってお話しすることを心がけています。相手の方の表情を見て、伝わっていないと感じたら、大切な部分を繰り返したり、適宜、音声文字変換も活用しています。

経歴

1990年   大阪医科大学医学部卒業
1999年   名古屋大学医学部耳鼻咽喉科文部教官助手
2010年   国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科医長/
      名古屋大学耳鼻咽喉科 非常勤講師
2011年   愛知医科大学医学部耳鼻咽喉科 講師 
その後 准教授を経て
2022年   愛知医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授(特任) 現在に至る
【資格】
臨床遺伝専門医
日本耳科学会認定耳科手術暫定指導医
耳鼻咽喉科頭頸部外科専門研修指導医,補聴器相談医
【学会活動】
2022年~現在      日本聴覚医学会理事
2022年~現在      日本耳科学会理事
2018年~2024年  日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 先端研究委員会委員
2024年~現在      日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 国際委員会委員

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