食べて、動いて、いつまでも自分の足で(出口 尚寿)
年齢を重ねても元気に過ごすために、「筋肉を落とさないことが大切」とよく言われます。
では、筋肉はどのように保たれているのでしょうか。
筋肉は「貯金」ではありません
筋肉は、若い頃につくっておけば、そのまま貯金のように蓄えておけるものではありません。筋肉をつくる蛋白質(筋蛋白)は、毎日少しずつ「つくられる(同化)」一方で、「分解される(異化)」ことを繰り返しています。食事から十分な栄養、とくに蛋白質を摂ることや、筋肉を使うことは同化を促します。一方、加齢や低栄養、活動量の低下、病気などは異化に傾く要因となります。この「つくる」と「壊す」のバランスが保たれることで、私たちの筋肉は維持されています(図1)。つくられる量より分解される量が多い状態が続けば、筋肉は少しずつ減っていきます。

筋肉は「同化(つくる)」と「異化(壊す)」を繰り返しています。食事と運動を組み合わせ、「つくる」力を保つことが大切です。
「食べる」と「動く」をセットで考える
筋肉をつくるために欠かせない栄養素が蛋白質です。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などから摂取した蛋白質はアミノ酸に分解され、筋肉をつくる材料になります。高齢になると食事量そのものが減り、知らないうちに蛋白質が不足していることもあります。
一般に高齢者では1日あたり体重1kgにつき1g程度以上の蛋白質摂取が一つの目安とされますが、必要量は年齢、活動量、病気、腎機能などによって異なります。そして、材料を摂るだけでは十分ではありません。筋肉を使うことが、筋蛋白をつくる大切な刺激になります。蛋白質を含む食事と運動を組み合わせることで、筋肉を「つくる」方向へ働きかけることができます。激しい運動である必要はありません。無理のない筋力運動や歩行など、自分にできる身体活動を続けることが大切です。
筋肉だけでなく、神経にも栄養を
歩くために働いているのは筋肉だけではありません。足の感覚を脳に伝え、脳からの指令を筋肉へ届ける「神経」が正常に働いて、初めて私たちは安全に歩くことができます。神経の健康にも日々の食事が関係します。ビタミンB群をはじめとする栄養素は神経機能を保つうえで重要です。偏った食生活や過度の飲酒は、栄養不足を招くだけでなく、神経や筋肉そのものにも悪影響を及ぼすことがあります。「筋肉のために蛋白質だけ摂ればよい」のではなく、バランスよく食べることが基本です。
では、糖尿病のある人では?
糖尿病のある人、とくに高齢の方では、加齢に加えて筋力や筋肉量が低下しやすく、フレイルやサルコペニアにも注意が必要です。一方、「血糖値を上げたくないから」と食事を減らしすぎると、必要なエネルギーや蛋白質まで不足し、かえって筋肉を失うことがあります。大切なのは、「糖尿病だから食べない」のではなく、「筋肉を守りながら、どう食べるか」という考え方です。食事と運動を上手に組み合わせながら、自分に合った糖尿病治療を続けることが重要です。
「しびれがないから大丈夫」とは限りません
糖尿病のある人に知っていただきたいのが糖尿病性神経障害です。神経障害というと、足のしびれや痛みを想像する方が多いでしょう。しかし、神経障害は自覚症状がほとんどないまま進んでいることもあります。足の感覚が低下すれば、傷や靴ずれに気づきにくくなります。また、神経の働きが低下して筋力やバランス能力にも影響すると、歩くことや外出がおっくうになることもあります。すると、「歩きにくい→動かない→筋肉を使わない→筋力や筋肉量が低下する→さらに歩きにくくなる」という悪循環が生まれます(図2)。

神経障害などから歩く機会が減ると、筋力・筋肉量が低下し、さらに歩きにくくなります。食事、運動、糖尿病管理、足のチェックで悪循環を断ち切りましょう。
血糖値だけでなく、全身をみることが大切です
この悪循環を断ち切るためにも、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値だけを見るのではなく、きちんと食べ、身体を動かし、足の神経や筋肉、皮膚の状態にも目を向けることが大切です。
食べることで筋肉と神経を支え、動くことで筋肉を使う。そして糖尿病を上手に管理し、神経と足を守る。その毎日の積み重ねが、いつまでも自分の足で歩き、自分らしい生活を続けることにつながります。
筆者

副センター長(特例准教授)
出口 尚寿
自己紹介
鹿児島県志布志市出身。鹿児島の自然、文化、人、食べ物、そして芋焼酎が大好きです。内科総合診療、神経内科を経て現在は主に糖尿病診療に従事し、糖尿病と糖尿病合併症、特に糖尿病性神経障害の領域に携わってきました。また、20年以上、鹿児島大学病院NST(栄養サポートチーム)として栄養に問題を抱える患者様に向き合ってきました。現在は初期臨床研修医のサポートを兼務しています。趣味は(ヘボ)ゴルフとカラオケ。その界隈では歌って踊れるドクターとして認知されています(笑)。
患者様とどのように接しているか
笑顔・挨拶・声かけを大切にし、病を抱える人を五感で受け止める診療を心がけています。「人を診て、病を診る」をモットーに、当たり前のことを丁寧に積み重ねる「凡事徹底」を忘れないように努めています。
経歴
- 1985年 鹿児島県立鶴丸高校卒業
- 1991年 鹿児島大学医学部卒業、 同第三内科入局後、沖縄県立中部病院(研修医)、鹿児島市医師会病院神経内科、滋賀医科大学第三内科(国内留学)、鹿児島市立病院内科、鹿児島大学病院 神経内科(助教)を経て
- 2012年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学(新規開設)
- 助教、特任講師を経て
- 2022年 鹿児島大学病院 総合臨床研修センター 副センター長(特例准教授)
- 現在に至る
<主な学会活動> - 日本内科学会(総合内科専門医・研修指導医)
日本糖尿病学会(専門医・指導医) - 日本神経学会(専門医・指導医)
日本病態栄養学会
日本栄養治療学会
日本痛風・酸核酸学会など
好きな言葉
思いやり
ミールタイム パワーアップ食の活用方法
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